決着

 龍の鱗を元として作ったであろう黒色の鎧を身に纏い、背より翼をはためかせて額より伸びる角に大量の魔力を集中させている実験体34号がこちらを延々と睨み続けている。


「うーん。随分と嫌われたものだね」

 

 空を自由自在に駆け抜け、四方八方から僕の方へと突撃してくる実験体34号の攻撃をすべて受け流しながらボヤく。


「というか、速いなー。どんどん速くなってない?」

 

 何かしらの魔法を発動しているのだろう。

 拳を交わしている間もどんどん実験体34号の能力は飛躍的に向上していっている……魔力を増幅させているのか。

 うーん、どうやっているんだ、これ。


「……ッ、ど、どこまでッ!」


「どこまで上がるのだろうか?」

 

 自分の目の前へと拳と共に一瞬で現れた実験体34号と視線を合わせた僕はそのまま腕を掴んで地面へと転がして己のかかとを彼女の首に向ける。


「……ッ」


 それに対して実験体34号は無様に転がりながら逃げて


「もっとギアをあげないと僕に敵わないよ?」


「……ッ!!!」


「待ってあげるから……もっと上げるんだ」


 僕は両手を組み、一切動かさない


「……な、舐めるなぁッ」

 

 実験体34号は木と木をを蹴りながら僕の周り、すぐ横を駆け巡り、どんどんとその速度を上げていく。

 否、上がっているのは速度だけでなくその身に宿る魔力もパワーも飛躍的に上昇している……いいねぇ、どこまであがっていくのだろうか。


「ぉお?」

 

 際限なく上がっていくと思われたその上昇はとうとう限界を迎える。

 結構伸びたけど、無限ではないのか。まぁ、それでも強力であり、摩訶不思議であることには変わらないけど。


『こ、これは……大丈夫なのか?』


「行くぞ」

 

 最高にスピードに乗った実験体34号は僕の周りに残像を残しながら音もなく上空へと打ちあがってそのまま上空からこちらへと突撃してくる。


「ん-、この際だから言うけど人化しても殴りやすくなるだけだよ?」


 恐らくは僕が見えていない読みで上空からの奇襲を狙ったのだろうが、しっかりと見えているのであまり意味がない。

 ただ隙を見せてしまっているだけだ。


「ごぼっ!?」

 

 渾身の一撃として上空から振り下ろされた実験体34号の一撃を半歩ズラして回避し、そのカウンターとしてその腹へと渾身の一撃を叩き込む。


「がはっ、ぉえ」


 僕の拳は実験体34号の身を守っていた黒色の鎧を破壊してそのまま素肌へと突き刺さり、内臓をも傷つける。


「はい、おわーり。僕の勝ちだね」

 

 拳を腹に喰らい、口から血を吐き出しながら力なく僕の肩に項垂れる実験体34号の耳元で勝利宣言をするのだった。

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