第8話 プロローグ8
カリスーラ暦758年6月1日
さて昨日は父と妹の居る手前無茶はしないと約束したが、予想以上のスピードで病気が拡大していると聞かされた今、家族の為にも多少の無茶をする必要があるだろう。
ハンターは基本的にペア以上の人数で素材の回収や要人の護衛の任務を受けることが推奨されている。それは実力が足りていないのもそうだが、ソロだと身体を休める暇もないからだ。
当たり前のことだがソロは本来役割を分担することを全て自分で負担することになる。
魔物の探索では1人で全方位をカバーする必要があるし、魔物との戦闘では1人しかいない為どうしても自分1人に攻撃が集中し、隙を突くことは最初の一撃以外ほぼ不可能だ。また1人である分体力の消耗も早くなり、対多数になれば弱い魔物でも命が危ない場面が多くなる。
さらには魔物との戦闘を終えて解体作業に取り掛かる時も周りを警戒をしなければならないし、野宿をするとなれば夜営の必要も出てくる。そうなれば体力の回復も満足にできなくなる為翌日の体の動きが悪くなる。
こういった事情もあって確実に1人で達成出来る簡単な依頼の場合か、圧倒的な実力を持ち1人で全て対処出来る1級、若しくは特級のハンター以外はほとんどソロで依頼をこなさないのだ。たまに物好きな一匹狼気取りの奴もいるが、そんな奴は大体実力が伴っていない為すぐ死ぬ。
自分も当初は他のハンターとパーティーを組んで素材の採集の依頼を出そうかとも考えたが、今回の素材採集は危険な場所へ行くだけでなく流行病の感染地域に近づく可能性もある危険な依頼となる。
その為他のハンターたちがこの依頼を受けてくれる可能性は低いと考え直し、依頼するのはやめた。もちろん正義感の強い人ならば依頼を請け負ってれるだろうが大半のハンターはこのような時、大抵は自己の保身に走る。この仕事を長く続ける秘訣はいかに自分の命を失わないかにかかっているからだ。
さて少し話が脱線したが、話を元に戻すとしよう。今回はかなり危険だが上記の様な理由もありソロで探索を進めることにする。ソロのため1回目と同程度の成果を出すためにはより質の高い素材や、希少な素材を採取してくる必要がある。前回よりもかなりの危険を伴う場所へ行くことになるがやるしかないだろう。
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カリスーラ暦758年10月5日
俺はこの約4か月間脇目も振らず素材採集に精を出した。
前回と同様まずサントリア山脈から始め、カンテラのダンジョン、ゴシーヌの森、フィアル大洞窟を大体1ヶ月かけて一回りしてきた。それぞれ前回よりも少し奥に潜り、素材を採取してきた。この際に少しヘマをして怪我を負ってしまったが、持ち込んでいたポーションのお陰で大きな怪我に至ることはなかった。
フィアル大洞窟の探索が終わった後は更に向こう側に存在しているカサザンカ湿原、オクデールノ湖、ネスカ峡谷、ファハン大草原といった地域まで足を運んだ。
カサザンカ湿原やオクデールノ湖では環境の違いのお陰で比較的多くの素材を回収できた。一方でネスカ峡谷やファハン大草原ではサントリア山脈や街の近くでよく見かける魔物や動植物が多かったため、あまり珍しい素材を採取出来なかった。ただ大草原はまだ一部しか探索できていないのでもっと別の場所に移動すれば見かけない魔物を見つけることが出来るかもしれない。
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カリスーラ暦758年10月15日
10日かけてフィアル大洞窟の近くにあるフィアルの街に戻ってきてギルドで魔石やつかえない素材の換金を行おうとしていると、ギルドに併設されている酒場からふと気になる情報が耳に飛び込んできた。
「おい、今巷で流行してる病気あるよな?」
「ああ、それくらい今時子供でも知ってる情報だぜ?当然知ってるよ。相当やばいっていう病だろ?なんでも病気にかかれば致死率50%で薬師もお手上げらしいな。」
