到着
父上の命令に従ってロムルス家が仕えているツァウバー王国から出て魔王とやらが率いている軍勢と直接戦っている最前線。
北方の小国であるハルマ公国へと僕はやってきていた。
「おー、結構壮観だな」
ハルマ公国の国境部に急ピッチで作られたという人類側の巨大な壁が続く砦を見て僕は素直な感想を漏らす。
今、僕は人類が築いた砦の内側に守られているハルマ公国の街の中にいるのだ。
『そうだな。これが一晩でやってくれたというのだから人類も進歩したというものだ』
『そうかな?私が少し転がるだけで終わりそうだけど』
『そんなこと言ったら私も一瞬だぞ。そして、ネージュであればどうなるかなど考えたくもないほどだ。大事なのは人間規格でものを考えることだ』
『確かにそれもそうね』
馬車から降りると共に中へと仕舞ったリリスとグリムが色々と話しているのを無視して僕は壁に寄りかかりながら立って街の中で飛び交う人々の言語へと集中しながら意識を向ける。
「───」
そんな折、僕は突然見知らぬ男性から声をかけられる。
「……」
僕は自分へと声をかけてきた男へと静かに視線を向ける。
「……ッ」
僕がじっと、ただ視線を向け続けていたからであろうか。
動揺したであろう男は息をわずかに吞みながら足を一歩後方へと引く。
「もう一度言ってくれませんか?」
そんな男へと僕は静かに声をかける。
『『……ッ!?』』
「えっ……?おう。良いけど……こんなところで餓鬼が一人。何しているんだ?見たところ良いところの生まれみたいだが」
「……なる、ほど、はい。心配してくださりありがとうございます。まぁ、お察しの通りいいところの人間ですよ。これからあそこの砦の総指揮官に会うところだよ」
「そ、総指揮官に!?」
「えぇ……どうしますか?」
「は、はは……少し、気になっただけだ!大丈夫そうならここで失礼する、です!はい。それでは」
僕の言葉を受けて慌てた様子の男はそのままこちらへと背を向けてどこかへと消えていく……言葉巧みに僕を騙して金品を奪おうとしていたのか、それとも普通にただの親切か。
今となってはどちらかわからないが、まぁ良いだろう。
得たいものはもう得られた。
『お、おい……今、会話していなかったか?』
内心で満足していた僕へと恐る恐ると言った形で
『私はこの国の人間の言葉などわからないから何とも言えないが、それでもしていたよな?』
「え?お前らってば普通に全言語を自動で翻訳とかしていたりしないの?」
『そんな魔法あるか!私も人間の言語は普通に勉強しただけで、色々な言語など扱えない!そうだよな?グリム』
『わ、私もそうだね……。え?ノアはそんな魔法が使えるの?普通に現地の人と会話していたみたいだけど』
当然の話ではあるが、この世界でも前世の地球と同じように国が違えばそこの言語も違う。
僕だって普通に数分前であればこの国の言語など分からなかった。
だが、覚えれば別だろう。
「普通に覚えただけだよ。道行く人が使っている言葉を全部聞いて覚えて、重なり合っている部分と会話のシチュエーションから意味を当てはめて、文法とかも法則を見つけ出して……一つずつ丁寧にやっていけば言語を一つ何となくは覚えられる」
これは僕が前世から持っている特技の一つだ。
どこに言ったって十数分いればある程度その国の言語を喋れるようになれるのだ。すっごく便利。
この特技を使って前世の僕は色んな国に行って現地の様々な儀式とかを見たりしたのだ。まぁ、興味深かっただけで有益な情報ではなかったけど。
『え、えぇ……?』
『どれだけ化け物なの?』
「失礼だぞ、さて……砦の方に向かうか」
しっかりと現地の言語を覚えた僕はようやく砦の方へと向かうのだった。
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