模擬戦の前
なんでこうなった?
婚約者話から発展し、模擬戦となってしまった現状を前に僕は一人で呆然と立つ。
普通であれば周りの大人も止めるだろう。何故ノリノリで模擬戦を推奨しているんだ。ただ僕の実力を知りたいだけだろうけどさぁ。
見世物にされるこっちの身にもなって欲しい。
『ネージュ……全力でやるなよ?』
「なんで幾つもの国を滅ぼした大悪魔に言われないといけないの?」
『別に私は世界を壊そうとまでしてないわ!?』
「え?何、僕は世界を壊そうとしているって思われているの?」
『ちょっとした不注意で壊しかねないわ』
「流石にないわ」
世界を壊すとか難易度高すぎるでしょ……いくらなんでも出来ないよ。
僕が修練場の中央でポツンとただ一人で立ちながら、リリスと会話している間もずっと向こうさんサイドは揉め続けている。
「どういうことなの!?あの子の相手くらい私で十分よ!」
「向こう側からの要請であり、断れるものでもないのだ。お前は見ているだけでも彼の実力は理解できるだろう?」
「申し訳ありませんが……ここは私に任せてはくれないでしょうか?」
話の内容は僕の模擬戦の相手を適当な騎士に任せたい僕を含めた周りの人間と、自分が戦うと言ってきかない第三王女の争いである。
第三王女、じゃじゃ馬すぎるでしょう。これを放置は大丈夫か?色々と心配になってしまうぞ?のびのびと育てすぎじゃない?国王陛下さんよぉ。
『辞めておくのだ……少女よ、こいつに挑むのだけは……うっかりで殺されてしまう』
「ねぇ、お前は僕のことをラスボス扱いするのそろそろやめてくれない?泣いちゃうよ?……というか僕はいつまで待たされるんだよ。そろそろ一発撃っても良いよね?口を借りるよ」
『むぐっ!?』
僕はサクッとリリスの口で詠唱を済ませると、それに向かって火球を飛ばす。
「「「……ッ!?」」」
「ほら、そこの女騎士。出てこいよ。一人だけ鎧着て剣も持っていて万全の状態なんだし、ちょうどいいでしょう?さっさと済ませようよ」
魔法で全員の注目を浴びた状態で僕は第三王女の近くに立っている女騎士を指名しながら言葉を話す。
「ちょ、ちょっと!?」
それに対して第三王女は抗議の声を上げる。
「立場上は第三王女殿下の方が上ですが、ここは我々の領地であり、屋敷の中でございますので、こちらに従っていただけるようお願いします……ということでお願いしますねぇー」
だが、そんな声を軽く受け流した僕は魔法で無理やり女騎士の体を引っ張り上げて自分の前へと引きずり上げる。
「……ッ!?」
逃れることの出来ない強制力を前に困惑する女騎士は動揺を見せながらなんとか逃れようと藻掻き苦しむ……そんなことしなくともさっさと解放するけどね?
僕は女騎士を自分の前に立たせたところで魔法を解除する。
「別にそんな慌てなくともすぐに離すよ。ごめんね?適当な扱いしちゃって……でも、ほら。早く済ませちゃったから。それに、僕がちょっとだけイライラしちゃったのも理解してくれるだろう?」
僕は早く魔法の研究に戻りたいんだ。
こんなところにいつまでも時間を使ってはいたくない。
「え、えぇ……わかっております。改めて申し訳ございません。我らが姫の無礼な行いをここで謝罪したく」
僕の言葉に対して女騎士は少しだけ慌てた様子を見せて頭を下げながら言葉を話す。
「別に謝罪するまでもことじゃないよ。あれくらいの年だったら元気なくらいがちょうどいい……そんなことより始めようか」
「えぇ、そうですね……それでは、お手柔らかにお願いします」
僕の言葉に頷いた女騎士はさっき引きずられたことを気にしているのか、一切の油断なく剣を構えて静かに臨戦態勢へと入るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます