魔神
予想通りというべきか。
「……何でしょう?」
連日連夜、第三王女は僕の元へと通い詰めていた。
今日も今日とてやってきた第三王女の方へと視線を送った僕は自分の手元にある魔導書から視線を少しだけ外して彼女へと送る。
「いつものよ。少しでもネージュと言葉を交わしておきたくて」
それに対して、第三王女が笑顔で僕に向かってそう告げる。
「……」
いつもならば、その第三王女の言葉を雑に扱ってそのまま追い返しているのだが、今日ばかりはそういうわけにはいかない。
「……あぅ、……ぁあ」
今日、僕の隣には面倒なことにお姉ちゃんが居るのだ。
何が不都合かというと、何故かはわからないけどお姉ちゃんは僕への道徳教育に熱心であり、
「……とりあえず少しくらいは話を聞いてあげるよ」
そんなお姉ちゃんの前で……クソ、普段であれば将来、結婚して立派な子供を産むために母親の元で勉強しているはずなのに、なんでこういう時に限ってお姉ちゃんが僕の元にいるんだ。
まぁ、毎日のようにやってきていたからいつかは衝突するだとうとは予測していたけどね。
「えっ!?いいの!?」
長らくの間、拒絶し続けていた僕が
「あ、あわわ……」
「まずはあの時の失礼の再度謝らせて頂戴。失礼な、態度を取ってしまったわ。本当にごめんなさい。それでも……それでも、私にチャンスをくれないかしら!?失礼な態度を取ってしまった身だけど!どうしてもお願いしたいことがあるの……っ!」
「……」
これは、聞かなきゃいけない奴かな?
「……まずは話を聞くだけなら」
「ありがとう!まず、話は数年前にさかのぼるわ。これは私の話じゃなくて私の姉の身におきた話なの。私の姉はとびきりに美人で何より、ちょっとした特別体質だったの。肉体強度が常人よりも遥かに高く、小さな子供の身であっても大岩を持ち上げることくらい容易かった……だからなのかな、厄介な相手に目をつけられてしまったの。そいつは姉の体を乗っ取ることを目的として私の姉の前に降り立ったわ」
「……」
話が長い。
「その相手は魔神を名乗り、圧倒的な力で王城に詰め寄せていた精強なる騎士団もはじき返して私の姉へと呪いをかけたわ。私はそんな───」
「魔神……神だって?」
適当に第三王女の言葉を聞き流していた僕はその話の途中に出てきた言葉に食いついて、彼女の言葉を遮って己の言葉を上げる。
「え、えっ……あっ、うん、本人はそう名乗っていたよ」
だが、そんな僕への興味とは裏腹に、第三王女はほとんど情報をもっていなさそうであった。
『……それは、少し不味いわね』
そんな折、少し予想していなかったところから魔神に関する情報が飛び込んでくる。
「何か知っているの?」
『えぇ。魔神は私たち悪魔が暮らす魔界に生息する上位存在。その実力は私たち悪魔たちなんかとは比較にならないわ。ネージュだって敵わない埒外の存在であることは間違いないわ」
「……へぇ」
悪魔たちの上位存在か。
たいぶ、生物的には超越している部類の悪魔たちより上……少し、なんか違うような気もしなくないけど、それでも面白そうだ。
「……良いね、実に良い」
『待ちなさい!?私の話を聞いていたのかしら!?相手は、本当にダメな奴なのよ!』
「シャラップ。そもそも君からしてみれば自分を縛る敵が居なくなった万々歳でしょ、大人しくしててよね」
『……ぅ』
僕は食い下がってくるリリスを一蹴して第三王女の方に視線を送る。
「乗った。婚約は置いておいて、魔神に関することは僕も首を突っ込むよ……ところで、そもそも名前なんだっけ?」
第三王女へと協力することに決めた僕は勇ましくそう告げ───よくよく考えてみれば未だに名前すら聞いていなかったことを思い出して疑問の声を上げる。
「そ、そこから!?」
そんな僕の言葉に対して第三王女は酷くショックをうけたかのような表情を浮かべるのだった。
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