第25話 エースたちとの戦い(5)
日向は、ギガンテス戦のため、初めてギガンテスの本拠地、新東京ドームスタジアムに来ていた。。ここもドーム球場だったが、グリフィンズの本拠地、名城スタジアムとは、天井の雰囲気が違った。ここの天井は、名城スタジアムのような、屋根を支える鉄骨がなく、白い空気膜でできているので、明るかったが、その性で、高く上がったフライが見えづらかった。
日向は、試合前に、フライを捕る練習をしたが、見失いそうになることもあった。この球場になれている選手でも見失うことはあるので、初めてプレーする彼が、ボールを見失うことがあっても仕方がないことであった。
「なあに、曇り空と思えば、なんとかなるさ。」
日向は、強気な言葉を言ったが、内心では、少し不安だった。守備コーチも同様だった。
「曇り空とは、ちょっと見え方が違うから、気をつけた方がいいぞ。」
「大丈夫ですよ、コーチ。僕がカバーしますから。日向さん、見失ったら、すぐに合図して、しゃがんで下さいね。」
コーチの話に、ショートの長谷川が間に入り、フォローしてくれた。
試合は、パンサーズが、外国人選手のリーベル、ギガンテスが、エースの
彼は、前回のギガンテス戦でも先発したが、日向が打席に立った最終回は、抑えのバンディにマウンドを譲っていたので、日向と対戦するのは初めてだった。
東は、無難な立ち上がりを見せ、パンサーズの1、2番を、内野フライに打ち取り、ツーアウトで日向を迎えた。ネクストバッターズサークルで、東の投球を見ていた日向は、彼が、あまり力を入れず、軽く投げているように見えたが、二人ともポップフライに打ち取られたことから、見た目以上に伸びがある球を投げるのだと思った。彼は、ゴンドウのテレビで見た東の投球を思い出していた。
日向が打席に入ると、東の目の色が明らかに変わった。サインにうなずき、振りかぶって足を上げると、渾身のストレートを真ん中に投げてきた。
日向は、ベルト当たりにきたと思ってバットを振りにいったが、空を切った。キャッチャーが捕ったのは、バットよりボール1~2個分上だった。明らかに、前の二人より球が速く、延びも大きかった。
日向の大きな空振りに、場内は、大歓声に包まれ、両チームの応援も、初回からボルテージが上がった。2球目は、なんとかくらいついたが、前に飛ばすことはできなかった。3球目も勝負してくると思った日向は、今度こそ打ち返してやると意気込んだ。しかし、高めのボール球に手を出し、再び大きな空振りとなり、尻餅をついてしまった。
この三振に沸き返る一塁側スタンドに対し、三塁側はため息をついたが、見応えのある、力と力の勝負に、たくさんの拍手が送られた。
日向が立ち上がると、長谷川が、日向のグローブを持って駆け寄ってきた。
「三球目のストレートは、速かったな。それにしても、前の二人より球が速くなったな。」
日向は、グローブを受け取りながら呟いた。
「それは、彼が、日向さんを、強打者として認めているからですよ。俺たち並みの打者の時は、力を抜いて投げるんですが、ここぞという時は、ギアを上げるんです。最後は、日向さんのストレートねらいが、見え見えでしたから、さらにギアを上げたんでしょう。最初の対戦だから、一発かましに来たんですよ。でも、見てる方は、力が入って、面白かったですよ。」
日向は、車を運転したことがないので、ギアを上げるという意味がよく分からなかったが、雰囲気から、東が自分に対して、他の選手より力を込めて投げてきてくれたと理解した。
彼は、守備位置につくと、一塁側のギガンテスベンチの中に見える東の姿に、遠い昔対戦した、同じギガンテスのエース佐和山の姿を重ねていた。
回が進み、5回の裏のギガンテスの攻撃、4番のニッチモが、高々と三塁フライを打ち上げた。練習の時とは、違った角度、スピードで上がったフライに日向は、一瞬、打球を見失ってしまったので、試合前に言われたとおり、その場にしゃがんでしまった。。
それを見たショートの長谷川は、日向の近くまで猛ダッシュで駆け寄り、なんとかフライを掴むことができた。日向は、立ち上がると、帽子を取って,長谷川にお辞儀した。その様子に、パンサーズの応援席から拍手が起こった。
ベンチからこれを見ていたコーチは、長谷川が捕ってくれたことに安堵していたが、不安が的中したことに、心は穏やかでなかった。彼は、日向が戻ってくると、
「おい、しっかりしてくれよ。たのむぜ。」
と声を掛けてきた。さらに何か言おうとしたが、日向は、
「はいはい、分かりました。気をつけます。」
と言って、コーチの横を通り過ぎ、ベンチ裏に入っていった。
試合は、両投手の好投が続き、0-1で、ギガンテスの東が完封勝利を収めた。日向は、先発した試合で初めてノーヒットに終わり、東の前に3三振を喫した。
翌日からの2試合は、ともに1勝1敗に終わり、パンサーズは、後半戦初のカード負け越しとなった。日向も、2試合で1安打しか打てなかった。
日向がデビューしてから数試合が行われており、レギュラーとして出場するようになったので打数も増え、その分、ギガンテスも彼を研究していたのである。心配した首脳陣が、いろいろアドバイスしようとしたが、日向は、今の野球になれてきたのか、あまり気にしておらず、気楽に考え、本気で聞いていなかった。大伴は、そんな日向の様子を見て、心配し始めていた。
ギガンテス戦を最後に、パンサーズの長期ロードは終了し、大きく勝ち越して大阪に戻ってきた。そして、首位ギガンテスとのゲーム差も、5ゲームに縮まっていた。
大阪に戻ってきたとは言え、辛酉園球場はまだ使えないので、開幕戦を行った浪花ドームで試合を行うことになっていた。
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