第6話 魔神との関係

「これは……違うの! 誤解よ!」


「え……? な、何が……?」


「同意の上なの! コイツがそういう事を望んでるの!」


「そうなの……?」


『は、はい……これはボクが望んでる事です……』


「こ、こら! 何無理矢理言わされてる風な空気出すのよ!」



ギャーギャーと言い争っていると昨日の眼鏡のクラスメイト……ドリスが話しかけてきた。



「おはようございます、クライドさん。

彼女、インプではなかったのですね」


「あっ……そ、そうなのよ! コイツインプだって嘘吐いてたの! 実際は上級デーモンだったわ!」



流石にあの魔力でインプで通すには無理がある。

かと言って魔神だと言ってしまったら混乱は必至。

とりあえず上級デーモンという事でお茶を濁す。



「なるほど……いきなり上級デーモンを召喚、及び使役できるものなのですね」


「そ、それはぁ……えっと、運が良かった部分もあるから……っ!」


「運ですか……悪魔使いは奥が深いですね」



そう言って感心した様子を見せるドリス。

よしよし、なんとか切り抜けた……!


けれど息つく暇も無く、今度はギャル二人組が近付いてきた。

その内の一人……昨日アガレスを思う存分モチモチして抱き潰した長髪のギャルが口を開いた。



「このインプって超強かったんだね……」


「まぁ、そうね」


「や、実はさ……」



昨日好き勝手に触りまくった奴が実はヤバい奴……ってなれば弁明の一つでもしたくなるのが人情ってものよね。



「なに? 遠慮せずに言いなさいよ」


「……もっかい触らせてくんない?」



コイツ無敵か?

 


「いやまぁ……良いけど」


「マジでっ⁉︎ ありがと!」



長髪ギャルは昨日と同じく……いや昨日以上にアガレスを堪能している。

昨日は頭頂部の匂いなんて嗅いでなかったじゃない。



「ふぃ〜、良かった良かった……また宜しくねっ!」


「え、えぇ……」



ギャルって凄い。

あと一緒に居る短髪ギャルは何で一言も喋らないのかしら。


そうこうしている内に担任のミレス先生が教室へ入って来た。



「はい、皆さん席についてください。

あぁ、クライドさんは昼休みに職員室に来るように」



さらっと呼び出されたわ。

十中八九アガレスについてでしょうけど。


そして授業。



「今日は風魔法を勉強しましょう。クライドさんは先生と一緒にね?」


「はい」



ミン先生は今日も付きっきりで指導してくれる。


流石、と言うか当たり前と言うか……私より遥かにスムーズに詠唱を済ませて魔法を発動させた。



「さぁ、クライドさんもやってみてください」


「はい」



私も負けじと風魔法を行使する。

イメージするのは台風のような風の渦。

別にカマイタチのように風の刃を発生させる訳じゃない。

手の平サイズの竜巻を発生させるだけ。

それだけなのに……



「……ッ!」 



手の平で渦巻いていた風は呆気なく霧散した。



「あらあら、まだ慣れていないのですから仕方ありません。

諦めずに練習して行きましょうね!」


「はい……」



惨めだ……

私以外のクラスメイト……いや同級生はこれぐらいは簡単にやってのける。

そんな状況で一人出来ない自分が恥ずかしくて悔しかった。



「くっ……!」


『あーあ、見てられないなぁ』


「アガ……デーモン?」



宙に浮いて見守っていたアガレスが私に声を掛けてきた。

先生は事情を把握しているので特に気にしていないように努めている。

 


『ボクがコツを教えてあげるよ』


「ほ、本当に⁉︎」


『うん、まずはリラックスして?』


「え、えぇ……」

 


深呼吸をして心を落ち着かせる。

目を閉じて集中する。

するとアガレスが私の手に触れてきた。



『ボクが魔力の流れを作るからそれを感じ取るんだ』


「魔力の流れ……」



魔力は血液のようなものだと聞いた事がある。

体中に張り巡らされた血管の様に魔力が流れるイメージ……



「あっ……!」



身体の中を循環していた魔力がゆっくりと手のひらに集まっていく。

その魔力に渦巻く風のイメージを上乗せさせれば……!



