第17話 帰還
「どうしよっか。」
ノアの質問に、うーん、とレベッカも悩む。
場所は門の中。
小さな部屋になっていて、腰ぐらいの高さの台座がぽつりとあるだけだ。
基本、門の中はこんな感じ。
まるで魔道具、と言われるように、そこはかとなくシステマティックで、ただ一つ、人が生まれ持つステータス画面にこのダンジョンのこの階層が刻まれのみ。
また、協会で発行されるステータスプレートも、本人のステータスを読み込んで、シスターの手により書き直されるのだ。
この台座の使い方。
それは、この世界に生きる者なら小さい頃に教えられる移動方法。
階層、と言ってはいるがその移動は階段ではなく、ひとえにこの台座が頼りである。
台座に触れると頭の中に自らの移動可能場所が浮かび上がる。
このダンジョンについての、踏破済み階層が頭の中に浮かび上がるのだ。
ちなみにこのイメージには、行ったことはなくても地上が含まれる。
間違っても地上を選ぶなんて愚の骨頂だ。はじめに台座を使うときに、とくに覚えさせられる事項でもある。
二人がこのダンジョンを潜るのは、学校から数えても長いのだが、この階層に来るのは初めてで、だからこそ、門番と戦ったのだが、当然のごとく、そこまでの階層はすべてクリアしている。
だから、地上からこの48層、そして次の49階層まで、行く先をすべて選べるのだが・・・
「どうしよっか。」
二人が悩むのは実はSランクかつ、他のダンジョンに行く必要があるからこそ、だともいえる。
50階層。
Sランクが特別なのは伊達じゃない。
実は越えられない壁、があるのだ。
すべてのダンジョンの49階層には門が2重になっている。
ここまではよく知られるところだ。
多くのDDが、実は49階層までは到着しているのだ。
1つめの門は攻略し、そして同じように50階層への入り口が現れる。
そこは、だが、50階層の、本当に、入り口に過ぎない。
50階層だけは、すぐにその先に行く試練が現れる。
その試練を超えたとき、人は知ることになるのだ。
ダンジョンの謎の大いなる一端を。
ただこの試練は、1度きり。
この試練を超えた者こそがSランク。
DDの到達点。
二人はもうこの試練は乗り越えた。だからこそのSランク。
試練自体は他のダンジョンと共通、という、大いなる謎のヒントがあるにはあるのだが、それはSの壁を越えた者だけが知れば良い。
「やっぱ、正攻法で行こうぜ。時間もあるし。」
「・・・そうよねぇ。たまには外の世界を楽しむとしますか。」
二人はそう結論づけると、台座から尋ねられ続けていた質問に答える。
「「5階層へ」」
その意思を台座が汲み取ったのだろうか。
二人を淡い光が包み込むと、部屋全体に、円やら線やら文字やらが現れる。
二人を包む光は徐々に広がり円の外側まで達すると、ピカーン。ひときわ強く光を発した。
次の瞬間、その部屋からは人の気配はなく・・・
「到着っと。」
「ああ疲れた。報告は明日でいいよね。帰りましょ。」
二人の姿は、ダンジョン5階。とある殺風景なビルのロビーへと、光と共に現れる。
イグジットビル。
ダンジョンからの出口=5層入り口に立てられたこのビルは、1階のこのだだっ広いロビーを中心に、ちょっとした売店やら、飲み屋が並ぶ。
上階には、案内所や診療所。
上の層やら下のダンジョンからの出口として、人々が現れる場所である。
現れる人からしたら入り口、なのだが・・・。
ダンジョンから出てくる、というDDたちの気分を汲み取ったのか、出口と称されるこのビルの、町としては反対側には、門番を有するエントランスビルがある。この階層からどこかに行くにはそこへ行く必要があるというわけだ。
ダンジョンに潜る場合、エントランスビルから入って、町の反対側のイグジットビルから出る、という面倒くさいことになっている。
出口と入り口が違う、この不便がなければもっと楽なのに、そんな風にぼやきながら、二人は数日ぶりの町へとぶらり、繰り出すのだった。
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