魔法陣

「ほむほむ……ほむ、ここが……こうなっているから……ここはなんだ?」


 第三王女であるマリーヌとエンカウントし、第二王女であるミューと挨拶を交わした後の僕は彼女たちがこの遺跡に来るために使ったという設置型の転移魔法陣を観察していた。


「……転移魔法の再現はともかくとして……これ、普通に数百年前からあるでしょ。古代文明全般に言えることだけど……どうやって今の時代にまで魔法陣を残して……いや、そもそも何を使って魔法陣を描いているんだ?」


 魔法陣は詠唱によって描くのだが、それ以外の方法として魔力を通しやすい素材や塗料でもって予め魔法陣を描いておくことで詠唱を唱えずとも魔力を流すだけで魔法を発動出来るのだ。

 当然、僕もその方法を使って魔法陣を用意することは出来るが、数百年単位で後世に残せるほどの強度で作れる気はしなかった。


「……どうせなら古代文明に生まれたかったなぁ」


 古代文明。

 一体、そこではどれだけの魔法が栄えていたのだろうか?興味が尽きない……。


「うーん、うーん……流石に削るのは不味いよなぁ」


 魔法陣へと手を付ける僕は小さな声で呟く。

 これを描くために使った塗料をここで削って持ち帰り、分析したい。


「お、お、お、お待ちを……今ここで魔法陣を壊されてしまえば私たちが帰れなくなってしまいますのでぇ!」


 そんな僕のボヤキを隣で聞いていたミューは慌てて声を上げる。


「帰ることは別に出来るけどね?もう僕、転移使えるようになったし」


「……え?」


 ミューの懇願に対する答えとしての僕の言葉を聞いた彼女は困惑の声を漏らす。

 数百年と続く魔法陣の再現は無理だが、転移魔法の再現であればもう出来ている。


「それでさ、二人は魔神を倒そうという心意気で集まっているんでしょう?」


「え、えぇ……そうですね。死は、怖いわけではありませんが、私の体が魔神に使われるのは許せるものではないですし、私を生かそうとしてくれる自分の妹の健気な努力を無下にするわけにもいきませんですから」


 僕の疑問に対して、ミューは既に自分が死ぬことを覚悟しているかのような言葉を告げる。


「……ふむ」


「あいたっ!?」


 僕はそんな彼女の額へと自分の腕を伸ばしてデコピンを一つ。


「死ぬってそんなに良いものじゃないよ。そんな簡単に自分の命を諦めるものじゃないよ。せっかく生きているんだから欲張らないと」


 一度死んだ身だからわかる。

 この世界に転生出来たことは幸運ではあったが……それでも、死が己の前に来た感覚は楽しいものではなかった。


「……ッ」


「ふふっ。それにしても魔神ねぇ……ちゃんと倒してあげないとねぇ」


 神……神、神か。

 実に、興味が尽きない……悪魔たちの住まう世界に生きるということは大した強さはないだろうが、それでも神なのだろう。楽しみだ。


「……笑っ、て」


「さて、というわけで魔神を頑張って倒しましょうメンバーってそこで寝ているマリーヌとその彼女に誘われた僕、そしてミューだけであっている?」


 何故か呆然としているミューに対して僕は疑問の声を上げる。


「え?……あ、はい。そうですね」


「なるほどね。それじゃあ、僕のお姉ちゃんも巻き込んじゃおうかな。役に立つでしょ」


 原作知識なんてものは僕にないが、彼女ならば持っているはずだ。

 お姉ちゃんに聞けばある程度のことはわかるだろう。


「ミュー。自分の妹を起こしてあげて。僕は転移の準備をしておくから。僕の屋敷に戻る」


「え、えぇ……わかりました」


 ミューが床でぐっすり寝ているマリーヌを起こしている様子を横目に僕は転移魔法の詠唱を行っていくのだった。

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