第5話 プロローグ5

カリスーラ歴754年3月20日



 1時間ほど昼休みを挟んで、再び目的の魔物の探索を開始する。

 探索している途中に何回かゴブリンやグリューン・スライムを見つけては準備運動とばかりに交代で討伐していく。

 探索を再開してから約3時間、ようやく目的の魔物の痕跡を発見した。


 「ミカ、この辺りからそろそろ目的の魔物、フェレライ・ベアの縄張りだ。この木に刻まれているマークを覚えておくんだ。実力のない奴がこいつの縄張りに入ったら最後、骨までしゃぶられると思え。こいつは縄張り意識が強いうえに鼻がいい。逃げてもどこまでも追ってくる。」

 「それならこんなに近くにいたら僕たちも危ないんじゃないの?」

 「確かに知らないで近づくとすぐに気づかれて準備できていない状態での戦闘になる可能性が高い。だが今回は俺が風下から探索をしていたからまだ気づかれていないはずだ。ミカ、戦闘準備をして俺の指示に従って動くんだ。いいな?」

  

 僕はゴブリンなどとの戦闘で感じた緊張とは比べものにならない緊張を感じながら返事をする。


 「了解。もう一度身体強化をかけておくよ。武器はどっちを準備しておけばいい?」


 「弓と魔法だけだ。それと魔法で使っていいのは風と水だ。初めてで近接戦闘は危険すぎる。その代わりに俺の立ち回りをよく観察して次の機会に活かすんだ。」


 「使うタイミングはどう決めればいい?」


 「俺が相手から距離を取った時だ。適度に注意を引きつけてくれ。あとできるだけ死角に動いて相手を翻弄しろ。そうすれば相手もイラついてくる。」


 「分かった。」


 僕たちは戦闘の打ち合わせをしながら奥へと足を踏み入れる。

 注意しつつ5分ほど進むと200m先に巨体がのそのそ動いているのを目に捉えた。


 「父さん、僕たちから見て10時の方角にいたよ。距離は200m。」


 「俺も確認した。まだこちらには気づいていないようだがあまり近づき過ぎると気づかれるな。とりあえず残り100mまで近づく。音は立てるな。」


 足音を消しながらゆっくり近づく。


 「よし、ここで別れる。ミカは狙いやすい木の上でいつでも矢を射れる準備をして俺の合図を待て。」


 父は僕にそう言い残すと僕と反対方向に回り込む。僕の矢に気を取られているうちに先制攻撃を決めるつもりのようだ。僕も最適な木に登る。


 (よし、そのつもりなら魔物の動きを阻害する魔法の方がいいな。)


 「(付与魔法・水・風)エレクトリック・フェアライエン」


 (ウィンド・フェアライエンも付与したいけど2つ付与するのはまだ難しいか。)


