秘密基地

「……何かの勘違いじゃないか?」


 慌てた様子を見せるマリーヌに対して僕はとぼけて見せる。


「えっ!?そ、そんなはずは……」


「別に外の方には敵の姿はないし、ちゃんと結界自体もあるぞ?それに、ここにやってきた僕としても何か大きな魔法を見たりはしなかったぞ?」


 そして、堂々と偽りの事実を並べていく。


「そ、そう……なのか?……と、というかだ!なんでここにネージュがいるんだ!?」


「なんで、って言われても自分の領の中に巨大な遺跡があったら否が応にも反応するほかないだろう。僕はわざわざ地上の方から魔法でここにまでやってきたんだよ。調査のために」


「えっ!?こ、ここってロマルス領なのか!?」


 僕の言葉を聞いたマリーヌが驚愕の声を上げる……知らなかったのか。


「そうだよ?だから、僕としてはむしろ……なんで王家の人間がここにいるのかを問い詰めたいところだね。我が家の叛意ありかな?」


「いやいや!!!」


 僕の疑いの視線を必死にマリーヌは首を振って否定する。


「決してそんなことはない!断じてないから!安心してくれていい!全然大丈夫だから!本当に大丈夫!心配することはない!本当にここがロマルス家の領内だとは知らなかったんだ!」

 

 そして、そのままマリーヌは必死に弁明の言葉を口にする。


『……お主、多分壁画の内容からここが王家とは大して関係ない遺跡であることは織り込み済みであろう。責任転嫁に動いていないか?ちゃんと攻撃しただろう。魔法を使って』


「……」

 

 妙に察しの良いリリスを僕は華麗にスルーしてマリーヌに疑いの視線を向け続ける。


「土足で領内へと踏み入ってしまってすみません、ロマルス家のネージュ様。ですが、本当に我らに敵意があるわけではないのです」


 疑われ続けるマリーヌをやんわりと押しのけてその後ろに控えていた少女が前へと出てくる。


「自分は王家に仕える貴族家の一つですから。自分に様付けは不要です……それで?何でしょう」


「ありがとうございます……ここは我が家に半ば伝説として語り継がれる場所なのです。私たちの一族が王朝を継ぐよりも前から残されている伝説の地、魔女の住処。今となっては魔女が何者かもわからず、ここにある遺跡の壁画もまったく解析の出来ないここは、王家に伝え続けられているだけの意味のない場所だったのです。そこを私たちは自分の秘密基地にしようと画策したのです」


「……秘密基地ですか」


「えぇ。そうです」


 僕の言葉に少女は頷く。


「私は訳あって強力な敵に目をつけられている状態でして、それに対抗するための秘密基地を欲していたのです。その点、我々王家にのみ伝わっている魔法陣から転移という滅びた古代の超文明の遺産とも言える魔法でやってこれるここは秘密基地として


 転移に古代の超文明か。

 割と王家にしか伝わっていない魔法に関する知識とかもあるのかな……むむぅ、けしからんなぁ。

 我が領地に土足で踏み入るとか実にけしからん。


「……わかりました。ひとまずは信じましょう。ということで少々お話は変わりますが、お名前は何でしょうか?」


 でも、今はちょっとだけ許しちゃう。


「すみません、申し遅れました。私はミュートス・アハテムと申します。そこにいるマリーヌの姉である第二王女にございます。気軽にミューとお呼びください」


 内心、古代文明の方へと意識が飛んでいる僕へと目の前にいる少女こと、ミュートス・アハテムが深々と礼をするのだった。

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