ルート

「じゃあ、どこに?」

 

 父上へと僕は困惑しながら言葉を告げる。


「半ば異例的なことではあるが、お前には我が国を出て魔王軍と対峙する最前線へと送られることになる」


「……」


 あれ?これは……非常に面倒なことになるやつでは?なんとなくわかるぞ。絶対に面倒なことになると。

 すぐに帰れるような話ではないだろう。


「ネージュの力を見込んだマリーヌ王女殿下直々の命令でな。出来れば受け入れて欲しいところだ」


「……命令ではなく、出来ればなのですか?」


「いや、命令だ」


 父上は一抹の望みをかけた僕の言葉を否定してそう断言してくる。

 そこに一切の慈悲はなかった。


「……そうですか。わかりました。謹んで拝命しましょう」


 僕は父上の言葉に嫌々ながらも頷く。


「うむ。どうかよろしく頼む。長年の勘が言っているのだが、今回の一件は想像以上の大ごとになると。ロムルス家としての職務をしっかりと果たしてきてくれ」


「了解しました……」


 そして、僕は更に続く言葉にもただ頷くことしか出来なかった。


 ■■■■■

 

 ネージュが父上の命令を聞いているその横で。

 彼の姉であるスキアは愕然とした感情を抱く。


「(……お、王女であるマリーヌにその実力を認められてこれから激化する魔王軍との緒戦の最前線に駆り出される───こ、これってゲームの主人公が通っていたルートじゃない。冒険者だった彼は王女に見初められ、魔王軍との緒戦で活躍しながらも挫折を経験し、そのあとは各地の魔族を倒すために一旦は世界を巡っていく。その旅路の最期に出会ったのは魔神であり……これが主人公のルート。それで、これを、ネージュが辿ることになるのかしら?も、もしかして……まだ誰からも主人公はその実力を認められずに一介の冒険者のまま?)」


 ゲームの本筋。

 ストーリーを知っているスキアだけは現状に焦りの感情を抱くのだった。

 

 ……


 ……………


 ……………………


「クソッ!?ここに古龍がいると冒険者ギルドからの連絡を受けたというのに……どうなっているのだ、いないではないか」


 平民上がり。

 村を焼かれ、天涯孤独の身となってしまったという不幸の身であり、常人であれば詰んでしまうような状況下においてもその圧倒的な才格と努力によって冒険者として活躍する一人の少年が天へと伸びるかの如き険しく高い山の山頂で叫ぶ。


「俺の龍……名誉ぉ……一先ずは不安がっているふもとの住民たちにこの事実だけでも知らせよう……うぅ、これを機に俺は他を突き放す名誉を得るはずだったのにぃ」


 どこかの世界線であれば実力者を求めて駆け巡るマリーヌに見初められて立身出世していくはずだった少年はただ一人、山を下りていく───未だ、ゲームにおける主人公の運命は動き出していなかった。

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