封印書庫
表のほうにある書庫から特殊な方法でやってくることの出来る地下にある封印書庫。
「お邪魔しまーす」
そこの入り口にかけられていた結界をサクッと解除した僕は封印書庫の中へと入っていた。
「ふへへ……これは、これはけしからん。けしからんですぞぉ」
封印書庫。
その名を冠するだけのことはあり、中に納められている魔導書の数々はどれも中々に刺激の強いものばかりであった。
文明レベルが中世のくせに倫理観がしっかりとしているこの世界だと魔法の研究としてなかなか過激なことは出来ない。
だが、ここにある魔導書には数多くの人体実験の結果などが記されている。
「これは……これは、これは」
僕は食い気味になりながら魔導書にかぶりつき、読み進めていく。
「って、僕の本題はここじゃないんだよ」
このままこの一冊だけで一晩超せてしまいそうな僕は慌てて魔導書を棚の中へと仕舞って、視線を背後へと送る。
「やっぱりここに封印されているらしい悪魔の存在は気になるよねぇ」
封印書庫。
ここの目的の一つに禁書扱いされている魔導書を一目につかないところで保存するというものがあるが、それとは別に主な理由が存在する。
それは遥か昔、未だにツァーウバー王国が小国であった頃、敵国が召喚したは良いもの制御出来ずに暴走させ、召喚した国はおろかその周辺諸国すらも滅亡させ、最終的に初代ロムルス辺境伯の当主が辛うじて封印したという伝説の悪魔。
その悪魔の封印を維持するという目的がここにはあるのだ。
『……わた、しの……ふういん、を……』
封印書庫内部に置かれている一つの本の中からノイズの入った聞き取りにくい声が発せられる。
「封印を解いて欲しいんだね?もちろんいいとも」
僕は高速で詠唱を終わらせて魔法を発動させ、悪魔が封じられていた本にかけられていた封印魔法を解く。
「……ふむ」
それと共に僕の鼻腔を甘い匂いが刺激すると共に封印書庫内部の風景が黒く染めあげられていく。
「あらあら、いけない坊主ねぇ?そんな迂闊に封印を解いちゃうなんて」
そして、真っ暗になってしまった空間の中で光源としてその場を舞い始めた淡く光る蝶々に僕が視線を奪われていた間に背中の方から重さを感じると共に耳元に声を吹きかけられる。
「このまま私とおねんねしちゃいましょう?」
封印書庫内部を黒く染め上げたのも、その書庫の中で舞っている蝶々たちもすべて魔法によるものであろう。
僕はそっと指を蝶へと伸ばす。
「……ふむ。僕の知らない魔法発動プロセスだな。言霊なしに魔法が発動できるのか、ひどく興味がある」
自分の指の上に止まった蝶はそのまま燃え始め、僕の指を燃やし始める。
「ふっ」
僕は魔法を込めた吐息だけで蝶を消し飛ばすと、皮膚が解けてしまい、肉がむき出しになって血が溢れるようになってしまった自分の指を舐める。
この魔法も、そして何よりも悪魔は一切の詠唱もなしに……あぁ、楽しませてくれるじゃないか。
僕は想像以上の存在を前に笑みを深めるのだった。
■■■■■
自分を激闘の果てに封印した英傑の子孫が何も考えずに己の封印を解いたことに対して、定命の存在である人間の儚さを感じつつも悪魔は自分の封印を解いた少年の背後に立ち、その子の魔力へと触れる。
「(……なんだ、この餓鬼。全然、体をうば───ッ!?)」
その時、悪魔が見たものはなんであったか。
深淵か、神か───そう錯覚させるほどに小さな少年の身に渦巻いている膨大な魔力であった。
「こ、れは───ッ」
少年の身に自分の魔力を流し込んで強引に体を奪おうとしていた悪魔は決して入り込めそうにない魔力の密度に悪魔はゾッとする。
「さぁ……もっと、楽しませてくれよ」
そんな悪魔へと少年は悪魔よりも悪魔らしい笑みを向けて来るのだった。
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