第9話 家庭教師
「なに悩んでるんだよ、また香菜ちゃんの事か?」
「いや、美波ちゃんの事だ」
「香菜ちゃんといい美波ちゃんといい、お前ってもしかしてロリコ――」
「――違うわ!!」
優斗が考え事をしていると、流矢が話しかけて来た。
「じゃあ、美波ちゃんの何を考えてるんだ?」
「――ほら……俺この前、水凪に家庭教師を頼まれてただろ」
「ああ、頼まれてたな」
「それで、結局引き受けることにしたんだが…………口すらまともに聞けてない状態だろ。だから、どうすれば仲を深められるのかなと」
「そんなの簡単だろ」
「本当か!?」
「デートすればいいだけじゃねえか」
「…………」
(こいつにまともな意見を求めた俺がバカだったよ)
「お前なぁ、それが出来たら苦労しないんだよ…………」
優斗は、俯いたまま口を
「…………どうしたんだ?」
「――いや、ちょっと待てよ……それ良いかもしれないな! ありがとう、助かった」
「おう! 何だか分からないけど頑張れよ!」
優斗は、流矢に「またな」と告げて、即座にリュックを背負い昇降口へと向かった。
――放課後、昨日と同じように水凪と共に七瀬家へと向かう優斗。
「そういえば、家庭教師の話なんだけどさ。早速今週の金曜日からお願いしてもいい?」
「それは構わないが、美波ちゃんは俺が家庭教師をやることを承諾してくれたのか?」
「一応ね……。勉強をしたいって言いだしたのはあの子だし」
「そうなのか? てっきり水凪が勝手にお願いしてきただけなのかと思ってたよ」
「ははっ、違うよ。美波にもきっと何か思うところがあるんだよ……」
水凪が急に優斗の一、二歩先に進んで止まる。
優斗は何事かと思い、下を向いていた顔を上げた。
優斗の目に水凪の後ろ姿が映ったと同時に、水凪はくるっと振り返り口を開ける。
「だから、美波をよろしくね! 私の親友!」
「おう! 任せとけ《親友》!」
――金曜日、七瀬家。
いつも、通り香菜の迎えに来た優斗。
今日は、水凪と約束をしていた家庭教師の日だ。
香菜と美波は、リビングで何やらクッキングをしていた。
優斗が、その光景を見ていると、香菜と目が合う。
「ゆうとおかえり!」
「ただいま! それで何を作っているんだ?」
「ないしょ! できてからのおたのしみ!」
「そうか、なら完成が楽しみだ!」
優斗と香菜が微笑ましく会話をしていると、水凪がジーっと優斗の顔をみていた。
「…………」
「なんだよ」
「顔が緩んで大変なことになってたよ、優斗ってもしかしてロリコ――」
「違う」
(流矢に言われるならまだしも、この前お持ち帰りしたいだとか言ってたやつがそれを言うか)
それからしばらくして、オーブントースターの終了音と共にバターとチョコを合わせたような香ばしい香りが漂ってきた。
美波が、オーブントースターから焼き上げたものを取り出して、机の上へ運んだ。
出来上がったもの――クッキーを、美波と香菜の二人が口へと運び恍惚とした表情を浮かべる。
優斗がそれを見て喉を鳴らしていると、香菜がクッキーを手に持って近づいて来て、優斗の口の前に差し出す。
「はい、おくちけて~。あ~ん」
「…………」
(いやいや、あーんは流石に恥ずかしいって!!)
優斗は、口を開かずに手で受け取ろうとするが――
「ほら優斗、香菜ちゃんがあ~んしてくれてるんだから口開けなきゃ」
「くっ…………」
水凪の横やりにより阻止される。
もうあ~んするしかないと、決心を決めた優斗は恥ずかしがりながら口を開けた。
「あ~ん」
優斗が口を開けると同時に、口の中にチョコレートの甘い風味が広がる。
味としては、カント〇ーマームを想像してもらえると近いだろう。
「ん! 美味いなこれ!」
「でしょ! これはわたしがつくったやつなんだよ」
「うん、本当においしい! おかわりしたいくらいだ」
「えへへっ」
香菜は満足げに胸を張り、「まだあるよ」と言いどんどんと優斗の口へ放り込んでいった――
「はぁ~、お腹いっぱいだけど美味しかったー」
たらふく食べて体が重くなっていた優斗は、ソファーに腰を掛けてクッキーの余韻に浸っていると、美波ちゃんが寄って来た。
「あの…………」
「?」
「その……」
「どうしたの?」
「か、家庭教師よろしくお願いします…………」
「うん! こちらこそ、よろしくね!」
時刻は、家庭教師の約束の時間まで残り一、二分といったところだ。
「どこでやろうか?」
「……リビングでも……いいですか?」
「もちろん!」
「少し……待っていてください…………」
そう言うと、美波ちゃんは二回から勉強道具を待ってきた。
「今日は何の教科をやろうか」
「…………理科」
家庭教師をしている間は、水凪が香菜の面倒を見ていてくれている。
ちなみに、家庭教師と言っても、美波が解いて分からなかった問題を優斗が教えるという形なので、実際にやることは少ないはずなのだが……開始、一問目ですでに美波の手は止まっていた。それから、数分過ぎたが状況は変わらない。
優斗は、教えた方がいいと判断して口を開く。
「美波ちゃん、これはこの式をあの式に代入して――」
優斗が解説を終えると、美波の手が動き出した。
しかし、また数分すると手が止まる。
そして、優斗が解説をする。そのサイクルを何度か繰り返して、その日の家庭教師は終了した。
勉強が終わった後、香菜と美波は作ったクッキーをラッピングしていた。
「香菜、もうすぐ帰ろうか」
「はーい」
外は、とっくに夜の帳が上がっていた。
帰りの準備を素早く終えた優斗は、少し話があるといい水凪を呼びだした。
水凪は少し不安そうな顔をしながら、優斗に着いて行く。
「どうしたの? 玄関なんかに呼び出して」
「お願いがあるんだ…………明日、俺とデートしてくれ」
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