第4話 プロローグ4
カリスーラ歴754年3月20日
「おい、そろそろ起きろミカ。」
父が体を揺すりながら僕を起こす。
空はまだ夜が明けたぐらいで明るくはない。
「んーんんん、まだ夜明けだよ父さん。」
「何を言っている?山に移動する時間を考えたらもうギリギリだ。早く準備しろ。」
そう言われた僕は眠い体に喝を入れ体を起こす。
「起きたか。顔を洗ったら持ってきた装備に着替えるんだ。6時にはこの宿から出発するぞ。」
「了解。」
僕は顔を洗い、持ってきた装備に着替える。
僕の装備は魔物の革の鎧だ。鉄や他の鉱石の使われた鎧と比べて防御力は劣るが魔物の特性に応じて防火性や防水性などの追加効果が期待できる。またドラゴンなど高位の魔物の素材になると普通の鎧よりも軽くてなおかつ硬い鎧に仕上げられるらしい。
僕はまだ成長途中なので軽い革の鎧だが、父はそれに加えてミスリルと鉄の混ぜられた胸当てなどをしている。
「よし鎧はつけたな。出発前にもう一度武器の確認をするぞ。刃こぼれやヒビが入っていたらすぐに言え。」
言われた通り武器の確認を行う。
(剣は…大丈夫だな。)
(弓も…よし弦はへたってないな。矢も問題ない。)
(そして解体用のナイフは…うん問題なし。)
「父さん武器の確認は終わったよ。」
「よし、それじゃ出発するぞ。」
僕たちは装備と荷物を持ち宿を出発した。
*******
宿を出発してから大体2時間たった頃、ようやく目的の場所に到着した。
「よし、そろそろ魔物の探索を始めるが、その前に復習だ。ミカ、魔物を狩るときに気をつける事を3つ言ってみるんだ。」
「まず1つ目は常に退却できるような位置どりを心がける事。二つ目は敵の体をなるべく保ったまま殺す事。そして三つ目は魔物を倒した後は必ず処理をする事。」
「そうだな。では何故かは言えるか?」
「一つ目の理由は予期しない強敵に遭遇したときに自分の命を守るため。二つ目はこれは僕たち薬師にとって重要な事で、素材を確実に回収するため。三つ目は魔物がアンデット化しないようにするため、だよね。」
「オーケーだ。特に三つ目は絶対に忘れてはいけない。一般人に被害が出る可能性があるから気をつけろ。それじゃあ魔物のあと処理の仕方は?」
「火で灰にするか、聖水を魔物にかける、この二つの方法だね。」
「問題ないようだな。では魔物の探索を始めるぞ。感覚強化と身体強化の魔法をかけろ。」
父に言われて魔法を唱える。
「(生命魔法)センス・フェアシュテルケン」
よしこれ大丈夫そうだな。それともうひとつ
「(生命魔法)フィジカル・シュテルケン」
「掛け終わったか、じゃあ俺について来い。担当は右が俺、左がミカだ。」
そう言い終わると父はすぐに移動を始めた。
******
探索を開始してから大体30分位するとよく見る魔物のゴブリンを100m先で発見した。
「父さん、ゴブリン4匹見つけたけどどうする?」
「ゴブリンか、、目的の魔物ではないが倒しておこう。ミカはまだ魔物と戦闘をしたことがないしな。戦闘に慣れるためにも丁度良い数と強さだ。よし1人で倒してみろ、フォローはしてやる。」
初戦闘か。ゴブリンとは言え4匹いる。油断すれば軽い火傷じゃすまない相手だ。
一息吐いて体の緊張を和らげる。
(まずは状況の確認。数は4、それぞれ棍棒を持っているが遠距離武器はなし。魔法を使える個体もいない。)
頭の中でこれらの情報を整理し最適に魔物を倒すイメージする。
「父さん、いくね。」
父さんに行動開始を伝えてから背中にあった弓矢に手をかける。
弓の準備をしながらより確実を期すため、さらに50m近く。
「ここまで近づけば一つの矢で2匹貫けるな。」
矢を放ってから直ぐに近接戦闘に移行できる位置を確保する。身体強化している今ならゴブリンの元まで4秒ほどでたどり着くだろう。
深呼吸をしてから矢の威力を上げるため魔法を付与する。
「(付与魔法・風)ウィンド・フェアライエン」
まだゴブリン達はこちらに気づいていない。
息を潜めながらゴブリンが重なるタイミングを伺う。30秒ほど待ったその時、ゴブリンの頭が重なった。
瞬間、僕は矢を放ちすぐさまゴブリンの元に駆ける。
ビュッと音を立てながら矢は空気の抵抗を物ともせず、まるでゴブリンの頭に吸い込まれていくように命中する。
魔法で強化された矢はその威力を保ったまま後ろにいるゴブリンの頭も容赦なく貫いた。
(よし、2匹殺った!)
