悪魔

 背後から僕に抱き着いたと思いきやいきなり全力で距離を取る悪魔へと僕は静かに視線を送る。


「……悪魔、ねぇ?」


 悪魔というのだからどれほど恐ろしい見た目なのかと思っていたけど、普通に可愛らしい見た目をしているじゃないか。

 美しい真っ白な髪が腰にまで伸びている頭からはまるで羊のような二本の角が生え、その褐色にして整った相貌の中でまるでワニのように縦長の瞳孔を持つ翠の瞳が輝いている。

 露出の多い服装は自身の抜群のプロモーションを存分に見せつけており、背より生える漆黒の羽が生えそろう二対の翼は何処か堕天使を思わせる。


「もう終わりかい?」


 だが、今は悪魔の美しい見た目よりも遥かに


「……ッ!あまり舐めるなよ!人間がァ!」


 僕の言葉にプライドが傷つけられたのか、悪魔は再び詠唱もなしに魔法を発動させる。


「……ふむ」


 女悪魔が発動させたのは彼女の周りに浮かぶ紫の光の球体から放たれる無数の光線である。蝶々が舞う黒い空間の中で光線は自由自在に乱反射して四方八方から僕の方へと迫ってくる。

 

「(……ッ!?な、なんだこの結界は!?ぜ、全然貫けない!!!)」


 だが、それらの光線は僕が展開した結界に阻まれて本体にまで届いてはこない


「光、かな?」


 僕はすべての攻撃を弾いている結界を一部解除し、そのまま先ほど喰らったのは別の指で魔法を受ける。


「なるほど……光にしてもだいぶ複雑だな。なるほど、なるほど。こういうふうに構成させれているのか……初めてみる、これは。実に興味深い」


 僅かな光が僕の指の中で暴れている間も悪魔は同じ魔法を連射し続けている……悪魔の使う魔法はどれも僕の見たことないものばかりで実に興味深い、が。僕の貼った結界を貫けはしないのか。


「次はないの?もっと……僕をワクワクとさせてくれるような魔法は」


「~~ッ!!!」


 悪魔は僕の言葉を受けて、その相貌を怒りに染めながら両手を合わせる。


「堕天の眼光よ!暗く輝け!」


 そして、次は詠唱も唱えた後に特大の魔法を発動させる。


「へぇ」


 悪魔の手から放たれたのは一つの光───空間を覆う黒よりも黒い、光り輝く蝶々でも照らせない永久の黒の光だった。


「……っ」

 

 一体どういうことだろうか?

 悪魔の魔法を結界で受け続ける僕は首をかしげる。


 見た感じ、この魔法に編み込まれている詠唱は、ただ一つじゃない。

 二つ……いや、三つかな?同時に編み込まれた幾つもの詠唱によって構成される魔法は

 口がない限り詠唱は一つしか出来ず、こんなことは出来ないはずだが……これは先ほどの無詠唱で魔法を発動させていたことにも関係があるのか?内容自体は先ほどの魔法の上位種で目新しいものはなさそうだけど。


「……はぁ、はぁ、はぁ、どうなっているの?」


 結局、僕の結界を自分で貫けなかった悪魔は体を振るわせながら驚愕の表情を浮かべる。


「今よりも強い魔法は使えないのかい……あれじゃあ僕の結界を貫くなんて逆立ちしても無理だけど」


「……ッ!わ、私にだったまだ奥の手、がぁ……」


「嘘か」

 

「……あふっ!?」


 僕は悪魔の声色を聞いた彼女の言葉が嘘であると看破する。


「そうか、そうか……それじゃあ、次は防御魔法を見せてくれ!」


 僕は自分の中にある魔力を爆発させる。


「■」


 そして、一瞬にして詠唱を完了させる。


「……まっ!?!?」


「魔撃天」


 ただ魔力に指向性を与え、一つの剣にするだけの魔法を驚愕の表情を浮かべた悪魔へと叩きつける。

 すべての光り輝く蝶々がはじけ飛び、黒い空間が消滅するだけでは飽き足らず、封印書庫ごと吹き飛ばし、僕の結界で保護された本棚だけが空を舞うような中で。


「あれま、思ったよりも脆い」


 全身をボロボロにさせて地面へと倒れ伏す悪魔を前に僕は率直な感想を漏らすのだった。

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