第11話 要救助者、発見
「ロック・ウルフだ!」
男女の悲鳴のような声を聞き、先行したレベッカが、後方のノアを振り返りつつ言う。
前方には、男3女2のパーティらしき男女がいたが、内、男1女1は地面に転がっており、他の3人も腰は引け気味で、半パニック状態といったところ。
そのパーティの中にすでに踏み込んでいるロック・ウルフは3体。他にも視界に入るだけで5,6頭はいるだろうか。
ロック・ウルフはこういう崖に潜み群れで狩りをする魔物だ。
その名のとおり、体表は岩のごとく。というか岩そのものに見える。
岩場で岩に擬態して、ひたすら獲物を待ち、群れの中に足を踏み入れた途端、獲物を囲い込んで捕獲する。
やっかいなことに、その攻撃方法は、体当たりや爪といった物理に加え、魔法も使う。土魔法の亜種として知られるロック・バレッタを口から吐き出すように打ち出すのだ。
そんなことを頭で復習していると、今まさに、大きな前足を振り上げて、転がっている女を真っ二つにせんと、1頭が立ち上がるのが見えた。
「チッ。ストーン・バレット!」
その脇腹にウルフを押すようにバレットを叩き込んだレベッカは、
「助っ人、いるか?」
と、続けて声をかける。
ロック・ウルフなんてのは、ほぼほぼ価値はない。
まぁ、魔法を使う種族は総じて魔石の価値が高いので、その程度か。
しかし、魔物の横取りは御法度な上、たちの良くないDDなんかは、助けられておいて、獲物の横取りだと、クレームをつけたり、賠償を要求する者までいるのだから、この辺りは慎重さが必要だ。
彼女たちの、たった3ヶ月の活動期間でも、その手の輩に出会って喧嘩になった、という経験は少なくない。どころか、自分たちの持ち込んだすべての成果を、盗まれた!と騒ぐことによって取り上げようとしたパーティがいたことも記憶に新しい。もっともそのときは互いにDD証を提示することによって、彼らが進んでいない深層の獲物もあったことから、事なきを得たのだったが。
レベッカは、とっさにそんなことも頭をよぎったものの、声を掛けてからでは間に合わぬ、と、魔法を放った後で、助っ人はいるか?と声を掛けたのだったが、間髪を入れず、「頼む!」との
「承知!」
答えを聞くと同時に返事をし、まずは彼らの懐深く踏み込んでいる3頭を次々とストーン・バレットでそのパーティから引っぺがす。
「サンクチュアリ!」
と、ちょうど横に到着したノアが、ウルフどもから離れたDDパーティに結界を張った。
「よし、じゃあ全力出しちゃっていいよな。」
「どうぞお好きに。」
「へへへ、そうこなくっちゃ。先手必勝、フレーム・ウェーーーーブ!」
レベッカの突き出された両手より炎の波が出現。
津波のように弧を描いて、ウルフどもを飲み込んだ。
その範囲に、当然のように、絶賛救助中のパーティも含まれていて、彼らはギャア、とか、ワァ、とか言いながらしゃがみ込んだり倒れたりしたが、彼らをゆったりと覆う透明なドームが炎を一切寄せ付けず。むしろ炎の来襲によって、くっきりとドームの外観が露わになっただけ。
ポカン、と、その様子を眺めていた彼らだったが、
パーン、
パンパン・・・・
何かはじけるような大きな音が炎の中からするのに、再び腰が引けたのだった。
炎の中で真っ赤になった岩、否、岩状の表皮がはじける音が連続で聞こえる。
まさにはじけたのだろう。
その一部が、自分たちを囲う透明な膜にぶつかって、カンカンと音を立てる。
一連の様子からその熱した石つぶてが自分たちに到達しないのだろう、となんとなく予測はしても、いかんせん、高速で打ち付けられる、殺傷能力過剰の石つぶて。生きた心地がしない。
どのくらいの時間が経っただろう。
いや、ほとんど時間は経ってないのかもしれない。
気づくと、炎の波は消えていて、魔物の姿も確認できなかった。
「もう、あなたはやりすぎです。こっちまで熱が来て、汗かいちゃったじゃない。」
「奴らにはこれが一番早いんだって。熱がイヤなら、もう一枚外側に結界張れば良かったじゃん。」
「それを行う前に、魔法を放ったのはどこのおばかさんかしらね。」
「ノアがとろすぎるんだろ。」
「なんですって!」
「なにを~。やるか?」
この惨劇を前に、自分たちに向かって歩いてくる、まぁ、一見二人の美少女。
黙っていれば、どこの深窓のご令嬢かと思う少女に、少年にも見えるボーイッシュな少女。が、まるでこの悲惨な状況などないかのように、それこそ、自宅で軽口をたたき合うかのように、しかも、腕をめくって今にも取っ組み合いでも始めそうな様子で、向き合っている。
なんだ、これ?
等しく、助けられた5人の心境だった。
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