外の世界

第19話 外へ

 「おい止まれ。おまえらまさか徒歩で外に出るつもりか?」


 3日後。

 ダイヤモンド・ダストの二人は、小さなザックを片手に、ダンジョンの出口=本当の意味での出口である地上口に立っていた。


 この世界、人の生活圏はダンジョンの低層である。

 管理されたダンジョンに住み、騎士やら警備関係の仕事に就く者を中心に、人の生活圏では適宜魔物は討伐され、安全・快適な生活を営んでいるのだ。


 が、一方ダンジョンの外である地上。

 そこは、魔物が跋扈する魔境。

 安全など誰も保証してくれない。

 住むのは、凶暴な魔物と、人の世界からはじき出された者のみ。

 人の世界からはじき出された者でも、多くの者は、まだ管理されていないダンジョンを発見し、住居に改造しているらしい。

 このような新ダンジョンの発見をもっぱら業とするDDもいて、そこを人が住めるように改造することを業とするDDもいる。

 ダンジョン・ディテクティブとは、ダンジョンでの探求だけでなく、ダンジョン間の探求をも含む職業である。


 ダンジョン間の移動にも越境の資格が必要となる。

 ちなみに越境の資格を持つ者を雇う等して、その庇護下の元移動することができるのは、ダンジョン内だろうがダンジョン間だろうが、同じである。

 一方で、越境の資格を持つ者が外に出ることはあくまで自己責任であるのだが・・・



 「おい止まれ。おまえらまさか徒歩で外に出るつもりか?」

 そう、この出入り口を守る騎士が声掛けするのも無理はない。


 「何か問題でも?」

 騎士の問いにノアがにっこりと微笑んで、そう言った。

 「いや、何か、じゃないだろう。そんな格好で、しかも乗り物もなしに出て行くつもりか。」

 「だから、何か問題でも?」

 「あのなあ。地上は危険なんだぞ。それに越境の資格もなしに・・・」

 「ほれ。」


 騎士の言葉を遮り、越境の資格ありと記されたステータスプレートを差し出す。

 つまりDD証だ。

 そこには、名前と表示したい内容だけを記すことができるのであるが、しっかりと名前と越境の資格が記されていた。


 「確か、入る審査はあっても、出る審査はなかったはずだよな。」

 「そうだが、そうはいっても・・・って、レベッカ・キーンキ、だと?」

 騎士は、慌てて、DD証を差し出す少女を見た。

 「なんでおまえが・・・」


 「なんだ知り合いか?」

 声を掛けていたのとは別の騎士が、彼の様子を見て後ろから近づいてきた。

 「いや、その・・・元、同僚、といいいますか?」

 「元同僚?てか、キーンキって、孤児かよ。孤児でその年でって、なんかやらかしたのか?」

 「いや、その。結構有名で。先輩は知りませんか?ステータスが金剛の・・・」

 「第5師団の?マゴーン将軍の命令に逆らってクビになったていう?」

 「ええ、まぁ。」

 「なんだよ。文句あっか?」

 「いや、そのだなぁ。借金苦に逃げ出そうと言うんだろうが、地上は本当に危険なんだ。ステータスがすごいか知らんが、ぺーぺーに課される命令も聞けんような軟弱者に生き抜けるような場所じゃない。いいな。考え直すんだ。さ、戻ろう。DDになったんだろう?はじめはどんな仕事でも大変だ。だがな、騎士になれるだけの力はあるんだ。しっかりと下積みをやっていけば、いつかは借金だって返せるし、まっとうな生活だってできるようになる。だからな、自暴自棄はいかん。さ、戻りなさい。な?」


 無骨な外見に反して、気は優しいのだろうか。

 何やら勘違いをした、先輩騎士、らしき男は、レベッカの両肩に手を置いて、必死に言いつのる。

 いや、とか、違う、とか、話を聞け、とか、間間にレベッカも口を挟もうとするのだが、聞き入れてもらえる様子はない。

 困った様子のレベッカを見て、一人後ろで腹を抱えて笑っているノアに、メンチを切るのが精一杯だ。


 だが、さすがにかわいそうになったのだろうか。

 ノアが、先輩騎士の肩をチョンチョンとつつく。


 「ん、なんだ?君も彼女と一緒に逃亡するのか?彼女にも言ったがなぁ・・・」

 まだまだ言葉を続けようとする先輩騎士の目の前に、ノアはズイっと自分のDD証を突きつけた。

 「ノア・キーンキ。って君も孤児なのかい。でもな、ちゃんと越境の資格があるんだ。だから・・・・って、ええええええ、ランクS~~~~?!・・・どういうことだ。」

 「レベッカも見せてあげなさい。」

 「ああ。」

 レベッカも、DD証にランクの記載を許可する。

 そこにはSの文字が燦然と輝いていた。



 ランクS。

 自分の力で50層にたどり着けた、という証。

 紛れもない強者の証。


 二人の騎士は、目の前の少女たちが、その偉業を成し遂げていることに驚愕し、また、化け物を相手にしていたのだと、背に冷たい汗を流した。


 「で、行って良いかしら?」

 にっこりとノアが聞く。


 先輩騎士は、ガクガクと頭を縦に振る。

 どうやら再起動には時間がかかりそうだ。

 ダイヤモンド・ダストの二人は顔を見合わせて肩をすくめる。

 騎士たちを放置し、ダンジョンに背を向け歩き出す。


 「あ、そうだ。あんた『ぺーぺーに課される命令も聞けんような軟弱者』って言ったよな。あのおっさんマゴーン将軍が平民の女に対する最初の命令って知ってっか?夜の訓練、だってよ。自分の部屋に連れ込んで、一体何の訓練なんだろうなぁ。相部屋の先輩たち、呼ばれるたびに泣いてたんだぜ。ま、そういうこった。」


 言うだけ言うと、レベッカはノアと並び、手のひらをヒラヒラと振るのだった。

 

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