第6話 お部屋はピカピカ


「――やだ、ゆうといっちゃやだ」


 朝食を食べ終わった後、優斗は泣きじゃくる香菜に抱きしめられていた。


「香菜、俺は学校に行かなくちゃいけないんだ。今日は昼には帰ってくるから待っててくれる?」

「やだ、ゆうとのばかぁ!」


 香菜が納得してくれそうになく、困り果てていた優斗。

 

(急がないと遅刻する。初日から遅刻はまずいよな……でも香菜を無理やり置いていくわけにもいかないしな…………)


「香菜、じゃあお手伝いしてくれる?」

「…………」


 そう言うと、香菜は優斗の腹部から顔を離し、優斗の顔を見る。


「そうだな~じゃあ部屋の掃除をしてもらってもいい? 俺が帰るまでにピカピカにしておいて欲しいんだ! お願いしてもいい?」

「ゆうとは、おへやがきれいになったらうれしい?」

「うん、嬉しいよ! 香菜にしか頼めないお願い」

「わかった! ゆうとがかえってくるまでにおへやピカピカにする!」

「ありがとう。すごく助かる!」



 ――それから、家から一人で出ないこと、キッチンには近づかないことなどの約束をした。


 優斗は「わかった!」と頷く香菜の頭を優しく撫でる。


「えへへっ」


 香菜のサラサラとした髪の毛を撫でることが気持ちよくて、つい長い間撫でてしまった――



「やばっ、遅刻する。香菜それじゃあお部屋の掃除任せるね!」

「うん! まかせて!!」


 優斗は玄関まで付いてきた香菜の頭を再び撫でて、玄関のドアを開ける。


「行ってきます」

「いってらっしゃ~い!」


 笑顔で手を振る香菜を後にして、優斗は学校に急いだ――



 何とかホームルームの時間に間に合った優斗は、頬杖をついて考え事をしていた。


 (明日から、どうやって香菜を説得しようか。頼める人の当てもないしな)


 はぁ~、と溜息をつきつつそんなことを考えていたら、ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴る。



 次の授業までの間、特に話す相手もいなかったので、机に顔を伏せて考え事をしていた優斗の背中を何者かが軽く叩く。何事かと思い優斗が振り返えろうとしたときに、聞き馴染みのある明るい声が飛んできた。


「そんなしけたツラしてどうしたんだよ!」

流矢りゅうや…………」


 話しかけて来たのは、優斗の中学からの友達である鷹月流矢だった。

 容姿、運動神経、学力、社交性、すべてを備えた完璧超人だ。

 

「久しぶり! 始業式の日、なんで話しかけてくれなかったんだよ! 探しても既に帰ってるし!」

「いやぁ、話しかけようとしたんだけど……お前の周りに人がたくさんいて……」

「これから一年を共にするクラスメイトなんだし、お前も混ざりにこればよかったのに」

「…………」


(客観的な意見を言われると改めて耳が痛いな…………)


「そんなことより、朝からずっと浮かない顔してどうしたんだよ」

「いやぁ…………」


 優斗は、真実を伝えるべきか迷っていた。


(香菜の記憶を取り戻すために、ほかの人の力も借りたいけど、昔亡くなったはずの幼馴染が昔の姿で現れた、と言っても信じてくれるだろうか…………)


 一瞬考えた後、流矢には本当のことを話そうと決意して、香菜のことを事細かく説明することに。


「――と言うことなんだ。やっぱり信じられないよね……」

「俺は信じるぜ! 人間生きてりゃ、不可解な事の一つや二つくらいあるだろ!!」


(ああ、やっぱりこいつは変わらないな…………流矢が友達でよかったよ)


「あ、今俺が友達でよかったとか思ってるだろ」

「思ってねえよ……でも、ありがとな」

「おうよ!」


 ――次の授業が終わった後、優斗と流矢は話し合いを再開していた。

 

「どうすれば記憶を戻せるんだろう?」

「漫画とかドラマだと、その時と同じ衝撃を与えるだとか、思い出の場所に連れていくとかが定番じゃね?」

「同じ衝撃は無理だとして…………思い出の場所か……」


(そういえば香菜、学校が大好きだったな。学校に関連した場所とかに行ってみるのもありだな)


 二人でああだこうだ熱弁していると、とある人物が割り込むようにして話に入ってくる。


「やあやあ、私をのけ者にしてな~に話しているのかな? 如何わしいことかな?」

「久しぶり、水凪みなぎ。相変わらずだね」


 そう、会話に交じって来たのは、流矢と同じく中学から付き合いのある七瀬水凪ななせみなぎだ。


(ホント、喋らなければ可愛いんだよな…………)


「今、私のこと可愛いなって思ったでしょ」

「残念ながら少し違うな……というか俺そんなに分かりやすいの!?」

「あははっ、優斗は顔に出やすいんだよ」


 横に目を遣ると隣で流矢もコクコクと頷いている。


「で? 何の話をしていたわけ?」

「はぁ~……実は――」


 水凪にも、流矢に話したことをそのまま説明した――


「ふむふむ、世の中不思議なこともあるんだね」

「信じてくれるのか?」

「当たり前でしょ! にわかには信じられないけど、友達のあんたが言うことなら信じるわよ!」

「水凪…………」

「これで私の好感度爆上がりかしら?」

「…………」


(ホント、俺の友達はいい奴らばっかりだな)


「そんな、優斗に良い話があるんだけど……」

「ん?」

「優斗が学校にいる間、私の家に香菜ちゃんを預けない?」

「それは願ったり叶ったりな話だけど…………いいのか?」

「……私に妹がいるのは知ってるでしょ?」

「ああ! あの明るくて元気な子な! 名前は確か美波みなみだよな」


 優斗は、流矢が名前を挙げた人物を頭に思い浮かべる。


「美波ちゃんか! 昔、何度か遊んだことがあったような」

「そう、私の妹――美波が今学校に行ってないの」

「…………そっか」

「それで、ずっと家に一人でいるのも良くないから香菜ちゃんどうかなって?」

「美波ちゃんや、水凪の両親の許可が出たらお願いしてもいいかな?」


(友達ができれば、何かしら良い変化があるかもしれないしな……)


「多分、大丈夫だと思うけど……伝えとく!」


 ――その後も、色々と話し合い、一度香菜に会いに行きたいとのことだったので、優斗は放課後二人を家に案内することに。

 










 

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