些細な覚悟

 順調に魔法でもって魔物を叩き潰していた僕であったのだが、そのどれもが一撃で終わってしまっていたこともあって途中からもう良いよ、と止められてしまった。


「ふわぁ……」

 

 今の僕は魔物と戦う三人の後を進む付き添いになってしまっている。

 特にやることがない……本を持って来ればよかった。


「ネージュ。マリーヌはちゃんと無事でしょうか?負けていたりしませんか?」


「ん?……あぁ、問題なく戦えているよ。何かあったら転移で駆けつけておくから大丈夫だよ」


 僕は自分の隣で心配そうにしているミューの言葉に頷く。

 今はマリーヌが自分だけの力を見る!とか言ってこの森ので多くの魔物と戦っている最中なのだ。

 その間、僕たちは椅子の上に座っている待っていた。

 ちなみに椅子は僕の魔法で作ったものである。


「そうですか……それならよかったです」


 僕の言葉を聞いたミューがほっと一息をつく。


「……あの」


 それからこの場を支配した幾ばくかの沈黙の末に再びミューが口を開く。


「ん?」


「私を、殺してくれませんか?」


「……ん?」


 そして、続く言葉でもって僕を驚かせに来る。


「えっ!?いきなりどうしたの?」


 そのミューの言葉に少し離れたところでせっせと魔物の血抜きに解体を行っていたお姉ちゃん


「私は国民に慕われ、国を任せられた王家の一人なのです。自分の願いだけで、ただ生きながらえてはいけないのです。私は魔神に狙われる身であり、それを強化してしまうかも知れないのですから。国民のために培ってきた己の技術を不届き者に使われるようなことは耐えられないのです」


「はぁ」


 僕は淡々と語るミューの言葉に生返事を返す。


「私は責任ある王家の一人として死ぬべきなのです。ですが、どうしても……どうしても、家族のみんなの想いを無駄には出来ません。こればかりは嫌なのです。両親も、多くの兄弟姉妹も、マリーヌも私に生きてほしいと願っているのです。ですから、自殺するわけにはいかないのです。他人の手で、他人の手である必要があるのです……ネージュなら、頼めると思ったんです」


「僕が容赦なく殺せる側の人間だと?」


「そういうわけではありません。ただ、ネージュなら、己の命を賭してでもやりたいことがあるという、私の願いがわかってくれると思ったのです」


「……なるほどね」


 確かに、確かにそうだろう。

 僕は一度死んだ身であるが故に、死への恐怖も生の尊さもわかっているつもりである。

 だが、それであってもなお目的のためならば死ねる。


「魔物に殺されてしまったかのように偽装してくれれば大丈夫です……そちらのほうがマリーヌも受け入れやすいですから」


「……ふむ」


「死を望みながらも、それでもなお我儘な身で申し訳ありません……それでも、どうか。私を殺しあいたっ!?」


 僕はの言葉の途中で彼女の額にデコピンを一つ。


「な、何を……」


「僕を何だと思っているの?」


「……そ、それはどういう」


「僕とお姉ちゃんの家名は何だ?」


「ろ、ロムルス家、ですが」


「あぁ、そうだ。ロムルス家は国を守る剣であり、盾であり、ひいては王家を守る剣であり、盾でもある。常に我が家は中立であり、内部闘争に関わることはない。だが、外敵であれば話が別だ。国も王家も。長き歴史を持つロムルス家の家名にしたがって職務を果たすだろう」


 何だかんだで僕もロムルス家に生まれ、育った人間である。

 社会に属し、家業に最低限尽くすだけの社会性は持っているつもりだ。


「任せろ」


 ただ一言。

 最後にそれだけを伝えた僕は自分の魔法が感知する大量の魔物に追いかけられて涙目になっているマリーヌの助けに向かうのだった。

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