魔法

 僕はかなり家格の高い貴族家にでも生まれたのだろう。

 ネージュに抱えられて進む屋敷の廊下には高そうな絵やら壺やらが置かれており、敷かれているカーペットもかなり質が高いだろう。


 そして、自分の姉であるネージュの部屋の中もまた明らかに質が良い家具類しか置かれていない。


「それでここの話は……」


 そんな部屋の中央で、高そうな椅子を意味のないものとする愚行。

 床にそのまま胡坐で座り、その膝に僕を乗せているネージュが耳元で手にある魔法に関する本の内容をいちいち補足を入れてきたりしながら中身を音読する。

 四歳を相手にする態度だとしたらこれが正しいのかもしれないが、それでもちょっとだけウザったいよね。

 別に一人で読めるし……本だけ欲しい。


「……」


 僕は自分の耳元で話しているスキアの言葉を無視して本の内容へと視線を走らせる。


「……もらうね」


 だが、読む速度がいちいち遅くてイライラしてきた僕は勝手にスキアの手から本を強奪して勝手に先へと進めていく。


「え、えっ……ほ、本って、中を見るもの、なんだよぉ?ペラペラめくって遊ぶものじゃなくて」


「もう、字読めるから」


「えっ!?早くない!?そ、そこそこ難しい言葉もあるよぉ?」


「……いい」


 知らない単語なども多々あるが、文字の形や前後の文脈からなんとなくわかる。


「そ、それでもお姉ちゃんに頼ってくれても、良かったり……」


「別にいらない」


 僕は食い下がってくるスキアの言葉を一刀で切り伏せる。


「ぐふっ……ぐ、ぐぅ……で、でもネージュからぞんざいな扱いされるのも、少し、きもちいぃ。ぐへへへへ」


 僕は本の内容へと意識を落として、その中身を高速で読み進めていく。

 思ったよりも緩いな……すべてを読み終えた僕は感想を漏らす。

 魔法とはこの世界の理の一部を捻じ曲げたり、逆に理をなくしてみたり、新しい理を作ったりすることで発動させる奇跡の一種。

 

 その方法とは言葉に魔力を込めるだけ。

 一種の数式なような世界の理へと『言葉』という代入や因数分解などのような数学的なプロセスで数式を変化させるのだ。


 言葉で数式を描き、大元である巨大な数式、世界の理へと介入するのが魔法。

 魔法を発動させるの為の言葉を詠唱。

 詠唱を唱えると空気中に描かれ出す複雑な模様を魔法陣とこの世界では呼んでいるよだ。

 

 詠唱が言霊であり、魔法陣が護符などであると考えれば前世とも通じるところはあるかな。

 それで、その魔法の規模を大きくしたり、複雑にしたり、威力をあげたりしようとするのに必要するのに一番必要なのは魔力だ。破綻しないだけの理論と無限の魔力があれば理論上、どんなことでも出来そうだ。

 

「……まぁ、こんな本だけの情報だけど」


 僕が今、読んでいた本は子供向けに作られたものでしかない。

 これだけを読んで魔法の全てを知った気にはなれないだろう……だが、ここで起訴に振られたのはあまりにもデカすぎる。


「って、ぇ、あっ!?もうこれを読み終わっちゃったの!?」


 何を見ていたのか、僕が本を閉じたことを前に動揺の声を上げるスキアに少しだけ呆れたような感情を抱く。


「うん、ありがと。もう読み終わったから……僕はもう自分の部屋に戻るね」


 スキアの言葉に頷いた僕は彼女の膝の上に本だけを残して立ち上がる。


「それじゃあ」


「ま、待って!?」

 

 部屋を出ていこうとした僕に対してスキアは制止の声をあげながら慌てて僕に続くような形で立ち上がって足を前へと踏み出す。


「『止まって』」


 そんなスキアに対して僕は大量に魔力を込めた一言をぶつける。


「……ッ!?」


 それによってスキアは容易に動きを止められてしまう。


「完璧……案外簡単に使えるんだね、魔法……いや、これはどちらかというとただの言霊?魔法陣がなかったし魔法ではないのでは?……ここら辺もあとで要注意だな」


 動きを止められて何も出来ずにいるスキアをよそに僕は彼女の部屋を後にするのだった。

 

 

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