第2話 追放・・・2つめ

 「クビ、クビ、クビ、貴様なんぞクビだぁ。即刻教会より立ち去るが良いぃぃぃぃ!!」

 狂ったように少女を指さしつつ唾を飛ばす脂ぎった中年、いやもう老人と言っても良いだろう男。

 その前には、楚々とした、美しい少女が氷の微笑で静かに立っていた。


 「何度、儂は言った?魔力は有限。治療には優先順位があるのだ。なぜ命じられたとおりゴバンナ殿の治療に行かず、平民などを治療した。これで何度目だ?さすがに温厚な儂も我慢の限界だ!!」

 「それこそ何度申し上げたでしょうか。たかが訓練でつけたかすり傷と、大工仕事で切断してしまった下肢の治療。どう考えても後者の優先順位が勝ります。」

 「もし治療が遅れ、ゴバンナ殿が寝込まれたらどうするつもりだ。大工などという下賤の輩はいくらでも換えが聞くが、貴族のゴバンナ殿は唯一無二であるぞ。そんなことも分からんとはなんと愚かな。」

 「愚かは猊下です。大工は立派な職業。その技をものにするのに一体どれほどの時間と努力がいりましょうか。それに対し、ゴバンナでしたか?定職に就くわけでもなく、フラフラと遊び歩いているだけ。そもそもそんなかすり傷、私じゃなくても問題ないでしょう?切断された下肢を接着されることができるのはこの教会では私だけ。その私を、色狂い目的だけで呼び出すなんて、非常識にもほどがありますわ。」

 「キィーーー。ちょっとばかりステータスが高く腕が良いとうぬぼれよって。そのステータスがなければ、貴様なんぞゴミ溜めから出ることはできなんだのだぞ。ここをクビになったら、貴様に残るのは莫大な借金だけだ。貧民にそれを返せるのか?返せねば借金奴隷まっしぐらだ。さぁ、謝るなら今のうち。話しに頭を下げて請い、命令通りの仕事をするのだ!」

 「命令に沿えなくば、クビ、と?」

 「ああそうだ。」


 ニタリ、と、気持ち笑い笑みを、枢機卿は湛える。

 が、それに対して、氷の微笑みは消さず、少女は言った。


 「では、クビでお願いします。」

 「はぁ?」

 「ですから、クビで良い、と。上役たる猊下からクビのお達しですもの、10年の任期は絶たれた、と考えてよろしいですよね。」

 「いや、だから・・・」

 「まさか、猊下ともあろう方が、スラム出身の小娘に対する言葉を翻す、なんてございませんわよね?」

 「あ、あたりまえだ。」

 「では私はいかがいたせば?」

 「く・・・クビだ、クビだ!ノア・キーンキ。今このときをもって、聖女の任を解き、教会から追放だ。とっとと、出て行けぇ!!」

 「御意。」


 少女は、先ほどまでのアルカイックスマイルとは違う、心の底からの花開くような笑顔を浮かべ、丁寧に頭をさげると、枢機卿の前を辞した。

 その笑顔は長い金髪と、細面のその面と相まって、今まさにクビになった職、を体現する美しさであり、怒りと困惑の枢機卿ですら、息をのむほどだった、とかなかったとか。


 いずれにせよ、ノア・キーンキ19歳。

 最高の治癒能力を持つと噂された美貌の少女は、こうして教会をクビになったのであった。

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