第12話 Aランクパーティ極楽鳥

 「いや、全部持ってってくれ。」

 幾分やつれたような表情で言うのは、先ほど助けたAランク冒険者チーム極楽鳥リーダーことミサンガと名乗った男だった。先ほど炎の波に呑まれて消滅したロック・ウルフの魔石の分配を、ダイヤモンド・ダストから問われた答えだ。



 彼ら極楽鳥は、主にこの辺りで資源調達を行うパーティなのだという。

 ロック・ウルフの生態については熟知しているはずだったが、少々疲れていたことと、メインターゲットがいつもより少なく、焦っていたことから、罠にはまったのだという。


 「メインターゲット?」

 「ああ。俺たちは主にニードル・ゴートを捕らえつつ、タンク・カクタスもあれば採取するって感じなんだがな。カクタスはまだしも、会うニードル・ゴート会うニードル・ゴートが、みんなでな、商売になんねえって、腐ってたんだよ。」

 「ったく、どこのド素人が手を出したかしんねぇが、はた迷惑なこって。」

 ミサンガの言葉にカーシャと名乗った女が、言葉を重ねる。

 その言葉にアチャー、と言った表情で顔を見合わすダイヤモンド・ダストの二人だったが。


 「ひょっとして、あんたらが?」

 目ざとくそれを見とがめた別のメンバー、ルルが言う。


 「あー、その、悪かったな。いや、いろいろトライはしたんだがな。ハハハ・・・」

 レベッカが頭を掻く。

 「いや、まぁ、狩り方も知らねぇで、とは思うが、それは商売がたきに言うはずもないし、しゃあねぇさ。」

 「第一、あんたらだけって訳でもないだろ。こっちが出会っただけでも20近くの群れが裸だったんだ。あんたらだけでこうなるはずはない。」

 「気づかなかったけど、ニードル・ゴートの毛皮が通常依頼にでも上がったんだろうさ。」

 口々に言う極楽鳥の面々。


 だが・・・・


 20近く。

 その程度、どころか、群れの数だけで言えば3桁は失敗している二人は、アハハハ・・・と乾いた笑いを浮かべたのだった。



 「しかし、すげえもんだなぁ。噂は当てになんねえ。てか、逆に噂通りか?」

 「何?」

 「ダイヤモンド・ダストっていや、今一番の話題のパーティだ。二人して幻のステータス金剛のルーキー。しかも50階超えのSクラス。そいつらが強いか強くないかって話題もあった。」

 「ああ。Aクラス超えの魔物ばっかを持ってくるから、それだけ強いんだろうって話もあるが、むしろそいつが怪しいってな。誰かがバックにいて箔付けしてるなんて噂もあったし、かわいい女の子だけだから、協会の宣伝要因だ、とかな。」

 「一方で、ノルマ勤務でさえクビになるような悪たれだ、手がつけられない暴れ馬だ、なんて噂もあるし。」

 「ま、属性が火なら、氷魔法の上級ダイヤモンド・ダストを使いこなすってのはなくなったな。」

 「けど、クズダイヤ、ってのもなさそうだよね。実際化け物じみた魔法ったし。」

 「ああ、あの炎も、それをモノともしない結界も、な。」


 二人の苦笑をどう取ったのか、二人についての話題をネタに興奮気味に極楽鳥はしゃべり出す。


 彼らが言うように、数々の噂を撒かれる二人だったが、ダイヤモンド・ダストって名は氷魔法が得意だからでも、自分たちをクズダイヤ、と自虐してるわけでもない。

 そもそも、彼らを助けたように、レベッカは上級の火魔法を使えるが、氷魔法のダイヤモンド・ダストだって使える。

 むしろ、魔物の損傷を抑えるために氷魔法を多用していることもあり、協会支部では、彼女を氷魔法使いだろう、だからダイヤモンド・ダストという名にしたのだろう、なんて推測されている。


