第10話 遊園地デート
「今日は、突然だったのに来てくれてありがとな」
「本当だよ、デートしようって言われたときはすごいビックリしたんだからね」
土曜日――優斗たちは遊園地に来ていた。
しかし、これは優斗と水凪、二人のデートではない。
男一、女三のデートである。そう、香菜と美波も一緒だ。
では何故このような状況になったのかというと――
「お願いがあるんだ…………明日、俺とデートしてくれ」
「…………え? え? デート?」
「ああ」
「私と優斗の二人で?」
「……? いや、俺と水凪と香菜と美波ちゃんでだ」
「…………そ、そうよね……はぁ~。で、私に美波を説得しろと……」
「ああ、話が早くて助かる」
「分かった、じゃあ後で承諾が得られたら連絡する」
「ありがとう」
――という会話を昨日していたのだ。
優斗は、流矢のアドバイスから、美波ちゃんと距離を近づけるためには、遊園地デーとをするのが一番だと考えたのだ。
「それじゃあ、まずどこから周ろうか――」
「あ! わたしあれのってみたい」
香菜が指をさしたのは、メリーゴーランドだった。
「いいね~、メリーゴーランドなんて小学生ぶりだよ」
「何気に俺は初めてかもしれない」
「美波もそれでいい?」
「うん……」
美波が承諾したのを確認すると、香菜は一目散に走りだし、優斗たちはそんな香菜を追いかける。
香菜は初めて乗るメリーゴーランドに興奮を隠せないでどこかソワソワしていた。
「わたしは、このおうまさんにする!」
「じゃあ、俺はこのしっぽが立派な馬にしようかな」
「なら、私はこの毛色が可愛い馬で」
「…………」
優斗たちはそれぞれ、自分たちが乗る木馬を決める。
メリーゴーランドはキャストのお姉さんの掛け声とともに発信した――
「わぁ~たのしかった!」
「楽しかったね……」
香菜は、満足げな表情を浮かべ。美波も強張った顔が少し綻んだいた。
「……メリーゴーランドってこんなに恥ずかしいんだね」
「…………そうだな」
(周りに乗ってるのは幼い子共ばっかりだし、周るたびに我が子を撮っている両親のカメラに映るわで…………若干笑われていた気もしたような……恥ずか死ぬ……)
ご機嫌な二人と、赤面した二人は次のアトラクションへと向かう――
それからティーカップや、宝物を探すアトラクションに乗り終えた優斗たちは、サンドイッチやおにぎりなどの軽いランチメニューを食べられる店で昼食を済ませた。
「はぁ~美味しかったな。次はどんな乗り物に乗ろうか」
「わたしは、あのはやくてビューンってしてるやつにのりたい!」
「やっぱり!? 私も乗りたかったんだよね!!」
香菜と水凪が乗りたがっているのは、遊園地の絶叫マシン――ジェットコースター。遊園地の楽しみの一つでもあるスリルが味わえる乗り物だ。
「…………俺はパスで」
「むぅ、ゆうともいっしょにのろうよ」
「そういえば、優斗って昔から絶叫系苦手だったよね」
「ああ、高い所苦手で……」
「なら、香菜ちゃん私と行こっか!」
「うん! いく!」
「美波はどうする?」
「私はっ…………」
美波は何かを言いかけたが声には発しない。その表情は何かを葛藤しているようだった。
「……私は…………やめとく」
「……そう? なら私と香菜ちゃんで行ってくるね」
「水凪、香菜をよろしく」
水凪は、任せてと言わんばかりに親指を立て、早く乗りたくて仕方がない香菜を連れてジェットコースターへと向かっていく。
二人を待つ事にした、優斗と美波はベンチに腰を掛ける。
「…………」
「…………」
優斗と、美波の間には会話が無く少しぎこちない。
そんな雰囲気に耐えかねて、優斗が口を開く。
「美波ちゃんは、水凪たちと一緒に行かなくてよかったの?」
「……はい」
「……今日は、突然だったのに来てくれてありがとうね」
「……はい」
「今日、楽しくなかった?」
「……いえ、人が多くて……」
(……会話が続かない…………いや、距離を近づけるんだろがんばれ俺!!)