僕は頭の中で2匹倒したことを確認しつつ、残っている2匹を掃討するために走りながら剣を引き抜く。
(残りのゴブリンもいきなり2匹やられて混乱している。この隙に近い方のゴブリからたたく!)
草むらから飛び出し、近い方のゴブリンに剣を切りつけ、左腕を切り落とす。
(くそっ、頭を潰すつもりだったのにとっさに避けられた。)
剣を正眼に構え直し、ゴブリンの次の行動を伺う。
(2対1だけど1匹は片腕を失ってる。連携されると面倒臭くなりそうだな。片腕の方から先に倒す!)
ゴブリンに牽制のための魔法を放つ。
「(水魔法)ウォーター・ボール」
バウケットボール大の水塊が攻撃を受けていないゴブリンに向かって放たれ、胴に直撃し、吹っ飛ばされる。
(よし、今がチャンス!)
片腕のゴブリンに向かって突っ込む。
ゴブリンもまた反撃のため棍棒を振り上げ迎撃の体勢を整える。
お互いが間合いに入る。
(ここで左にボディフェイントを入れる!)
左にフェイントを入れると、ゴブリンはフェイントにつられて棍棒を左に振り下ろした。
僕は棍棒を振り下ろし無防備になった首に狙いをつけ剣を薙いだ。
(これで残り1匹!)
ゴブリンの頭が地面に転がったのを横目で確認しながらウォーター・ボールで吹き飛ばしたゴブリンの方向に顔を受ける。
しかし顔を向けると直ぐ近くまでゴブリンが迫り、棍棒を今にも振り下ろしそうな状況だった。
「うわっ‼︎」
とっさに剣を顔の上にあげ、剣の腹で棍棒のを受け止める。
「ウォーター・ボールで吹き飛ばしたのに、なんでこんなに早く攻撃できたんだ⁈」
僕は1人悪態をつきながらゴブリンの攻撃をなんとか凌ぎつつ、反撃のタイミングを待つ。
ゴブリンはだんだんと仕留められないことに苛立ち、どんどんと攻撃が大振りになってくる。
そしてついに大ぶりで棍棒を頭に振り下ろしてきた。
僕は攻撃をもう一度剣の腹で受け止め横流しし、体勢を崩してがら空きになった下半身に蹴りを入れ、相手の体勢を完全に崩す。
「これで、終わりだっ!」
そう言いながら剣を心臓に突き刺した。
ゴブリンは少し踠きながら最後の力を振り絞って抵抗するも、その足掻きが実ることはなく絶命した。
「はぁはぁ、これで全部倒したぞ。」
周りに危険がないのを確認して地面に腰を下ろす。
すると近くの草むらから父が出てきた。
「お疲れ、ミカ。初戦闘の割にはよく体が動かせていたぞ。よくやったな!」
「はぁはぁ、ありがとう父さん。けど思ったより緊張して、それに剣で肉を切る感覚とか血の匂いがまだ慣れなくて…」
「最初は誰でもそういうものだ。数をこなしていくとだんだん慣れてくる。」
「そんなものかな?」
「そんなものさ。さて本来ならこれから解体作業があるが、ゴブリンにはコレといって薬の材料になるものはないから討伐部位だけ切り取れば問題ない。」
「討伐部位?」
「討伐部位を冒険者ギルドに持っていくと報酬もらえるんだ。もちろん冒険者登録をしている必要はあるし、依頼を通していない分買取金額は落ちるがな。もちろんお金が欲しくないならとらなくてもいい。まっ、持っていけば金が貰えるのに持っていかない奴なんてほとんどいないがな、はっはっはっはっ!」
話しながら父は討伐部位の耳を袋に入れる作業をこなし、取り終わってからゴブリンの死体に火魔法を放って死体を処理した。
「ミカも初めての戦闘でいつも以上に疲れただろ?ここで一旦昼休みにしよう。」
「そうしてくれると助かるよ、今は少し動けそうにないから。」
僕たちは僕の初めての戦闘の良かった点と反省点を話し合いながら、昨日の夜宿の女将から貰った弁当を食べ、昼休みを過ごした。
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