 だが、その成果を妬む者からは、クズダイヤ、などと陰口も叩かれている。あんなにバンバンと深層から獲物を持ってこれるはずはなく、誰かが捕ってきた獲物を持ち込んでいるだけだ、本当はとっても弱いはず、と。


 まあ二人はそんな噂などは無視して否定も肯定もしないものだから、妙な噂は広まっているし、実際、支店長で部会長でもあるマッカスとも親しいことは見れば分かるから、協会の傀儡といった噂が絶えないのであろう。


 何はともあれ、ダイヤモンド・ダストというのは、二人が幼少の頃、ダイヤモンド・ダストを見て、感動したことからきている。木々に積もった雪が風で舞い、キラキラとダイヤモンドのように煌めく自然現象をダイヤモンド・ダストというと知り、その美しさと名前に夢中になった。自分たちの特殊性を表す、マザーの恩恵、金剛のステータス。金剛と同じ意味であると教えられたダイヤモンドのきらめきを持つ、自然の輝き。その印象が強かったこともあって、自分たちのパーティ名はこれをいただこう、そう子供ながらに決めていた、それだけである。



 「ダイヤモンド・ダストの本物を見たって事か?」

 その異常性にミサンガは気づく。

 「まぁね。」

 「いろいろあったからね。」

 「本物ってことは地上だろ?子供の時って・・・。」

 「ま、いろいろあるさ。」


 どんないろいろだよ、と、心の中でミサンガは突っ込むが、それは当然のことだ。

 子供が地上に出る、など、よっぽど特殊なことがなければあり得ないのだから。

 しかも、ダイヤモンド・ダストを見たということは、気候的にも厳しいということ。特殊な依頼でもなければ、ベテランDDだって、避ける。


 「まぁ、それはいいとして、あんたたち、もう上がるのか?」

 カーシャが言う。

 「上がるなら、礼をしたいんだが。な、リーダー?」

 「あ、ああ、そうだな。」

 一人、彼女らの『いろいろ』に思いを馳せていたミサンガは慌てて答える。

 いずれにしろ、この少女たちに救われたのだ。

 彼女たちがあそこで来なければ、最悪は全滅もあったろう。少なくともザンギルとマヌア、特にマヌアは風前の灯火だった。


 「あ・・・、とりあえずまだ上がれないかな?」

 レベッカは言う。

 「そうね。目的を果たさないと、ね。」

 「目的?」

 「ああ。」

 「PGGを仕留めるの。」

 「は?」

 「だからPGG。」

 「・・・まさか、それで乱獲してた、とかないよね?」

 「「アハハハ・・・」」

 「・・・・はぁ。」

 「ま、そういうことだ。」

 「だから、あなたたちが稼げなかったのはこっちにも非があるってことで、助けたことで貸し借りなし、で、いいでしょ?」

 「・・・・」

 二人の言葉に、極楽鳥はジト目をしつつ、なぜか集まって、会議をはじめた。



 しばらくののち・・・


 「あー、二人が問題無けりゃ、ニードル・ゴートの狩り方を教えようと思う。」

 「え?」

 「つまりなんだ、命を助けてもらった礼として、狩り方を伝授することになった。」

 「いやでも、それはこっちのせいで襲われたっていうか・・・。」

 「それは違う。こっちが未熟なだけだ。たまたま運悪く君らの後についてしまって狩れるターゲットがいなかったのだとしても、それと、あそこでロック・ウルフに襲われたのは別の話だ。だから、礼はしたい。」

 「いいのか?飯の種だろ?」

 「ああ。他言無用は頼むが、君たちが依頼を受けて狩る分には、そこまで競合しないだろう?」

 「まぁ、他に言うつもりも当てもないが・・・」

 「なら決まりだな。」

 「・・・助かります。」

 「ということで、とりあえず見本を見せる。悪いがまずはやつらを発見することからだ。」

 「わかりましたわ。あ、見本ということなら、獲物は持って行ってくださいね。私たちは後で自力で捕獲しますんで。」

 「よし、契約成立だ。」


 ノアとミサンガは、しっかりと握手をした。

 

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