「実はさ、俺も学校に行ってなかった時期があるんだよ」
「…………」
美波が興味のありそうな顔をしていたので話しを続ける。
「あの頃は、何もかもが辛くてさ……とにかく周りの人を恨んだんだ。なんで、俺だけこんな目に合うんだってね。それで絶望して家に籠っていた時、声を掛けに来てくれたのが水凪だったんだ。」
「……なぎ姉が?」
「そう、水凪と流矢の二人が俺を暗闇の底から連れ出してくれたんだ。その時、ようやく気付いた、こんな俺のことを友達だって言ってくれる奴がいたんだってことを。それから俺は、周りのすべてを恨むことを止めて、自分の事を好きだって言ってくれる人を大切にしようって決めたんだ……」
どかか苦悩の表情を浮かべながら優斗の話を聞いていた美波は、突然口を開く。
「そんなの、出来ないよ!!」
優斗は突然の大声にビックリして美波の方へ目を遣る。
美波は泣いていた、ただただ苦しそうに泣いていた。
「恨まないなんて無理だよ……」
「美波ちゃん…………」
「だって、私は悪くない。私は、理央ちゃんのためを思って告白を断ったのに……なんで私が虐められないといけないの……っ」
優斗は、泣いている女の子相手にどう声を掛けていいのか分からなかった。それでも、辛そうに泣いている女の子を放っておくことが出来なかった優斗は美波を優しく抱きしめた。
「えっ? ちょっと…………」
始めは訳が分からず混乱していた美波だったが、辛さを抑えきれなくなったのか、優斗の胸で泣き出す。
「っ……私は、ただ皆と仲良くしたかっただけなのにっ、――」
美波は、ただひたすらに泣きじゃくった、周りの人の視線など気にも留めずに感情のまま泣いた。すべての涙が出きったのか、嗚咽が止まる。
「ごめんなさい、八つ当たりみたいな感じで色々愚痴を言ってしまって……」
「大丈夫、辛いのは痛いほど分かるから……ゆっくり解決していこう。もし、また辛くなったら、俺に相談してくれれば愚痴ぐらいは聞けると思うから……」
「ありがとうございます…………」
優斗は、美波にハンカチを渡す。
涙を拭き終えた美波は、すべてを曝け出したからかスッキリとした顔をしている。
「何か飲み物でも買ってくるよ、何か飲みたいのはある?」
「じゃあ、コーラをお願いします」
「はいよ! 後、そんなに
「…………」
「あ、いや、ごめんね急に馴れ馴れしかったよね…………」
優斗はそう言い、慌てて自販機へと向かう――
(はぁ~、何言ってんだ俺。急に馴れ馴れしすぎただろ。絶対、引かれたよ……)
後悔をブツブツと呟きながら、優斗が飲み物を買って帰ると、ちょうど反対側から歩いてくる香菜と水凪の存在が見えた。
「はい……美波ちゃん」
「…………」
優斗は、顔を合わせてくれない美波に本当に嫌われたかもしれないと思い悩んでいると、水凪と香菜がベンチに到着する。
「ゆうと、ジェットコースターたのしかった! こう、ぐわーってかんじで」
「そうか、よかったな!」
「ところで、美波なんかあった? そんなにスッキリしたような顔をして」
「別に……ゆう兄が相談に乗ってくれただけ」
「…………え?」
「……ゆう兄? 優斗ちょっとこっちに来て」
優斗は、若干怒りを浮かべている水凪に手を引かれて、ベンチから少し離れた場所に連れていかれる。その途中にベンチの方をチラっと見ると美波がベロを出して笑っていた。
(美波ちゃん!? 兄のようにって言ったけどこれは違くない!?)
それから、しばらくの間水凪からの質問攻めにあう優斗だった。
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