書庫

 時が流れるのは非常に速いものである。

 スキアのおかげで初めて魔法に関する本を読めた日から早いことでもう五年、僕は九歳になっていた。

 この年にもなれば一般教養も教えられるようになっており、既に僕はもう自分の立ち位置を理解していた。


 僕の父はアレイズ・ロムルス。

 世界でも有数の国力を持つ魔法大国であるツァウバー王国の貴族の中でも有数の大貴族であるロムルス辺境伯の長男として生まれたのがこの僕、ネージュ・ロムルスである。

 想像以上に重要かつ大事な立場にあると言っていいだろう。

 

「おや?貴方はロムルス閣下のご子息であられるネージュ様ですかな?」


 そんな僕が辺境伯の本館として恥ずかしくないよう豪華になっている廊下を小走りで進んでいたところ、自分と同じく廊下を歩いていた一人の貴族に話しかけられる。


「悪いが、僕がここにいたことは周りの人間には内緒で頼む!」


 僕は話しかけてきた一人の貴族とそれに付き添う形で立っていたもう一人の男に手を合わせながら告げる。

 これでも大貴族の長男なので学ばなきゃいけないものが多く、我が家のものに見つかってしまえば魔法研究よりも前に勉強の時間にされてしまうのだ。


「もちろんですぞ。将来、我が国の最重要地点であるこの地を守る大貴族の当主になられる方からの印象は高く持っておきたいからな!」


「ありがたい!それでは失礼するぞ!貴公の名であるロイロスト子爵の名前は覚えたぞ!」


「おぉー!それはありがたい」


 父とも懇意にしているロイロスト子爵家の当主の横を通り抜けた僕はその先へと進んでいく。


「にしても、やはりあのネージュ様は素晴らしい。必ずや立派な当主となれるだろう。今のうちに少しでも印象を売れたのであれば僥倖だ」


「少々魔法にのめりこみすぎなようも気もしますけどね。まだ学力の方は年齢的にも良いとして、もう少しその他の教養ならびに芸術などへの理解を深める必要があるように見えますが」


「何を言う。結局のところ、常に敵国との戦争に警戒しなければならない辺境を統べる辺境伯にとって一番重要なのは武力と言える。その武力の象徴である魔法を極めようとする子など、これ以上ないほどの人選ではないか。四歳でスキア殿に魔法の本を見せられて以来、常に魔導書を手に持つあの御方が将来、どうなるのか……今から楽しみだ……」


 馬鹿みたいに広い屋敷の中を進んできた僕は一つの部屋の扉の前へと立つ。


「ふむ、相変わらず素晴らしい蔵書の数だ。なかなか……これは素晴らしい!」


 前世の図書館を彷彿とさせてくれるほどの蔵書数を誇る我が家の書庫へとやってきた僕は歓声を上げる。

 多くの叡智が詰まっているここへと足を踏み入れるだけでテンションがあがる。

 ここままここで読書タイムと行きたいところではあるが、今日の僕の目的は下。ここの地下にある封印書庫である。


「ふんふんふーん」


 厳重に立ちいれないようになっているせいでいつ入るか悩んでいた僕はとうとう入ることを決意してここに来たのだ。

 

 今日は我が家に多くの貴族を招いてパーティーを行う日である。

 父上も、そして自分を普段見守っているメイドたちも今日ばかりは忙しい。僕が抜け出し、この書庫で地下へと通じる道を自分一人で開くまでの時間が今、この時であればあるだろう。


「お邪魔しまーす」


 実に複雑怪奇な封印を解いて地下へと通じる階段を出現させた僕はゆっくりとその階段へと足を踏みいれるのだった。

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