第6話 ステータス金剛、クラスは・・・

 「3ヶ月だ。」

 マッカスは、とりあえずソファに収まった二人に向けて、3本の指を見せながら行った。

 「おまえらがダンジョン・ディテクティブに登録して3ヶ月。」

 難しい顔をしつつ、言い含めるように言う。

 が・・・


 「わぁお。騎士歴と並んだんじゃん!あんときは長いなぁって思ったけど、いやぁ、早かったなぁ。」

 「楽しい時間はあっという間ってことですわね、フフフ。」


 と、少女たちとのテンションの差は否めない。


 そんな彼女たちの様子に頭を抱えた保護者であり上司でもある男は、さらに頭を抱えた。


 「だから、そういうことじゃねえって。分かってるだろうが。おまえさんらは登録仕立てのぺーぺーだ。年だって若い。にもかかわらず、やった仕事はベテランどころじゃねぇ。」

 「あら。ちゃんと協会で受けた仕事をやっただけですわよ。」

 「だよな。通常の依頼分しかやってねぇぜ。」

 「分かってて言ってるんだろが。その受けた仕事が問題だっつーの。」

 「安全マージンは取ってますわ。」

 「だよなぁ。」

 「おまえらなぁ・・・」


 はぁ、っと大きくため息を漏らすマッカスだった。



 ダンジョン・ディテクティブ。

 依頼を受けて、ダンジョンで人や物、あるいは事を探すプロフェッショナル。


 この世界では、人々はダンジョン上層階に居住しているが、それは安全だからこそ。

 ダンジョン。

 それは不可思議な存在で、洞窟だったり谷や森だったり、遙かな空へと伸びる塔だったり。

 その中へと足を踏み込むと、別世界のような広がりを見せる。

 明らかに地上とは違う法則に支配される怪しげな世界。


 だが、その世界は人々に恩恵をもたらす。

 どこからともなく湧き出す魔物、と呼ばれる生命体。

 魔物、と言われるだけあって、魔力に親和性のある素材をとることができ、また、その核には魔石と呼ばれるエネルギーを多く含む石があって、人の営みを支えている。

 ダンジョンの不思議で、一日もすると、放置されたそれら素材や魔石は吸収されるように消えてしまうのだが、これはダンジョンに接している場合に起こる現象で、袋に入れたり、板や石の上にのせてしまえば、この吸収は起こらない。


 魔物だけでなく、植物や鉱石といったものも同様で、人々はダンジョンからとれるこれらの素材や魔石を使い、生きているのだ。


 魔物とは、かように益をもたらすのではあるが、いかんせん強い。

 弱小、といわれる魔物ですら、人を傷つける力を持つし、優秀な戦士が束になってもかなわないような、凶暴で強い魔物も少なくない。

 とはいえ、人々が住む上層階は、比較的安全で、強い魔物など、よほどのことがない限り現れない。また、集落をつくり、それを塀で囲むことにより、弱い魔物の侵入などできないから、一般の人々は町中=塀の中で、安全に生活できるのだ。


 一般的に5階層までは、こういった人の営みの範疇であり、この中が人の生活圏として一つの行政区が形成されている。

 そして、その5階層を超えて活動するには、統治者による許可が必要だ。

 この許可を得るには、少女たちも卒業したいわゆる「学校」に行くことが必須である。学校の卒業と同時にこの越境の資格は与えられ、ステータスプレートと呼ばれる本人にだけ、否、特殊な力を持つ者と本人にだけ見ることができる謎の仕組みの中に書き込まれるのだ。

 ちなみに、この学校は生まれたときに与えられるステータスが「銀」以上であれば、通うことが義務であり、また、それ以下のステータスであっても、試験に合格すれば通学が認められる。

 越境は、人々が糧を得るためには必要な行為であり、また、金や地位を得るのにも、重要な権利でもあるのだ。



 学校を卒業すると、この越境の資格が与えられる。

 正確には、7層に到達したときに、ステータスプレートに「越境」が記載され、卒業時の儀式により、それは「越境の資格」となる。

 なお、学校での授業では10層での活動が必須であるので、卒業資格の1つが、ダンジョンの10階に到達していることとなっている。

 ちなみに、どういう仕組みか、ステータスプレートにはダンジョンの到達階が記載される。

 ステータスプレートは、はじめに教えられるステータスから始まり、こういった様々な記録がなされることもあって、「マザーの恵み」の顕現とも言われているのだ。



 誰にも虚偽の記載を行うことのできないステータスプレート。

 これは様々なところに使われている。

 ダンジョン・ディテクティブ協会の発行する、いわゆるDD証もしかりである。

 DD証等の各種証明書というのは、特殊な魔導具によってのみ発行できるもので、その操作は必ず「シスター」と呼ばれる人が行うこととなっている。

 シスター。

 これもマザーの神秘のひとつ、であろうか。

 必要なときに必要な場所へ必要な人数がマザーから遣わされる。同じ顔をして同じ修道服を着るうら若き女性たち。

 彼女たちを探るのは、大きな禁忌タブーである。


 シスターのみがあらゆるID証明書を発行できる。

 レベッカが以前持っていた「騎士証」。

 ノアの前職「教会証」。

 そして今二人が持つ「DD証」。


 各種証明証は、その所属機関の要請に基づいて、シスターが発行する。

 DD証に記載されるのは、名前と所属支店。ステータスに階級ランクのみ。

 ちなみにDD協会が制定する階級は、たった一つの実績からのみ与えられる。

 すなわち、戻ってきた階層の実績のみ。

 申請すれば誰でももらえる5層=G級にはじまり、7層=F、10層=E、15層=D、20層=C、25層=B、30層=A、そして埒外50層=S

 学校を卒業すればEまたはDから始まるのが通常。

 Cランクともなれば、上澄みに近い扱い。否、ベテラン専門職か。


 そんな中、我らがダイヤモンド・ダストの2人のDD証は、ステータス:金剛、クラス:S。


 発行時から変わらない証明書を持つ化け物に、DD協会キーンキ部会部会長にして、カーサオ支店支店長マッカス・ゼネスは、深い深いため息と共に、手にした依頼証をチラリと見るのだった。  

 


 

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