第2話 平和を求めて

 王子は信頼できる騎士をひとりだけ連れて、パナスの民になりました。 

 さぁ婚礼の準備を始めよう、という矢先のことです。


 オーニアがディオモルト王国へ宣戦布告をしました。嫁取りに負けた腹いせであることは誰の目にも明らかです。

 ディオモルト国王は、この戦をもって大陸を平定したいと明かしました。

 次の時代に、争いを持ち越したくないのです。


 パナス国王も同じ気持ちでした。ですからディオモルト王国に味方して、参戦することを決めたのです。

 祝福の雰囲気から一転、あわただしく戦支度が始まり、出立の日はあっというまにやってきました。


 パナス軍は山頂の砦まで登ると、美しい街並みを目に焼き付けました。

 ロガラ山脈の天然の防壁で守られているパナスは、一度も他国に攻め込まれたことがありませんから、漁師たちのほとんどは、はじめて戦争に行きます。不安ですが、自分の子どもたちの未来のために、心を奮い立たせました。


 ロガラ山脈の反対側はとても切り立っていて、馬が走れる道はつづら折りの長い道のりです。ですから王様も馬には乗らず、「沢の道」と呼ばれる獣道を駆け下りて、あっというまにディオモルト軍に合流しました。



 男たちが戦地へ行ってから、早半年がたちました。

 手紙によればディオモルト軍が優勢の様子ですが、無事に帰ってくるまで安心はできません。

 アンは毎日街へ出て民たちを励まし、民も国の留守を守るアンを助けて暮らしています。

 子どもたちですら、遊びの時間を釣りに当てて、皆が腹をすかせることが無いように手伝ってくれました。


 しかし知らせは、唐突にもたらされました。

 城のホールへ飛び込んできたのは、王子がディオモルト王国から伴ってきた騎士でした。

 鮮やかな緑色の瞳が凛々しく、町の女性たちはすいの騎士様などとあだ名しています。

 しかしこの時の騎士は、土埃に汚れて、ひびわれた唇からは血がにじんでいました。


「ディオモルト王国……大敗!」


 青ざめた姫は、パナス軍がどうなったか尋ねます。

「パナス軍は全員捕らえられました」

「父も兄も……あの方もですか」

 はい、と無情な答えがかえります。


 この知らせを持ち帰るために、騎士は三日三晩走り通してきたというのです。

「オーニア本隊が前線に到着すれば、陛下たちは処刑されるでしょう」

 

 アンは今、父と兄と婚約者を同時に失おうとしているのでした。

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