第13話 vs PGG その3
「生きとし生くもの マザーの恵みは
シャー・・・・
一帯を、突如として、雨が襲う。
といっても、決して激しくはない。
慈雨の雨=レイニーシャワー
水系統の魔法。
とはいえ、決して珍しくはなく、むしろ上層でこそ、時折見る魔法だ。畑に水を撒く魔法として。
「なんだ、これ?」
「まぁ。こんなことってあるんですのねぇ・・・」
目前の様子に唖然とする、我らがダイヤモンド・ダストだったが・・・・
少し時間は遡る。
救った礼として、ニードル・ゴートの倒し方を伝授する、そう言われて四半時といったところか。
極楽鳥とダイヤモンド・ダストの2パーティは、新しくニードル・ゴートの群れを探して索敵しつつ、時折はトカゲやら猛禽類やら、4足の哺乳類やらを、そう手間をかけずに屠りつつ・・・
まぁ、この辺りは、ダイヤモンド・ダストにとっては朝飯前、極楽鳥にとっても、ここいらで活動しているパーティだ。それなりに連携すれば、なんとか倒したり逃げたりができるだけの腕はある。どっちかというと普段は逃げ中心なので、ダイヤモンド・ダストの脳筋、いやいや、スタイリッシュな瞬殺劇の数々に舌を巻く、というよりは少々恐怖しつつ、サクサクと移動して・・・
ついに、先ほど新たな群れを発見した、というところだ。
「いたわ。的だ。」
斥候のカーシャが目ざとく見つけて言う。
「すげえな。こんな遠くから見つけるんだ。」
レベッカの感心に、ノアも頷く。
「餅は餅屋、と言うことですわね。言われれば分かりますけど、さすがに目ざといですわ。」
二人の感心は無理もない。
ニードル・ゴート。金やプラチナのような光沢を持つ毛に覆われた魔物。
たしかに側で見ればキラキラとしているし、一見派手で見つかりやすいかに思える。
が、奴らが生息するのは、切り立った山肌で、ほとんどが岩か土だ。
そして太陽はさんさんと照りつけ、彼らの毛はそれをランダムに跳ね返す。そう。乾燥した岩や土・砂のように・・・
金は土の照り返した太陽光、プラチナは岩の照り返した太陽光にも似た反射をするため、遠目では、そこにいるのは分かりづらいのだ。
そもそも、水気が少ない乾燥した大地。
風はそこそこ吹いているので、太陽光の揺らぎは少なくないし、ともすれば、立ち上がる陽炎のようなものまで散見するような場所だった。
とはいえ、専門の斥候職である極楽鳥のカーシャは、そこは専門家。
二人が気づくよりずっと早い段階で、群れを発見し、仲間たちをとどまらせたのだった。
「あんたたちは、ここにいて見てて。こんだけ距離が離れていても、分かる奴がいるから。」
カーシャの注意にダイヤモンド・ダストの二人は小さく頷く。
そもそもこの群れは、彼女たちにお手本として、極楽鳥の狩りを見せる、そういう約束のもと、やっと見つけた目標だった。
「よし、じゃあいつも通りで。」
そんな二人の様子に満足げに頷いたリーダーのミサンガは、パーティメンバーのみんなの顔を見て、声を掛ける。
それに頷くメンバーたち。
すぐにカーシャを先頭に、その真後ろが魔法使いのマヌア、その左右にミサンガとルル。少し離れて治癒使いザンギルが続く。
「あれ?どこへ行くんだ?」
その様子を身を低くしたダイヤモンド・ダストがその場からしばらくは目で追っていたが、彼らの行動にレベッカが疑問を呈した。
それもそのはず。
はじめ、群れに近づくように見えた彼らは、隊形を維持しつつ、すぐに、群れから離れていく。
「見てみなさい。どうやら1頭が彼らの接近に気づいみたい。それに合わせるように、ううん、きっとあれは、近くに敵が来たとあえて気づかせて、敵が離れていくのを見せているのね。」
「どういうことだ?」
「彼らを見つけるのは難しいでしょ。ニードル・ゴートの方もその辺は熟知していて、今までだって、ある程度接近しなければ、息を潜めるだけだったわ。明らかに自分たちがロックオンされた、と気づいてから、針攻撃を仕掛けてきたもの。できるだけ無駄撃ちはしたくないんでしょうね。」
「そりゃそうだ。針が囮になるって言ったって、自分の身を削るのはできるだけ避けたいだろう。」
「それに、一度発射しちゃうと、次に生えてくるまで無防備になるしね。」
「確かに。」
二人がそんな会話をこそこそとしていたが、その間にも事態は動いていく。
極楽鳥に気づいた数頭のニードル・ゴートだったが、彼らが自分たちに気づかずに通り過ぎたのだろう、と、上げた頭を下げて、再び草を食いだしたのだ。
それを知ってた知らずか、極楽鳥はニードル・ゴートの群れをぐるりと迂回し、とある岩場まで到着する。
そこは風下にあたる場所で、かつ、群れよりも少し上方の岩場だった。
そこが極楽鳥の目的地だったのだろう。
先頭を歩いていたカーシャが下がる。
カーシャはそれまでルルのいたところに立ち、身体を低くして、ナイフを構えた。
となりに立つマヌアを挟み、ミサンガも盾と剣を構える。
一方、それまで護衛のようにマヌアの横を歩いていたルルは、ザンギルのところまで下がり、ギリリと弓を引き絞った。
「戦闘開始か?」
ゴクリ、と固唾を飲みつつ、レベッカがその様子に緊張感を高める。
「魔力を練っているわね。」
ノアも同様に緊張しつつ、彼らの中心に立つマヌアの様子を報告した。
レベッカにもマヌアが魔力を練るのは視て取れた。視覚で見るのではなく、魔力で感知して視る、のだ。
彼らの狩りの様子がしっかり観察できるように、二人は魔力で身体強化を行い、特に視覚と聴覚を強化していた。
そして・・・・そんな聴覚に、長い詠唱が届く・・・
「生きとし生くもの マザーの恵みは
冒頭の詠唱。
からの、恵みの雨がニードル・ゴートの群れに降り注ぐ。
それは決してそれらを襲う、という感じではなく、むしろまさに恵みの雨。
と・・・
ニードル・ゴートの様子に変化が現れる。
彼らは、ふと天を見上げると、その水に向かって一声いななき、うれしそうにピカッと光ったかと思うと・・・・
「毛の形が変わった?」
今まで、尖って針のように身体を覆っていた毛が真ん中を引っ張られるように横へと伸び、一つ一つが小さな漏斗状になったのだ。
漏斗状に平べったくなった毛は、恵みの雨を余すことなく汲み取ろうと、水滴をその内側へと滑り落とす。
どうやら毛根が生えている皮膚は、その内部に水を溜める機能があるらしい。
水を得て、身体が重くなったのか、足を折りたたんだニードル・ゴートたちは、1匹、また1匹と、夢の中・・・
互いに身を寄せるように、大きなひとかたまりとなって、眠っていったのだった。
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