第6話 プロローグ6
カリスーラ暦754年3月20日
エスタの冒険者ギルドはサントリア山脈に近い街の西地区に位置している。
ギルドの建物は街の規模の割にはなかなか立派で大きな建物だ。
何故かと問われれば、ここエスタは魔物が多いサントリア山脈には徒歩で3時間の所に、カンテラのダンジョンが1日と半日の所に位置していること。そして商人や旅人などがサントリア山脈を無事に越えるために護衛を頼む最後の場所であることというのが主な理由だ。
サントリア山脈から帰って来た僕たちは魔物の剥ぎ取った部位を買い取って貰うのと僕の冒険者登録を済ませる為、冒険者ギルドに立ち寄った。
「ここが冒険者ギルドかぁ〜。結構大きいんだね。」
「エスタは冒険者にとって儲けになる仕事が多いからな。たくさんの冒険者がやってくる。結果、人数に合わせてギルドも大きくなったんだ。それにサントリア山脈の麓や低い位置は魔物も強くないから、新人冒険者がここにやってきて経験を積んでいくんだ。」
「なるほどね。」
ギルドの建物の大きさに少し圧倒されながら中に入る。
「中は結構賑やかだね。食事処もあるし、それに宿もあるんだね。」
「この規模のギルドならどの場所も似たような雰囲気だ。ただ宿があるのは大きなギルドだけだ。」
「ふーん。あ、掲示板に依頼がいっぱいあるよ!あれから取って依頼すんだね!」
「違うぞ。あれは常設依頼の掲示板だ。あそこに貼ってある依頼は受付を通さなくても依頼を達成した証拠を持っていけばお金がもらえる簡単な依頼しか貼っていない。」
「え、そうなんだ。じゃあ受付にいって自分の達成できそうなものを見繕ってもらうの?」
「そうだ。今までの依頼の達成具合や、ギルドのランクなどを考慮して受付が出した依頼の中から選ぶのが普通だ。」
「普通はってことは例外もあるんだね。」
「ああ。ランクが上がればギルドからの信用が上がってギルドの方が良い依頼を融通してくれるようになるし、指名依頼を受ける事もある。」
「へー、結構やる気が出そうなシステムなんだね。」
話をしながら中を進み、受付に着く。
「いらっしゃいませ、本日はどのような用事でこちらにお越しになられたのでしょうか?」
「息子の冒険者登録と素材の買取だ。」
「承知いたしました。では登録の方はここでお待ちください。買取の方は買い取り用のカウンターへどうぞ。」
「ミカ、俺は買取の方へ行くからその間に登録を済ませておくんだ。」
そう言うと父はささっと買い取りカウンターへいってしまった。
「ではこちらの用紙に名前、年齢、所属している国、住んでいる場所、戦闘スタイル、パーティを組む場合はそのパーティ名、パーティ戦闘時に望む役割、そして最後に受ける依頼の範囲をお書きください。これらは変更したくなった場合に受付で変更可能なので現時点の情報で構いません。」
受付の人に言われて用紙を受け取り、書き込みを始める。
(えーと、名前はミカエル=ファルベン、年齢は13、国はフィナンツ王国、住んでる町はシャルナンっと。戦闘スタイルかぁ。ソロで良いのかな?父さんとパーティを組んでるわけじゃないし、ソロでオールマイティって書いとくか。)
「じゃこれでお願いします。」
受付に用紙を渡し、確認してもらう。
「こちらにはソロと書かれていますが先ほどの方とはパーティを組まれていないのですか?」
「父とは僕が修行させてもらってるだけなので。これからたまに組むことになると思いますが、基本1人です。」
「そうなのですね、分かりました。ではこちらで登録させてもらいますね。しばらくお待ちください。」
そういって受付の人は奥に引っ込んだ。
(しばらくかかるって言ってたし、常設依頼の掲示板でも見ているか。)
そう思い掲示板に向かい依頼を眺める。
(ゴブリン討伐、各種スライム討伐、簡単に見つけられる薬草数種の採集依頼、町の掃除、外壁の補強、レストランの皿洗い、等々。なるほど本当に簡単な依頼しかないな。)
眺めながら色んな事を考えていると受付の人に呼ばれた。
「ミカエル=ファルベンさん、お待たせしました。」
名前が呼ばれたので再び受付に向かう。
「ミカエルさんの登録が完了しました。ではこちらが最初に渡す10級のプレートです。」
「ありがとうございます。」
「それではランクについて説明いたします。冒険者のランクは全部で11級存在し、10、9級が新人冒険者、8、7級が下級冒険者、6、5、4級が中級冒険者、3、2、1級が上級冒険者、最後にこちらが実力を計れない冒険者を特級冒険者として扱います。
そして上の級に昇級するには自分と同じ級の依頼なら20回、1つ上の依頼なら10回の達成が条件になります。なので1つ上の依頼を5回、同じ級の依頼を10回といった形で達成されても構いません。
ただし6級、3〜1級は規定の依頼達成に加え、ギルドで本当にその実力があるのかを確認するために試験を行います。
一応、特級についても説明させていただきます。特級になるためには特例の場合を除きまず1級になっている必要があります。そのうえで特定の分野において歴史的な偉業の達成といったことが条件となっており、現在ではなられている方はおりません。ここまでで何か質問はありますか?」
「依頼に失敗した時は何かしらのペナルティがあるのですか?」
「はい、依頼の失敗時には依頼自体に問題があった時や、天災、天災に匹敵するような生物との遭遇など特別な場合を除き、依頼者に対しての罰金が発生します。