 僕は準備を終え、矢を番えながら父の合図が出るのを待つ。

 父もフェレライ・ベアから約70mのとこまで近づいてタイミングを伺っているようだ。

 フェレライ・ベアも何か異変には気づいたようだ。少しあたりを警戒し始めた。


 僕と父は息を潜めながらフェレライ・ベアが警戒を解くのを待ち続ける。

 いったい何分ほど待ったのだろうか。10分か30分か集中しすぎて時間感覚がなくなる。


 集中力が切れそうになる寸前、フェレライ・ベアが警戒をといた。と同時にそれを見逃さなかった父が僕に合図を送る。


 父が手を振り下ろしたのを確認して矢を放った。

 矢は目標のフェレライ・ベアの大きな背中に命中し、矢に付加された電撃によって動きを止める。

 父も僕に合図を出したのと同時に走り出していたようだ。矢が刺さった直後に剣撃を加える。熊の右目と鼻をやったようだ。

 僕もいくつか枝を経由しながら地面に降り、父のサポートに向かう。

 数秒して合流を果たす。


 「ミカ、行動阻害の魔法はいい選択だ。よくやった!おかげであいつの自慢の鼻を潰せた。そのままサポートを頼む。」


 「分かった、怪我しないでよ!」


 そう一言言葉を交し、再び戦闘に集中する。


 フェレライ・ベアも体の痺れが取れたため、僕たちに反撃してきた。


 長い手と爪を使った強力な攻撃だ。特に爪は食らったら大怪我は間違いない。


 父もそれが分かっているためすぐさま間合いを詰めて相手の有利を潰しにかかる。

 僕も距離を取りつつ父とフェレライ・ベアの立ち位置を確認し死角を取るため動き出す。


 フェレライ・ベアは図体が大きい割には素早く、中々死角を取り続けるのに手こずっていたが、そんな中父が右足に剣を一閃し相手の動きを止め、間合いから離脱する。

 

 「ミカ!」


 隙を作ってもらった僕は父の呼び掛けと同時に魔法を発動する。


 (先に父さんがさっき作った傷にもう一撃食らわす!)


 「(風魔法)ウィンド・シュヴェーアト!」


 風の刃を傷跡に叩き込み、さらにもう一つ


 「(風魔法)ブリッツ・ジャベリン!」


 雷の投槍も命中させる。矢に付与した時よりも攻撃力が上がり、体が痺れる時間も少し長くなる魔法だ。


 「全く、よく俺のこと考えてくれているなミカ!ありがとよ!」


 僕の魔法で再び動きを止めたフェレライ・ベアに止めを刺すべく父は剣に(付与魔法・風)ウィンド・フェアライエンを付与し、フェレライ・ベアに接近する。


 「ミカにとってお前は大いに役に立ってくれたよ。ありがとな。」


 父はそういってフェレライ・ベアの首を斬り落とし、戦闘が終わった。


 「はぁ〜、やっと終わったー。」


僕はそう言いながら地面にへたり込んだ。


 「ミカ、本当によくやった。結構な大物だったのによく最後まで集中して戦えたな。普通なら近くにいるとこいつの攻撃の威力にビビって動けなくなる奴の方が多いんだぞ?」


 「僕もこいつに接近してからは緊張しっぱなしだったよ。思ったより腕のリーチが長くて中々死角に移動できなかったしね。」

 「そんなのは出来ていたうちに入るもんだ。新人冒険者やランクの低い冒険者なんかはミカの半分も動けはしないだろう。」

 

 父に改めて褒めれて嬉しい気持ちになる。父に何か認めらるのは本当の一人前の薬師に近づいている証しだからだ。


 「それじゃ、少し休憩したら解体作業に移るぞ。」


 

*******



 「よし、今から解体作業に入る。このフェレライ・ベアで薬の材料になるのは胆と血液の2つだ。それと薬にはならないが高く売れるのが毛皮、爪、それに手の3つだ。肉も価値は高いが2人で持って帰るには量が多すぎる。今回は材料と高く売れる3つを持って帰る。解体ナイフを出せ。」


 「出したよ。どこから切ればいいの?」


 「まず毛皮からだ。胴体のだけでいい。その次に手首を斬り落とし、次にそこから流れる血液を瓶に詰めるんだ。最後に胆を取り出して終わりだ。」

 「分かった、やってみる。」


 解体作業は意外に力と体力が必要で時間がかかった。これからかなり練習する必要がありそうだ。


 「まあ、最初はこんなもんだろう。綺麗に解体できるとギルドに持って行った時高く買ってもらえることが多い。頑張って上手くなれ。」


 解体が終わったので忘れずに後処理をする。


 「今回の魔物狩りはこれで終わりだ。ギルドによってから宿に帰るぞ。」


 「なんでギルドによるの?」


 「換金とミカの冒険者登録を済ませるためだ。」


 「僕の冒険者登録もするの⁈やった!」


 「登録しておいた方が何かと便利だしな。もっと大きな街に行った時は薬師ギルドにも登録するからな。」


 「はーい!」


 僕たちは荷物を持って魔物に見つからないようにしながらエスタの街への帰途に着いた。

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