第7話 ツインテールの女の子


「ただいまー」

「『おじゃましまーす』」


 水凪と流矢は靴を脱いだ後、玄関をキョロキョロと見回している。


「へえー、ここが今の優斗の家なんだ」

「結構、キレイにしてるんだな」

「まあ、一人暮らしだったし。住んでから日が浅いからな」


 そんなやり取りを交わしていると、リビングの方からドタドタと足音が近づいて来た。

 三人がリビングに目を遣ると同時に、勢いよく廊下とリビングとを隔てるドアが開く。


「ゆうとおかえり!! みてみて、すごくピカピカにしたから!」

「ああ、ただいま!」

「……そのヒトたちだあれ?」


 香菜は知らない人たちがいることに対して、大量のはてなマークを浮かべている。


「紹介するよ、こいつらは俺の学校の友達の――」


 優斗が、香菜に紹介しようと二人の方を見ると、なにやらひそひそと話している。


「ねぇ、あの子めちゃくちゃ可愛いんですけど!?」

「ああ、俺も今衝撃を受けてる。こんなに可愛い生物がこの世にいたのかってね」

「はぁ、お家に連れ帰りたい……」

「…………」


(こいつらを香菜と関わらせて本当に大丈夫なのか? 特に水凪…………)


 優斗は良からぬことを考え出していた二人の額に、デコピンをお見舞いした。

 二人はごめんごめんと苦笑した後、自己紹介を始める。


「香菜ちゃん、怖がらせてごめんね。私は優斗の友達の七瀬水凪、よろしくね!」

「同じく優斗の親友の鷹月流矢だよろしくな!」


 香菜はようやく警戒心を解き、いつもの優しい表情になった。


「わたしは、香菜よろしくね!」

 


自己紹介を終えた後、優斗は香菜に腕を引っ張られながらリビングへ向かう。 

リビングに入るのと同時に優斗の目には、ホコリ一つない綺麗に片付けられた部屋が映る。


「うわぁ、これ本当に香菜が一人でやったのか?」

「えっへん!」


 香菜を見ると、腰に手を当てて胸を反らしている。


 優斗が「凄いピカピカだありがとう」と褒めると、香菜は撫でてもらいたそうに頭頂部を優斗に向けた。


 優斗が、香菜の頭を優しい手つきで撫でていると、玄関の方から遅れて二人がやって来た。

 二人に対しても、「わたしがピカピカにしたんだ!!」と誇らしげにしている。


 優斗は、その光景を微笑ましく眺めていた。


(香菜がこうしていろんな人たちと仲良くしているのを見ると昔を思い出すな……)



 二人に褒められて嬉しそうにしている香菜に優斗は声を掛ける。 


「香菜、今から水凪の家に行くんだけど一緒に行かないか?」

「いく!!」

「じゃあ、お昼ご飯を食べたら家を出ようか」


 そうして、四人で昼食を済ませ七瀬家へと向かう――



「ようこそ七瀬家へ。さあ、上がって上がって」

「『おじゃまします』」


 水凪家は優斗の家から、徒歩十五分程度の場所にある一軒家だ。


「それにしても、久しぶりだな……」


 優斗は、昔遊んだ時の記憶と照らし合わせ懐かしんでいた。

 香菜は、他人の家に行くのが新鮮なのか、落ち着かない様子で辺たりをキョロキョロと見回している。


 優斗らは、水凪の部屋へと案内された。


「ごめんね、散らかってて。適当にそこら辺座っといて。私は美波と話してくる」


 そう言って、水凪は部屋から立ち去る。


「…………」


(女子部屋だと思うと妙に緊張するな……昔は特に何にも感じてなかった筈なんだが)


 脈を打つ速度が増していた心臓を、一度深呼吸をして落ち着かせる。

 平常心を取り戻した優斗は、せっかくなので流矢の気恥ずかしそうなツラを拝んでやろうと思い流矢の方を見るが、淡々とした様子でソファーに座っていた。


(そうだった、こいつしょっちゅう女の子の家に遊びに行くような奴だった……)


 優斗は流矢を一瞬睨んだ後、香菜と一緒にカーペットに腰を下ろす。


 それから、流矢が香菜に色々と質問をしたり、しりとりなどをして過ごし数分が過ぎた頃、こちらに近づく足跡が聞こえてくる。


「お待たせー、少し時間かかっちゃって」

「…………」


 水凪と共に可愛らしい女の子が入って来た。


 水凪より薄い茶髪で、ツインテールに結んでいる。長い睫毛に覆われているパッチリとした大きな目、乳白色の肌に薄紅色の頬。まるで、物語の中から飛び出してきたかのようだ。


「ほら、自己紹介して」

「七瀬美波です…………」


 美波は、斜め下辺りを見ながら自己紹介をした。

 優斗は、記憶にある彼女と目の前にいる彼女とが重なり合わずに少し困惑していた。


「よろしく、俺は優斗」

「わたしは、香菜!」

「俺は、流矢だよろしくな」

「……よろしくお願いします」

「…………あっ、そうだこの子がさっき言ってた香菜ちゃんね」


そう、水凪が言うと、美波は顔を少し上げて香菜を視界に入れた。


「……よろしく、香菜ちゃん」

「うん!!」


(二人が仲良くできそうで良かった)


「香菜、お願いがあるんだ?」

「ん?」

「明日から俺が学校に行ってる間ここで、美波ちゃんと一緒に待っててくれないか?」

「いいよ!!」


即答だった。


(もう少し駄々をこねると思っていたが杞憂だったようだ。やっぱり香菜も友達が欲しかったんだな)


――その後、三十分ほど雑談した後、優斗たちは解散した。





 






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