また依頼の失敗が4回続いた場合やそのランクにおいて合計8回失敗した場合にはランクを1つ下げることになります。実力に見合ってない、というギルド側の判断だと思ってください。」
「そうなんですね。ありがとうございました。話の続きをお願いします。」
「はい、続いてですがギルドカードについてです。こちらがミカエルさんのギルドカードになります。あとこちらがプレートになります。」
「プレートがあるのにギルドカードも必要なんですか?」
「はい、プレートはあくまでその方のランクを簡易に当事者以外の方、つまり周囲に示すものであって、身分を証明するものではありません。一方ギルドカードはその人物の身分をギルドが保証するもので、仕事の時や自分の出身国以外の国において身分を提示する必要がある時に必要になります。非常に大切なものになりますので紛失しないように気を付けてください。」
「ギルドカードについても質問してもいいですか?」
「もちろん構いません。」
「このギルドカードは身分証明になると言いましたが、誰かに盗まれて利用されるという事もあると思うんですがそのあたりは大丈夫なんですか?」
「その疑問はもっともですが、心配ございません。こちらのカードにはまず偽造防止用にギルドの紋章が彫り込まれています。このギルドカードに魔力を流すと紋章が光るのでこれで本物か偽物かが判別できると言うわけです。それと個人の判別方法ですが、ギルドカードに所有者の血を記憶させることによって所有者の情報については所有者の魔力にしか反応しないようにさせます。そうすることによって所有者が魔力を流すと紋章と同じように所有者の情報が光るようになっています。試しに今魔力を流してみてください。」
言われた通りに魔力を流して確認する。
(確かに表面の紋章は光るが裏面の僕の情報の方はそのままだな。)
「なるほど、このカードにはまだ血が記憶されていない状態というわけですね。確かにこれなら偽造したり、個人を偽って使うことは不可能そうですね。」
「はい、信用していただけたようですね。ただしこの血が記憶されている期間は約3年だけになります。そのため3年の間に必ず血の更新を行ってください。更新されてないギルドカードは効力を失うのでまた新たにカードを作ることになります。」
「3年の間に血の更新ですね。覚えておきます。」
「また情報を変更したい場合はカードが所有者のものであることが証明できれば無料で情報変更の更新ができますので気軽にお申し付けください。」
「え、無料で変更できるんですか?」
「はい、パーティーの情報を変更する方が多いのでお金は取っておりません。」
「そうなんですね。ありがたいです。」
「はい。ではカードに血を数滴垂らして頂けますか?」
職員から小さなナイフを受け取って、指に押し当てる。
言われた通りにカードに血を垂らし受付に渡す。
「はい、では血の登録を済ませますので少しお待ちください。」
そう言い残して、ギルドの奥に引っ込む。
5分くらいしてから、受付に戻ってきて、
「お待たせしました。こちらに魔力を流しご確認ください。」
僕は再び渡されたギルドカードに魔力を通し文字が光るのを確認した。
「無事記憶されたようですね。それでは次に依頼について説明したいのですが、カードについての質問は以上でよろしいでしょうか?」
「大丈夫です。」
カードを自分のポケットに入れながら返事をする。
「では依頼についてですが、受けることができる依頼は常設依頼を除いて自分より1つ下のランクから1つ上のランクの依頼のみとなります。これはランクが低い冒険者が受けれる依頼を無くさないための制度となりますのでご理解ください。またランクの低い依頼を達成したとしてもギルドランクを上げるために必要な依頼達成回数には含まれせんのでこちらにもご注意ください。
そして1人が受領できる依頼は最大で同時に5つまで受けることができます。もっともこれは受付職員が5つ同時に依頼が達成可能であると判断したらという条件が付きます。普通は多くて3つまでとなります。」
「了解しました。」
「それではパーティについての…]
「いえ、パーティについての説明は組んだ時にお願いします。」
僕はパーティーについての説明を止めてもらう。
「承知しました。では基本的な事項については以上になります。何か疑問に思ったことがありましたら受付にお越しください。」
受付の職員はそう言うと、ギルドの奥に戻った。
ギルドについての説明が終って2、3分すると父も買い取りカウンターから戻ってきた。
「登録は終わったようだな、ミカ。」
「うん、父さんも丁度終わったみたいだね。魔物は一体いくらで売れたの?」
「ゴブリンやスライムはいつも通りだったがフェレライ・ベアに関しては結構な高値で買い取ってもらえた。なんと15万ホロカだ。特に毛皮に傷が少なかったのが良かったらしい。」
「ほんとに⁉︎そんなに高く買ってもらえたなんて今回はラッキーだったね。」
「ああ、思ったより稼げたし今日の夜は母さんたちに内緒で宿でパーっと豪華なもんでも食うか!」
「やった!女将さんの料理で豪華な食事かぁ。今からもうお腹がすいてきたよ。」
「はっはっは、それじゃ早く宿に帰るか!」
僕たちは宿に戻って豪華な食事を取り、一晩宿で過ごしてから僕たちの住む町、シャルナンへの帰途に着いた。
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