「そうらしいな。」
「このままだと俺らもころっと逝っちまいそうだな。どっか違う地域にでもトンズラするか?」
「ああ、特効薬が出来なかったらそれもありだな。だけど俺の話の本番はここらだぜ。なんでもその病に効くって噂の場所があるらしいぜ!」
「おいおいそりゃほんとか?ま、どうせ眉唾物の噂だろうが聞いといて損はねえか。話してみろよ。」
「ああ、けど本当だったら薬師たちに高値で売れるネタだからな。少し耳を貸しな。」
ほろ酔い状態の2人のハンターはここから声のトーンを落として話し始めた。俺は慌てて感覚強化・耳の魔法を発動する。
「実はそんなに辺鄙なところにある場所って訳じゃねえんだ。むしろ何処にでもあると言ってもいい。」
「ん、名前も聞いたことのないような辺鄙なところじゃねえのか。それに何処にでもあるって何処だ?川か?」
「おいおい、もう酔っぱらっちまってんのか?俺らハンターには馴染みの深ぇ場所だよ。」
「ハンターに馴染みの深い場所…まさか!?」
「ようやく気がついたか、酔っ払い野郎。お前が今考えている場所で正解だ。」
「…ダンジョン、か。」
(ダンジョン!?なんでそんなとこが…)
俺は思いもしない場所が言われたことで動揺したが、情報を聞き漏らさないためにもなんとか耳を澄まし続ける。
「でもなんでだ?なんでダンジョンが流行病に効くって噂がたったんだ?」
「驚くのはわかるが、まあ落ち着いて聞け。実はだな、すでに流行病が蔓延している地域でも全然病気にかからない奴らがいたんでどんな奴らがかかってないか薬師のやつが訪ねて回ったそうだ。そうしたらかかってない奴の大半がハンターやダンジョン付近に住んでいた奴らだたったんだとよ。」
「成る程な、でもよ、ハンターでも病気になっちまったって奴結構耳にしたぞ。それはどうなんだ?」
「其奴らはダンジョン以外で活動している奴とか、ダンジョンに潜っていてもまだ日が浅い奴らだったんだと。それでもダンジョンに潜ってた奴は病気にかかってもまだ症状が軽かったり病気の進行が遅くなったりするんだと。」
「はぁーん、なるほどね。それじゃ俺らも大丈夫じゃねえか。最近は潜ってないが昔はダンジョンにも結構潜ってたしよ。」
「…それがそうもいかねぇらしい。」
「あぁん?ダンジョンに潜ってたら大丈夫じゃねえのかよ?」
「それがなんでもしばらくダンジョンに入ってないと抗体?みたいなものがだんだん減ってきて病気にかかっちまうらしい。実際昔はダンジョンハンターでブイブイいわしてた奴も病気になっちまったらしいからな。」
「おいおい、それじゃ結局俺らはヤベェまんまじゃねぇか。どうすんだよ。」
「そうだ。そこでだ、俺はこう考えたのさ。そもそもの話ダンジョンにずっと潜っておけばいいってな。そうしたら病気に罹ることもないだろうし、とうとう我慢出来なくなって外に出たとしてもある程度耐性がついて病気になり難くなるんじゃねぇかってな!」
「⁉︎…おい、何言って…いや、そうか、成る程!そりゃ名案じゃねぇか!そんなに強くねぇダンジョンなら金も稼げて病気にもならねぇ、最高じゃねぇか!」
「だろう!だから明日しこたま食料とポーションを買い込んでダンジョンに潜ろうぜ!」
「おうよ!ガッハッハッハッ!こりゃめでてぇ!おい、給仕の姉ちゃん!俺とこいつにこの店の1番高い酒を頼むぜ!」
金も稼げて病気にもならない可能性が高い儲け話で気分を良くしたところで彼らはまた別の話に花を咲かせ始めた。
一方で俺はというと特効薬の作成に役に立ちそうな情報がこの様な場所で簡単に転がり込んできたことに驚きと動揺を隠しきれなかった。
(クソッ、まさかこんな所で有力な情報が転がり込んでくるとは。ソロで素材集めに奔走していたのが逆に仇となるとは。こんなことならもっとギルドで情報の共有をしておくべきだったな。)
俺は取り敢えず魔石を売り払うのはやめ、素材だけお金に換金してもらって宿に帰って頭を整理することにした。
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