「……出来ないけど?」


『あっれぇ〜……?』


「ふ〜む……?」



アガレスだけでなく事の成り行きを見守っていたミン先生も腕を組んで首を傾げている。



「何が原因なんでしょうか……」


『もしかしてだけど……』



アガレスがアガレスの癖に悩ましげに呟いた。



『エレナって致命的に才能が無い……?』


「そ、そんな事無いわよ! 見てなさい!」



そう息巻いてみたものの、結局今回も私は魔法を成功させることが出来なかった。

その後、浮遊魔法や魔法生物学の授業を経て昼休み。



「まず、公序良俗に反するような行為は控えるように」



呼び出された職員室でミレス先生から開口一番にそう言われた。



「い、いや! コイツの要望なんですって!

昨日先生も聴いてたでしょ⁉︎ コイツマゾなんですよっ!!」


「だとしても時と場合という物があるでしょう?

少なくとも公衆の面前でやる事ではありません」


「うぐぅ……で、でもそういう契約ですし……」


「? アガレスと契約を交わしたのですか?」


「えぇ、まぁ……軽い口約束みたいな物ですけど」


「ふむ、主従契約なら話は早かったのですが」


「それが出来たら苦労しません……」


「こればかりは仕方ありませんね。さて、本題です。

取り敢えずアガレスの事は軍に報告しました。

これ程の魔力量ならあちらも計測しているでしょうしね」


「それで……軍はなんと?」


「経過を見る、だそうです。現状大人しくしているのならば無闇に刺激はしない、と」


「なるほど……」


「但し、アガレスが一人でも死傷した場合は直ちに軍を派遣するとの事です。分かりましたね?」



そう言ってミレス先生は私の背後に居るアガレスをジロリと睨み付ける。



『分かってるよ〜、ボクだってせっかく顕現したのに軍と喧嘩なんてしたくないもん』



負けるつもりも無いけどね、と付け足した。

ミレス先生はそんなアガレスに溜息を吐いて私に向き直る。



「話は終わりです。行って構いませんよ」


「はい。失礼しました」



ぺこりと頭を下げて職員室を出る。

廊下に出るなりアガレスが話しかけてきた。



『ねぇ、お腹空いたから何か食べさせてよ』


「悪魔は食べなくても平気でしょうが」


「気分だよ、きーぶーん!」


「はいはい……分かったわよ」

 


教室に戻って鞄の中から朝作ったサンドイッチを取り出す。

それを机の上に広げてアガレスに放りながら食べているとキャロが近付いてきた。



「エレナちゃん、大丈夫だった?」


「えぇ、そんな大事では無いから」


「良かったぁ……エレナちゃん、インプちゃん……デーモンちゃん?を召喚してからちょっとタガが外れてるというか、大きな何かに振り回されてる感じがしたから……」


「大丈夫よ、心配してくれてありがとう」


「う、うん……」



少なくとも初日は初使い魔でテンション上がってただけなんだけど……

今日だってドン引きしてたのにこんなに心配してくれて……天使だわ。



「はい、キャロ。あ〜んして?」


「えっ? あ〜ん……むぐっ」


私は自分のサンドイッチを一つ取ってキャロの口に突っ込んだ。

突然の事に目を白黒させるキャロは可愛いわね。



「えふぇふぁひゃん?」


「お礼よ。お礼になるか分からないけど」


「……ッ!……ッッッ!!」


「え、そんなに嫌だった……⁉︎ ご、ごめんなさい調子に乗りました……」


「い、いいいいい、いやじゃ、ないよ……!」


「そ、そう?」



う〜ん、キャロは優しいから本心なのか気を遣ってるのか分からないのよね……



 

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