第二章 躍動期

呼び出し

 実験体34号ことグリムを手名付けてから約三年後。

 とうとう十二歳となった僕はお姉ちゃんと共に父上に呼び出されていた。


「さて、お前ら。ここ最近、伝説上に存在する魔王を名乗る者を頂点とする組織が動き出したことは知っているだろうか?」


 執務室の方にやってきた僕とお姉ちゃんの前に座る父上は一切の前置きもなしに早速と言わんばかりに本題へと入る。


「……」


 僕はそんな父上の口から出てきた言葉に愕然とした気持ちを抱く……魔王?何だ、それは。聞いたことがない。

 本当に何それ、魔王なんていうラスボスじみた存在がこの世界にいるの?


『おい、この餓鬼。多分しらないぞ、魔王のことなんか』


『そうだよね。私がこいつの下についてからの三年間。忙しくなったとかで段々とやってくる頻度の減ったマリーヌが来ている日以外は一歩も外から出ていないもの。実に妥当と言ったところね』


 内心で驚きの感情を抱いていた僕のことを冷静に分析してくる僕の内側にいるリリスと最近になってようやくリリスのようにその体をすべて魔力へと変えられるようになったグリムが二人で会話を交わしている。


「えぇ、知っています」

 

 僕が自分の中にいる二人への反感を抱いている間にもお姉ちゃんが父上の言葉に頷く。


「最初は特に重要視されていなかったのだが、魔王を名乗る者たちの軍勢の津波は非常に不味くてだな。既に一つの国が滅び、散発的に世界中に散っている少数の実力者が齎している被害は看過できないものとなっている。既に魔王を名乗る存在を伝説に語られる人類の敵、それと同一視する動きが活発になっている。そして、それに伴って我らロムルス家にも動くように要請が来ている」


 結局のところ、魔法があって個々人の実力者が激しい世界においてはその実力者をどれだけ有効に使えるかという点にある。


「我が家は国家の剣であり、盾である。今はまだその本質を覆すことは決定していない。俺たちの役割はあくまで国内。我が国の中、並びに近くに出現し少数の魔王の手先たちの対処だ」


「なるほど、つまりは魔王から世界中に派遣された少数の強者たちの中でも我が国とその近くにいる者たち限定で倒していけばいいんだね」


 自分のやるべきことが分かりやすく明示された僕は父上の言葉に頷く。

 この程度であれば素早く終わって早々に魔法の研究の方に戻れそうだ。


「いや、お前は俺たち二人とは別行動だ。何ならお前は国外に出てもらう」


「……え?」


 僕の言葉を否定して想像外の父上の言葉に対して、思わず困惑の声を漏らしてしまうのだった。

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