第10話 vs PGG その2
「うー、ちっくしょー!またダメだぁ。」
レベッカが手にした刀を放り出し、地面にドスンと座り込みながら叫んだ。
「もう。丁寧に扱ってよね。」
そんな文句を言いながらもノアが刀を回収すると、キラキラとエフェクトのような光に変わりながら、刀がどこへともなく消えていく。
そんな様子に驚きもせず、
「だってよぉ。これで何回目ぇ?もう帰ろうぜぇ。」
「あのねぇ、これは指名依頼。期日まではまだまだあるんだし、試行錯誤しなきゃ。アレを仕留めてるパーティだっているんだし、何か方法があるはずよ。」
「だったらその方法を聞いた方が早いって。」
「だから、誰も商売敵に秘密は言わない、って何回言えばいいのよ!」
いらだったように言いながら、隣に座るノア。
二人の顔は疲労の色が濃かった。
とはいえ、二人が辟易するのも無理はない。
はじめて目的の獲物を見つけて3日。
PGGの出現するエリア=45~48層なんていう深層を二人は走り回り、単にニードル・ゴートの群れというなら3桁は遭遇。PGGを有する群れにも両手ほどには遭遇していた。
ちなみに針攻撃を行ってまっぱになるという性質のニードル・ゴートだが、毛はすぐに生えては来る。3から5日で元の長さほどの透明な毛が生えてきて、さらに同様の日数をかけて変色、元のキラキラの山羊になるのだ。
この毛が生えた状態の毛皮を得ることが目的であるのだから、一度遭遇した群れからは1週間ないし10日の間を置かねばならない。
ちなみにこの世界の1週間は6日で5週で1ヶ月という暦である。月による変化はない。1年は12ヶ月で360日。春夏秋冬とある、とされるがそもそもそれは地上のこと。ダンジョンに住む彼らには、あくまで記号としての春夏秋冬である。
それでもダンジョン上層部は不思議なもので一定の期間で昼と夜が訪れる。少なくとも人が居住するようなダンジョンであれば昼の時間と夜の時間は同じなので、それぞれを6時間とし、1日12時間。これがこの世界の時間観念だ。
とはいえ、あくまでこれは上層階の話。
階を進むにつれ、こんな法則は崩れてしまう。
夜が来ない階層。
逆に夜だけの階層。
6時間ではなく、もっと短い周期で昼夜が変わる場所もあれば、逆にもっと長い周期の場所もある。
一定時間で変わるなら良いが、ランダムに昼と夜がやってくる場所も。
ちなみに、超深層扱いされるこの辺りは、ランダムである。
こういう階層に潜るには時計は必須。
この時計によれば初遭遇から3日は経っている、ということになる。
そしてその間、遭遇して何もしないわけではなく、様々な方法を試してはいるのだ。
まず、高速展開を誇るノアのサンクチュアリ、すなわち結界。
獲物を閉じ込め、その中で場合によっては高威力の魔法を放ち、場合によっては先ほどの刀のような武器を手にレベッカが獲物を屠る。
これが二人の鉄板の戦い方。
属性に応じて、またほしい素材に応じて、レベッカは戦法を変え、ノアがそれを補佐するのだが、多少やり過ぎての失敗というのが少なくない、というのは、まぁまぁご愛敬。
それでも2度3度と遭遇すれば、敵の特徴にあった攻略を思いつき、美麗な獲物を提出することで、瞬く間にスーパールーキーとして、こんな依頼を受けるまでなった。
ちなみに、だが、提出するのが美麗なのは訳があって、価値が低そうなのは、自分たちでおいしくいただくか、素材として持ち帰るかだからだ。よっぽど不要なモノはダンジョンの浄化機能にお任せで捨て置いているが、普通のパーティなら売却するような素材でも、完璧でなければ自分たちの素材にしてしまう。
ノアは聖女として治癒の現場にいたが、元々のスキルは錬金術で、各種素材を使った物作りは得意とするところだから、全く無駄になることはないのだ。
が・・・
今回は訳が違った。
3桁の遭遇。
途中からは、どうせ生態は同じだからと、PGGがいなくても攻略方法を見つけるべく対戦した。
が、どんなに素早くサンクチュアリを展開しても、どんなに遠くから展開しても、瞬く間に彼らは気づき、針攻撃を仕掛けてきてしまう。
少なくとも展開した後でレベッカが攻撃する暇は一切なかった。
ということで、サンクチュアリなしに、レベッカの魔法を打ち込めばどうか。
足止めできるレベルの魔法はどうしても毛を傷めてしまう。
威力を抑えれば足止めにはなるが、足止めすればあちらから針攻撃だ。
では搦め手で、ということで、眠らせようとしたり、毒で攻撃したり。
しかし、そういうのだと、どうしても時間がかかってしまう。
効ききるまでに、針攻撃の時間を与えてしまうのだ。
で、今回は、遠くでノアのバフ、すなわちただでさえ素早いレベッカのスピードを上げた上で、こっそりと特攻。物理攻撃だ!としゃれ込んでみたのだが・・・
群れの外周までは接近できたものの、そこまで。
一番外にいたニードル・ゴートなら切りつけて、真っ二つにした上で毛皮をとれたかもしれない。多少の損耗はあったとしても、だけれど。
が、その最初の1匹に近づいたところで、気づかれ、針が無数に飛んできた。
ノアにうっすらとした結界を身体に沿って張ってもらっていたため、傷つくことはないが、視界は封じられる上、PGGは遠く先だ。
これまで何度か遭遇していて分かったのだが、群れの外周が銀色、内部が金色の山羊が分布しており、PGGがいればそのセンター付近に守られるように位置しているのだ。
これでは、目的のものに近づく前に、針攻撃が発生してしまう。
そんな何度目かの失敗に、二人が精神的に疲れ切っていたところだったのだが・・・
「キャーー!」
「ギャァー。」
遠くで明らかに複数の人間の叫び声が!
二人は顔を合わせると慌てて立ち上がり、声のする方へと走り出した。
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