婚約者

 僕が混乱から立ち直らぬ間に父上は勝手に応接室の中の方に入って行ってしまう。


「ほら、ネージュ。立ち止まってどうした?」


 そんな父上は立ち尽くしていた僕の方へと視線を送って疑問の声を上げる。


「……すみません」


 結局のところ、今の僕は扶養されている側の人間である。父上の言葉を堂々と拒否することは出来ないだろう。

 ゆえに、僕は大人しく父上に従って中で待っていた二人の人物へと近づいていく。

 一人はアハテム朝第五代目のツァウバー国王ヘネラール・アハテム。

 

 そして、もう一人が一人の少女である。

 黄金のように輝くショートカットの金髪に宝石のように輝く青い瞳を持つ僕と同年代に思われるその少女こそが僕の婚約者候補としてあがってきているという第三王女であろう。


「すみません、お待たせしました」


 一歩離れたところで立つ僕をよそに父上が言葉を話し始める。


「いえいえ、この程度であれば問題ないとも」


 我らロムルス家は冗談ではなく本気で国防の要なのだ。

 そんなロムルス家の当主である父上を相手にするときは国王であってもそこまで強きには出れないだろう。


「そちらにいるのが噂に行くロムルス家に生まれた長男、ロムルス辺境伯子息であるかな?」


「お初目にかかります、国王陛下。私はネージュ・ロムルスと申します。以後、お見知りおきを」


 僕は貴族としての礼節をもって一礼しながら己の名前を告げる。

 ちなみにロムルス家は武骨な家と知られているので、礼節のところは割と適当でも許されることが多い。

 やっぱ、国防の要であり、辺境の守護者であるロムルス家には礼節に重きを置いていないで強くあってくれよ?という希望である。


「これは丁寧にありがとう……どうかね?念願の男の子は可愛いか?」


「えぇ、それはもちろんですとも。この子も順調にロムルス家を継ぐ者として日々牙を研いでいるようでして。実に頼もしい限りでございます」

 

 そんなことを言っている父上は僕とスキルツリーの伸ばし方が全然違う。

 僕は己のスキルツリーを魔法に特化させているのに対して、父上はひたすら筋力に特化させている。

 かなり早い段階、誰でもできるような基礎を少しだけ応用させただけの状態から父上は僕のやっていることを理解出来ていないので、もう僕の成長を一切理解出来ていないだろう。


「それは素晴らしい。流石はロムルス家だ。我が家よりも遥か昔より辺境の地を常に守護し、中立の立場で国をすぐ傍で支えていた名家である。これからもロムルス家には常にツァウバー王国のために尽くしてほしい」


「えぇ、もちろんです。たとえ、どこの血が入っていようとも変わりません」


「それならばこちらも安心できるという者だ……その上で、だ。我が娘との婚姻関係を結ぶのはどうだろうか?国全体として、外敵へと立ち向かえるようにするために」


 父上と国王陛下が中心となって話を進め、とうとう婚姻関係の話が切り出される。


「少しお待ちください。お父様」


 だが、そのようなタイミングの中でこれまでずっと国王陛下の隣で座って沈黙を保ち続けていた第三王女が口を開く。


「私は言ったはずです!私の婚約者となる人物は強い人が良いです、っと!ですが、なんですか!このちんちくりんは!決して強そうではないじゃないですか!もう!ほら、そこでぼーっと突っ立っている貴方!九条家に相応しい実力があるのであれば今すぐ表に出なさい!この私が直々にその実力を暴いてみせるわ!」


 そして、そのままの勢いで立ち上がってあまりにも突然すぎる宣戦布告を第三王女は僕の方へと突きつけてくる。


「……えぇ?」

 

 何故婚約者話から、その婚約者本人から宣戦布告の狼煙を受けるのだろうか?

 いきなり喧嘩を売られた僕は無表情のまま、困惑の声を漏らすのだった。

 

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