第8話 依頼へGO
ダンジョン・ディテクティブとは言うが、その活動許可範囲は、ダンジョンを潜る事だけではない。
ダンジョン間移動、すなわち、地上での行動の許可をも含まれる。
その昔、人類は地上に住んでいたのだいう。が、いつの頃からか跋扈するようになった危険な魔物の難を逃れ、人々はダンジョンの浅瀬へと、生活圏を移すようになった。
これはマザーの指示だったとも、英雄がいた、とも言われているが、遙か昔の話であり、歴史学者が持論を戦わせる大きなテーマでもある。
かように地上は普通の人にとって危険極まりない場所にはなったが、ダンジョン間での交流は潰えたわけではない。マザーの恩恵がここでも発揮され、ダンジョン間通信は、特殊な魔道具を用いて可能になっていて、人の住むダンジョン同士の連絡は一瞬にして行える。
ダンジョンによって、存在する魔物の種類や植物・鉱物も異なるから、ダンジョン間での取引はそれなりに活発である。
そして近場のダンジョン間は協力圏を形成し、経済的・文化的にも深く関係を保っている。
我らがダイヤモンド・ダストの二人が住むダンジョンの名はカーサオであるが、その近隣のダンジョン5つで、この1つの強力圏を形成しており、その名をキーンキという。
DD協会も協会としてはさらに大きな世界的規模の組織ではあるが、地域ごとにさらに組織され、各地域に部会が、さらにダンジョンごとに支店が作られている。
二人の保護者的な位置にあるマッカス・ゼネスはこんな協会のキーンキ部会のトップであり、且つカーサオ支店の支店長でもある。部会長はカーサオ支店の支店長がなるわけではなく、兼任しない場合も多いが、元Sランクで協会のスタッフとなっている有名人として、彼は祭り上げられた、と認識されているようだ。
これについては、それだけではないのだが。まぁ、それは別の話。
{3ヶ月以内にPGGの毛皮を、当家に直接納入されたし。}
そのような内容の指名依頼が二人にもたらされた。
指名依頼というのは、人またはパーティを指定して、依頼をすることである。
ダンジョン・ディテクティブのステータスやランク、そして協会での実績は公表されていて、手数料という名の金銭は必要であるが、基本誰にでも公開されている。
依頼者は、この実績を見て直接依頼したり、また漠然としている依頼金額の参考にしたりする。
当然、実績が累積された方が指名依頼を受けやすくなるのであるから、登録後たった3ヶ月のパーティにこんな風に指名依頼が来るのは珍しい。しかも知り合いでもない者から。
そもそも膨大な数のDDから、指名する1を選ぶのは、砂丘にて特定の石を探すのに等しいのだから。
越境の資格は、このダンジョン間移動にも必要である。
が、資格保持者と共に出あれば、ダンジョン深層だろうが、別ダンジョンの移動だろうが可能である。
だから、ステータスプレートには、深層階まで行ったことがある記録を持つ、非力な学者もいれば、ダンジョン間どころか地域間を移動する商人だっている。
プレートに刻まれた階層だけで越境の資格を与えられないのはそのためであり、この資格を得るために学校へ通う商人や学者も少なくはない。
だが一般には、護衛として越境の資格を持つ者を同行ないし代理させるのが普通である。とくに危険な魔物由来の素材は、発見・捕獲を一般依頼として、広く協会に発注するのだ。
しかし、特に珍しい素材の採取だと、それに特化したDDや、素材の品質を確保できるDDを指名する場合も珍しくない。
また、大々的にその素材を探していると知られたくない場合も、多くの人の目に見える一般依頼が避けられることも多い。
かくして、優れたDDに、一般依頼よりも金銭的にも有利な依頼が集中することもあるが、そのスケジュール管理、つまりは指名依頼が被らないようにするのも、依頼を調達する協会の仕事でもある。
今回ダイヤモンド・ダストにもたらされたのは初依頼。すなわちダブルブッキングは当然無い。
逆にこれを受けている間の指名依頼は基本的にできず、他に回すか予約待ちとなる。
予約待ちでもなく、指名依頼を受けない場合は、受けないことの理由が記録される。これはDDとして、あまり歓迎されない行為である。
このような理由からも、初指名依頼は受けるべきではあった。
「でも、初手から外回りとはねぇ。」
ダンジョンを潜りながら、レベッカは言う。
外回り。すなわち自分のダンジョンの外に出て行う仕事。
一般には、護衛依頼として他のダンジョンに依頼人を届ける仕事が多い。
時折、地上にいる魔物を探す、なんていう依頼もあったりするのだが。
「まぁね。しかもロジデハブ公爵って、ついてるのかついてないのか。」
横を行くノアの顔は、ニュートラル。というか、いつもより冷静に見える。
そんなノアに、ちょっとだけ眉をしかめたが、少しのいらだちを、飛び出してきた自分の倍はあろうかという、ネズミに羽が生えたような生物=バッティング・ラットを凍らせた上、力任せに蹴り上げて天井にたたきつけることで発散した。完全にオーバーキルである。
「んもぉ、素材が痛むでしょ!」
「大丈夫だって。羽は凍らせてるし、あのぐらいじゃびくともしねぇよ。」
ガラガラガラガラ・・・
言うと同時に、巨体が降ってくる。
パキン、と、他より強烈に凍らせた羽が胴体から外れ、また、打ち付けた天井に当たった衝撃で下顎に刺さっていた立派な牙が地面との接触で、これまたきれいにポキリと上顎から外れた。
バッティング・ラット。
一見、その羽で飛べるようにも思えるが、実はその羽では飛べない。バッティング・ラットを揶揄してファッティング・ラットなんて言う者もいるが、その巨体は羽で浮くことはないのだ。
が、バッティング・ラットの名の由来はその羽の攻撃だ。巨体から打ち下ろされるコウモリの羽にも似た羽で、叩きつけて攻撃をしてくる。
それ故に、その羽は、薄さの割には強靱で、素材として金になる。
また、上顎から生える2本の牙。
これは、そのままでも、剣やナイフの刃として使える。当然加工素材としても優秀だ。
しかしそれだけ。
いやむしろそれ以外は、触れない方がいい。
バッティング・ラットから出る各種体液は、かぶれやただれなどの炎症をもたらす。
洞窟などの探索中に注意すべき魔物の一種であり、暗くて岩場がある場所には、よくいる嫌われ者でもある。そもそも食用に適さないし。
そんなバッティング・ラットの素材だけを触れることなく確保して、二人は19層を歩いていた。
19層はまだまだ二人にとっては、散歩コースでしかないようだ。
のんびりと、こうして魔物を屠りながら、目的地、なぜか地下にあるのに山岳地帯になっている階層でもある45階層へと、二人は向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます