忠告

「良い?ネージュは今、主人公としてのルートを辿っているわ!ネージュが強いことは百も承知だけど、それでも主人公は化け物スペック!チートの権化のような男であり、一人だけで物語を完結させられると言われている怪物よ!古龍や悪魔、魔神だって単独撃破出来るような男なの……そんな男であっても幾度も命の危機を迎えるルートに入りつつあるの」


 父上の呼び出しから解放された後、スキアはネージュへと忠告の言葉を話していた。


「はっきりに言って非常に強力よ。ラスボスである魔王は本当に化け物なの。悪魔とか、魔神なんていう存在とは端から違う。世界の歪、が残した何か。法則の埒外にいる存在であり、それに勝てるのはから祝福を受けた者であるゲームの主人公じゃないと駄目なの。どれだけ強くとも、ネージュはあくまで悪役貴族で、主人公の代わりにならないわ。だから、ある程度はゲームの知識も居れて欲しいの。私は父上と行動を共にするせいであまり動けないし、基本的には交流を持たないロムルス家だから……何とかマリーヌに主人公と接触するように動いて欲しい」


「……」


「……ネージュ?」


 言いたいことを焦りながらすべて言い終えたスキアが今になって目の前に立っているネージュの様子に疑問を抱く。

 大好きな弟の前に試練が立ちふさがってしまう……!そんな危機感と焦りが故に自分でも何が何だかわからなくなっていたスキアはようやくネージュがずっと黙りこくっていたことに気づく。


「よ、よく嗅げば……に、匂いもぉ、う、薄い……?」


 いや、そこは平常運転だ。

 問題はネージュが一切つまらなそうな、死んだような表情を浮かべていないことにある。


「し、失礼しまーす」


 おずおずとスキアはネージュの身体へと触れる。


「……ぁ」


 スキアが触れたネージュの身体は何の抵抗もなくゆっくりと倒れていく。

 よく見ると、それは精巧に作られた人形でしかなかった……魔法によって簡単な動きであれば出来るようになっているような。


「あぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!」


 ■■■■■


 どこかで一人の少女が絶叫を上げている頃。

 空で輝く太陽の下で一つの馬車が道を進んでいた。


「それにしてもスキアの話を無視しても良かったのか?」


「良いよ。別に……お姉ちゃんの話長いだもん。それよりもリリスは運転に集中して横転しました。とか嫌だから」


「……はいよ」


 その馬車は悪魔であるリリスが馬を引き、古代より生きる龍であるグラムが馬車に魔物が近づかないように威嚇し、ネージュが魔導書を読んでいるのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る