第18話 出発報告

 「だから、やり過ぎだっつーの。」

 DD協会キーンキ部会カーサオ支店支店長室。

 朝っぱらから頭を抱えるマッカスの姿があった。


 「んなこと言ったって、早いにこしたことないだろ。」

 とは、レベッカ。

 出された菓子を無造作に口に放り込みながらだから、おそらく、そう言ったのだろうと思われる。実際にはもぐもぐと何を言ってるのか、確実ではないのだが。


 「はぁ。食うかしゃべるかどっちかにしろ。」

 「そうですわ。はしたないわよ、レベッカ。」

 そう言うノアも、食べるスピードはさして変わらない。

 ただ、なぜか、一見お上品そうに見えるのは謎であるが。

 少なくとも、口内をクリアにしてからしゃべっているだけ、品は良いのだろう。


 「にしても、期限は3ヶ月なんだがな。普通はダンジョンに1ヶ月ちょい。外回りで2ヶ月弱の計算だろうが。」

 「でも私たち、43層まではレコードとってましたし、思ったよりニードル・ゴートの群れはたくさんおりましたから、こんなもんでしょう?」

 「だから、こんなもんでしょう、じゃねえんだよ。」


 はぁ、とマッカスがため息をつくのも仕方ない。

 通常は1パーティは4から8名程度で攻略するのがダンジョンだ。しかも20層以下であれば、CランクのDDをそろえるパーティ複数で攻略することも多いのだ。それだけの人数を割いてさえ、未知の1階層攻略には1週間、長ければ月単位の時間を要するのが常識。

 それを44から48階層という彼女たちにとっての未知の階層を4層分。1ヶ月半、見てたとしてさえ短いぐらいだ。

 さらには、依頼の関係上、多分に獲物との遭遇にも運が左右したであろうし・・・


 そんな風に思うマッカスだが、まぁ、こいつらならこんなもんか、という気持ちも少なからずある。

 ニードル・ゴートの特殊個体を、獲得する、というから難易度が高いのであって、彼女たちが50層より上層の魔物に手こずるとは、マッカスだって思ってはいない。彼女たちの真の実力を最も分かっているのは、彼女たちの師ともいえるマッカスだったのだから。


 「まぁ、幸運が大きかったのは認めますわ。私たちも極楽鳥の皆さんと出会わなければ、未だにハゲ散らした山羊にイライラをぶつけていたでしょうし。」

 音も立てずにお茶をすすると、ノアはそんな風に言った。


 「ハゲ散らしたって・・・・はぁ。それにしても、あいつらが攻略法を教えたんだってな。ニードル・ゴート専門にしてる奴らだからな、よく教えてくれたもんだよ。」

 「あたしたちを見て、ライバルにならないって思ったんだろうさ。実際、必要がなけりゃ、あんなところまであんな面倒な山羊狩りに行く気はないし。」

 「まぁ、そうだろうが。・・・いや、そうだろうな。おまえらに助けられたんなら、相当怖い目に遭ったんだろうし、馬鹿火力を見せつけられた日にゃ、繊細な山羊狩りなんて無理だろう、と思っただろうな。」

 「失礼な。私たちだってちゃんと狩れましたわよ。さっき見せましたでしょう。」

 「まぁ、そう目くじら立てんな。で、すぐに出発だって?まだ時間あるだろうに。」


 ノアの不機嫌そうな顔に、マッカスは慌てて話題をチェンジする。

 実際、2,3日中に出発するという報告を受けたことに、疑問を持って呼び出した、まであったのだから、むしろ本題であった。


 「地上は久々なんで、観光兼ねて、北回りで行こうと思ってますの。」

 「北回り?って・・・おまえら、まさか・・・」

 「いやぁ、ほら、外の世界の海って良いじゃん、ってさ。」

 「・・・・喧嘩、売るつもりか?」

 「あぁらなんのことかしら?私たちは珍しいであるゴウヒョを堪能したいなぁ、と思っただけですわ。」

 「そうそう。せっかくだし、海沿いを歩いてみたいじゃん。へへへ・・・」


 明らかに嘘くさいダイヤモンド・ダストの2人。

 そして、その意図を知りつつ、立場上口に出せないマッカスは、苦虫をかみつぶしたような表情だ。


 「ノア。おまえがなんで教会を希望したのかは、・・・知ってるつもりだ。あえて、ロジデハブ枢機卿の赴任地を希望したのかも、な。」

 「あらなんのことかしら。私は聖女って呼ばれるぐらいの治癒能力者。教会に入って病人を癒やすのは当然でしょう。赴任地にカーサオを希望したのは、単に私の育ったダンジョンだから。変な勘ぐりはやめてくださいな。」

 「そうそう。意地悪で計算高いからお似合いだ、なんてことないからさ。ハハハ。」

 「ちょっとレベッカ。あんた喧嘩売ってんの。」

 「えーーー、なんのことかなぁ?へへへ。」

 「あー、やめんか!!ったく。わかったわかった。そういうことにしておく。だがな、ノアにレベッカ。何度も言う。おまえたちのことを大切に思っている人間だって、少しはいるんだ。少なくとも、俺は弟子の悲惨な姿は見たくねえ。良いか。長いものには巻かれろ、とは言わねぇ。が、無駄に巨悪に立ち向かう、なんて馬鹿は絶対にするな。」


 今にも喧嘩が始まりそうな二人を引き離すと、マッカスは真剣な顔をして、二人に言った。

 二人は顔を見合わせ、肩をすくめると、

 「分かってるって。」

 「私たち、これでも頭だってそこそこ自慢できましてよ。」

 優しげな笑顔を浮かべるのだった。



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ほぼほぼ世界観やら人物紹介やらの章がやっと終わり、次回からいよいよ冒険の旅に出発です。

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書くモチベーションに繋がりますので・・・

作者拝

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