第14話 PGG捕獲
「どうだった?」
カーシャがいたずらっ子のように目ん玉をクルッと回して言う。
マヌアのレイニーシャワーが終わり、なぜか眠ってしまったニードル・ゴートたちのそばに手招きされた後のことである。
「どうもなにも、なんだこれ?」
興奮気味のレベッカの反応は、満足いくものだったらしい。
「力、だけじゃないのだよ、探偵業は。」
フン、と、少々頼りない胸を、前に突き出すように、カーシャは鼻息を荒くした。
探偵業。
DDのことをそう呼ぶ人もいる。
探索したり、見えぬモノを見えるようにする者のことらしい。
DDは主にダンジョンの中から、何かを探す者の意を受けて探し出すことを仕事とするが、それは、別にダンジョンだけでなく、人間の秘密だったり、新しい町だったりも含むらしい。
ようは、人から頼まれたことをする何でも屋、なんて陰口をたたく者もいるが、実際、依頼があれば何でもする。当然、そこにはふさわしい報酬がセットとなるが。
DDは登録さえすれば誰でもなれる。
到着階層が公表され、それを元にランク分けされるのだが、一番下のGランクは5層、すなわち、誰でもが行き来できる階層であり、当然のこと、越境の資格は必要ない。Gランクの依頼は、迷子の探索だったり、落とし物の捜索だったり、人を見つけて物を渡す、つまりは配達だったりするのだ。
そういった案件は、切った張ったがない代わり、報酬は少ない。
それでも、それ以外の仕事ができないのであれば、仕方がない。むしろ、仕事のない者に仕事を提供するために協会はある、とでも言おうか。
が、逆に、ダイヤモンド・ダストや極楽鳥のように、ダンジョン深部まで潜り、高価な獲物を発見捕獲して稼ぐ者の収入は多い。
このニードル・ゴートだって、レイニーシャワー一発で、前後不覚に眠らせるだけで、1頭仕留めれば、大金貨2,3枚にはなろう。ちなみにこれは、慎ましやかに暮らせば、1人なら1年暮らせないこともない、という金額である。
「それにしても、毛がこんな風になるなんて知らなかったですわ。」
ノアも感心したように言う。
「だろうね。まぁ、うちはマヌア様々、さ。」
「規模はでかいけど、あれって、レイニーシャワーだろ?普通は畑にまく水魔法だよな。」
「そうそう。非戦闘員でもできるやつよ。農家にはむしろ必須?」
「だよなぁ・・・」
そう言いつつ、鋭意解体中のマヌアを見る。
「将来は自家菜園、ありですよね。ウフッ。」
耳だけはこちらに向いていたようで、マヌアはそう言うと、笑った。
毛の形が変わったニードル・ゴートたちだが、眠った後、ゆっくりとその形は元の針状に戻っていくようだ。
そして、戻ったものから数頭、彼らは解体して、必要な毛皮だけを持ち帰るらしい。あとは、少量の山羊肉だけ。これは帰るまでの食料用らしいが。
「数頭だけ?」
「まぁ、持って帰る手段が、なぁ。」
答えるのはミサンガ。
彼らの持つ鞄は、当然マジックバッグと言われる、空間拡張機能付きの鞄だが、いかんせん、これは錬金によって普通の鞄に空間拡張の魔術が付与されたもので、希少である。つまりはお高い、のだ。
「なんだったら、持って帰ってやろうか。その・・・この群れ分ぐらいなら持って帰れるからさぁ。」
実は二人は魔法でも全適性がある。
特殊で使う人も少ない空間魔法。
二人とも使える上、ノアなんかは、実はそれを付与したマジックバッグの作成だってできる。錬金を得意とする彼女が、自分の持つ空間魔法を付与した鞄を創ると、まぁ、はっきり言って、そんじょそこらのマジックバッグなんて子供の遊び、程度になってしまう。
「おいおい、やめてくれ。これは、こっち側の礼なんだ。これ以上借り増やしてどうするよ。」
ハハハ、と陽気に笑いながら、ミサンガが言う。
他のメンバーもそうだそうだ、と言うようにしきりに頷いていた。
「それに分不相応な金を稼いだって、後で苦労するだけさ。」
と、そんなこんながあって、ダイヤモンド・ダストと、極楽鳥は、そこで別れた。
今度地上ででも飯を食おうぜ、なんて言いながら、互いの道を行く。
と言っても、極楽鳥はしばらくここで解体と、休憩。後に上層階へと戻るそうだが。
その後、丸1日かけて、ダイヤモンド・ダストは、目当てのPGGを有する群れを見つけた。
彼女たちの場合は、まだニードル・ゴートの敏感な個体が、こちらを発見するよりも遠くから雨を降らせることに成功し、
「それにしても、不思議だな。何で眠るんだ?」
「多分、このあたりの階層のせいでしょう。気づいてました?時間とか関係なく、雨が降ったら気温が落ちて、夜になってますわ。寒くて動けなくなるから固まって暖を取りつつ、寝るなんて習性でしょうね。」
「はぁ?襲われたらやばいじゃん。」
「そのために固まっているのか、そもそも夜行性の魔物が少ないんじゃないかしら?結界を張って寝てるとは言え、一度も攻撃を受けなかったし。」
「・・・そんなもんか。」
「でも、今回は本当に勉強になったわ。力だけじゃダメ。きちんと知識を手に入れないと通じない魔物もいるのよねぇ。」
違えねえ、そう口の中でレベッカはつぶやくと、目的物を手に、辺りを見回すのだった。
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