第7話 初指名依頼

 金剛級Sランク冒険者、ノア・キーンキ、19歳。

 同じく金剛級Sランク冒険者、レベッカ・キーンキ、17歳。

 以上二人組パーティ、ダイヤモンド・ダスト。

 両名とも、ダンジョン・ディテクティブ協会に登録して3ヶ月。パーティ結成も同様。


 初依頼に18層で咲くリーマ草、別名炎膜草を納品。

 これは、炎の魔力を有する草で、透明のドームになった袋状の中でメラメラと炎が揺れているように見える、膝丈ぐらいの草花だ。

 中の炎状のものは、炎に耐性のある魔石に吸わせ、それをクスリや爆発の魔道具に使用する。また膜はうまく加工すれば炎耐性のコーティング剤になる。

 そんな有用な草花ではあり、その捜索・発見・取得の依頼は事を欠かないが、その階層に行けるDDダンジョン・ディテクティブも少なく、さらにその生息地域が、マグマ付近とされていることから、入手も困難、その分高額の報酬が約束される。

 そんな炎膜草の依頼を、片っ端から引き受け、荒稼ぎしたルーキーは、人を多く抱えるカーサオ支部においても、注目度ナンバーワンであった。


 こんな炎膜草の依頼をこなすこと半月。

 飽きた、という言葉とともに、彼女たちは多種多様な高級皮革の材料を捕獲し始める。

 いわく、21層もこもこ羊。

 いわく、37層シルバー・カイマン。

 いわく、28層ドラゴン・ホース。


 いずれも、皮革製品として高級品であり、服飾関係を中心に注文が絶えないものであるが、当然階層にふさわしい強者ばかり。

 それを素材を傷めることなく、鼻歌交じりに納品する美少女二人組。

 たった3ヶ月とはいえ話題にならないはずはなかった。


 そんなことを思いながら、マッカスはため息交じりに、手に持つ依頼票をチラ見する。


 「で、なんですの。あからさまに面倒くさそうな態度は。」

 「まさかの3ヶ月のルーキーに指名依頼とかってか、アハハハ。」

 菓子を行儀悪くつまみながら、二人は、そんな風に軽口を言う。


 が。


 「そうだよ。そのまさかだ。ったく、暴れたい放題暴れやがって。あんま目立つなって言ってんのにこれだ。まさかの指名依頼だよ。」

 「マジ?」

 「ああ、大マジだ。しかも、外回り。・・・・だけ、ってんならまだいいんだがな。」

 マッカスは、チラッとノアを見る。

 「なんですか?」

 「はぁ・・・。」


 マッカスは盛大なため息を答えに、手にしていた紙を机に投げ出した。


 なになに?

 興味深げに二人が紙をのぞきこむ。


 「アチャー。これはこれは。」

 「・・・私って分かってるのかしら?」

 「いや。おそらくは本家からの依頼だろうからな。枢機卿は知らんだろう。」

 「じゃあなんでさ?」

 「素材調達だけじゃなくて、納品までが依頼に入ってる。ってことは、単純に唾つけたいって感じだろうな。新進気鋭のSランク様によぉ。」

 「ひぇー、ないない。お貴族様なんて冗談じゃねぇって。」

 「いえ、受けましょう。」

 「マジ?だってノア・・・おまえのやめた理由って・・・」

 「あれはちょうど良いきっかけに過ぎません。エロ親父はあいつだけじゃないし、権力持ってるだけにウザさ倍増ってだけだから。」

 「まぁ、おまえが言うんならいいけどさ。」

 「それに、指名依頼を断るのって、いろいろ面倒ですよね?まぁ、あんたんちの息子の強要で協会を辞めた聖女です、なんて言えば簡単かもしれませんけど。ホホホ。」

 ノアが芝居ッ気たっぷりに言うが、マッカスの顔色は晴れなかった。


 「んー、まぁな。」

 「なんだよ、歯切れ悪い。」

 「んー。これが回ってきたときになぁ、支店からちょっとなぁ。」

 「支店?あっちのか?」

 「ああ。」

 「ウフフ、だったら尚良し、ですわ。DD案件ありってことでしょ?」

 「え!DD案件?!」

 「なくても強引に持ってけたらなぁ、て思ってたの。って、そんなことは百も承知ですわよね、お・じ・さ・ま♥」

 「どういうことだよ?」

 「ちっ、ルーキーがやることじゃねえっての。」

 「じゃあ指名依頼、部会長かつこっちの支店長が潰しちゃうんですの?本人やる気満々なのに?」

 「あー、もういい!好きにしろ!」


 きょとんとするレベッカを尻目に、ノアとマックスが結論づける。


 えぇ、好きにさせてもらいますわ。

 小さく口の中でつぶやき、依頼票を手にしたノアは、ペロリと唇をなめてクスクス笑う。


 その手にした依頼票には、ゴウヒョ公国ロジデハブ公爵が、ダイヤモンド・ダストを指名して、『3ヶ月以内にPGGプラチナ・ゴールデン・ゴートを捕獲・直接納品することを、依頼料10大金貨または1白金貨にて』依頼する旨のことが書かれてあった。

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