ゲーム
お姉ちゃんの口から出てきたエポスタという単語。
「えっとね、まずこの世界はエポスタっていうゲームの世界なんだよ」
それをお姉ちゃんが説明してくれる。
「ゲームの内容としてはオープンワールドRPGの一種よ。魔王の手によって己の住む村を焼かれた主人公が復讐を果たすため、立身出世しながら戦っていく物語よ」
「……ふむ」
「その中でネージュは主人公の前に立ちふさがる敵として登場するわ。平民出身でありながらデカい顔をしている彼に煩わしさを感じたゲームの中のネージュがその邪魔をしようと幾度も立ちふさがるわ」
「はぁ」
「それで最終的に幾度も主人公に負け続けたネージュは最終的に悪魔の封印を解き、その悪魔に体を乗っ取られた状態で主人公の前に立ち、最終的に殺されてしまうわ」
「……リリスのことか?」
悪魔。
お姉ちゃんの口から出てきたその単語に僕は強い既視感を覚える。
『多分、私のことね』
リリスにだけ向けた僕の言葉に彼女が頷く。
「お前如きが……なんてちょっと意外なんだけど」
『これでも周辺諸国を灰燼に帰したんだが?私は』
「それならそれにふさわしい言動をしてほしいんだけど……なんで定期的に僕を諫めてくるの?なんか僕の方が常識ないみたい」
『それはそうであろう』
「……えっ?」
僕はリリスと会話を交わす。
「……ごめん、刺激が強かったかしら?」
だが、僕がリリスに向けた特殊な言葉が他人に伝わることはない。
ゆえにリリスと会話している間を他人が僕を見れば沈黙しているように映ってしまうのだ。
そのせいでお姉ちゃんは自分が死ぬという事実を聞いた僕がショックで言葉を失っているのだと勘違いしてしまったようだ。
「いや、別にそんなことないよ?というか、別にショックを受けるようなこともないわでしょ。別に僕はそのゲームの主人公がどうなろうと興味はないよ。別に日本人である僕に選民思想なんてないし。
「まぁ……それは、そうね」
「でしょう?話を聞いた感じ全然興味はそそられないかなぁ。魔王には興味あるけど……だからと言って何かしたりとはかなぁ。今の僕の興味は前世だと広く浸透していなかった魔法だけ。魔法を極める以外に己の目的はないよ」
「……見ていて、それはすごくわかるわ」
「でしょう?だから、ゲームがどうのこうのとか、主人公がどうのこうのとかはあんまり興味ないわ。だから闇落ちの心配はしなくて良いよ」
「まぁ、日本人が闇落ちしていたら少し怖くもあるけどぉ」
「それもそうだね」
僕はお姉ちゃんの言葉に頷く。
割といそうだけどな?現代人でも闇落ちするやつ。
「でも、ゲームの方にも興味はないから別にストーリーとか、要素とか、何が起こるかとかは詳しく教えてくれなくて良いよ。ストーリーに関わらずに僕は辺境の地で我が家に生まれた役目を果たしていくだけだし。それに、生きているうえでのネタバレになって楽しめる事象があっても楽しさ半減しそうだし」
「……わかったわ」
僕の言葉にお姉ちゃんが頷く。
「それでもゲームの知識を持っているお姉ちゃんから見て力が必要な事態になったらいつでも頼ってきて……これでもそこそこ強いから」
「いや、だいぶ強いと思うよ?……別に私もそこまでゲームのストーリーに関われているわけじゃないから何とも言えないけどぉ……うん、何かあったら頼らせてもらうね」
「うん、任せて」
「頼もしい弟がいて嬉しい、なぁ……」
「ということで帰っていいよ?僕は後ずっと本読んでいるから」
「ひどくない!?も、もうちょっといさせてよ……ただ、見ているだけだからぁ……」
「……」
僕は自分のすぐ隣に座ってこちらを永遠と見続けてくるお姉ちゃんに何が楽しいのかと疑問に思いながらも、本の方へと意識を落とすのだった。
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