第5話 金剛級
「ったく、おまえら飛ばしすぎなんだよ。」
部屋に入り、ソファーに座るのを見た途端、小言があふれ出す。
とはいえ、この二人にとってそんなものはどこ吹く風、
先ほど出された焼き菓子と紅茶を堪能している。
「はぁ?頼まれたモン、頼まれたように届けてんだ、なんの文句あるのかってんだ。」
「あれだけのものをあれだけきれいな形で納品しているのですもの、感謝こそされ、文句を言われる筋合いはありませんわ。」
「それはそうなんだが・・・って違~う!おまえら自重ってもんを知らんのかって話だ。」
「何を今更。ちゃんと学校じゃ自重したじゃないか。騎士団でもな。」
「私だって、実力を隠すことに青春を使っちゃったんですもの。今はのびのびやっていいでしょう?」
「アハッ、青春だって。これだからばばあは、イシシシ・・・」
「はぁ?誰がばばあですって?私はまだピチピチの10代です。」
「はぁ?ピチピチの10代です、っだって。ケケケケ。その発言がばばあだっての。」
「レ゛ベッカ゜~~~!!!」
「な、なんだ?やんのか?チェッ、上等じゃん。」
と、少女二人がソファやテーブルの上に立ち上がって、腕まくりをしつつ、互いをにらみ合った。
「やめんかぁ!!!」
マッカスが、それに威圧を乗せて怒鳴りつける。
「「ヒッ!」」
ピキピキとこめかみを怒らせるマッカスに、二人はそうっと目を向けて、慌てて肩を組みソファに飛びながら座った。
「やだなぁ。」
「私たち仲良しです。」
マッカスはゼイゼイと息をしながら、そんな二人に、額を抱えるのだった。
しばしの休憩の後・・・
落ち着きを取り戻したキーンキ部会カーサオ支店支店長室内にて。
「でもさ。私たちが目立つのは今更じゃん。」
「初めての鑑定から話題になってたのでしょう?」
「孤児院でだって、特別扱いだったしよぉ。」
「それはそうだが・・・」
このマザリナという世界は、神とされるマザーの恵みで動いている、と言われる。
マザーはすべての人の子にステータスを与え、スキルを与えるが、特にステータスは生まれながらに決まっている。
すなわち、下から、木・石・銅・銀・金・白金。それぞれ、7%、25%、40%、15%、10%、3%の程度の割合で生まれると、研究されている。
が。
長い人類の歴史の中で極めて、本当に極稀に、このステータスに含まれる事のないステータスが生まれることがあるのだという。すなわち金剛。
それは白金の上だとか、いやいやそもそも人じゃないとか、いろいろ言われているが、歴史が証明していることは一つ。良いにつけ悪いにつけ、非常識な存在である、ということだ。
他の人よりも優れた能力を持つ場合も少なくなく、逆に全くの無能、それこそ何をやっても木級の者よりも報われない、なんて場合も少なくない。
とにもかくにもイレギュラー。
それが、ほぼ例のない、金剛級の人間なのだ。
それが・・・・
10数年前、立て続けに金剛級の子供が確認された。
それも親のない子として見つかったのだ。
この世界ではどこの国でも、生まれると全員がマザーの祝福=ステータス を確認されることとなる。たとえ道ばたに捨てられていた子であろうとも、そのステータスが分からない者は教会へと連れて行かれて、鑑定を受ける事になるのだ。
その鑑定結果は、国と教会が管理することとなる。
中でも親のいない子は、ステータスに応じて、孤児院へと送られることとなのだ。
17年前、道ばたで拾われた女の赤ん坊は、見つけた男に教会へと連れて行かれ、まさかの金剛級の鑑定を受ける。
そして、そのまま、規定に則って銀級以上の子が集められる孤児院へと送られた。
その4年後。
とある冒険者によって連れられた少女が一人。
すでに6歳だったが、不明だったステータスの確認のため教会へと連れられた。
金剛級。
前の少女でも話題をさらったが、2人目の金剛級の出現に、さらに盛り上がったらしい。特に今回は、赤ん坊でもなく、品の良さそうな立ち居振る舞いをする無口な少女であったことから、何やら訳ありか、とざわめいた。
しかし、何を聞かれても、守秘義務を口実に、連れてきた冒険者は彼女の出会いを頑なに口にしなかったという。
その少女も、銀級以上の子供が送られる孤児院に送られることとなった。
かくして、当時4歳のレベッカと6歳のノアは出会い、共に成長したのだった。
この地域(=キーンキ)の孤児院の子を表す「キーンキ」の姓を与えられて。
銀級以上の子供は、孤児だろうが王侯貴族だろうが、全員学校へ入学しなければならない。
そしてその高額の学費を払えなければ、卒業後、強制的に職場が決められて、借金返済まで奉公することとなる。
二人は、金剛級として常に人々の関心を受けて育ち、しかも、学校ではさらに孤児であると分かる姓を名乗ることで奇異と侮蔑の目を向けられ、それを跳ね返しながら生きてきたのだ。
今更目立つなとか、自重とか言われても困る、と、口をとがらせるのだった。
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