第43話 想定通り

 リベルタス・オンラインのアップデート当日、追加された様々な新機能をプレイヤーたちは楽しむ……どころではなかった。


 EXモンスターに関するスレッドに言論統制は流石に度が過ぎている。何が「圧倒的自由」だ、発言すらできないじゃないか。初見殺しのためのギミックなんかやめてしまえ。くたばれクソ運営。


「…………とか思ってるんだろうなぁ……」


 リベルタス・オンライン開発及び運営のビル、メガネをかけた小太りの男は、缶コーヒー片手にため息をついた。


「まったく、いい迷惑だぜ。ほら、こんなメッセージまで来てやがる」


 隣に立つ細身な男はスマホの画面を見せる。件名は「ふざけるなよゴミ運営が」。


「うわっ、ひどいですよぉこれは……」

「ほんとだよ。あれに関しては――」


 EXモンスターに関する言論統制は――


「「俺たちやってないんだよなぁ……」」


 そう、これは彼らの仕業ではない。無論、彼ら以外の社員でも。


 ならば誰がやったか? 答えは簡単だ


「まさかあのEXモンスター自身が意思を持って自分の情報を消してるなんて……」

「EXの野郎どもはみんなコンセプトに従ってそれ専用の作成チームが全力で作ってるからなぁ……。受け取った情報から自分で考えて動くならまだしも、自発的にやるとか聞いてねぇっての」

「そして自分で掲示板の仕組みに干渉して怪しい情報は全部バグらせる……。ゲームのキャラクターがシステムに影響を及ぼすなんて普通考えられますかぁ?」


 ないだろう。意思を持ち、システムに干渉ができる存在なんてもの、少しでも何かを間違えた瞬間にゲーム全てが終わりかねない……だが、


「それでも社長とEX作成のチームは「想定通りの挙動をしている」だってよ……。全く何を考えてるんだか」

「なんか陰謀めいたモノを感じちゃいますねぇ」

「やめとけやめとけ。俺らの仕事は指示されたことをやるだけだ。下手に動いて無職にはなりたくないだろう?」


 ◇◆◇


 えーーっと……ねぇ、

 俺がラセツの攻略方法を思案しているおよそ1時間の間に何があったのやら。

 俺とその周りで事件が3つ発生している。それもかなり大事件。


 まず1つ! 『躱撃解放』が消えてる!!

 どうりでラセツと戦った時に発動しないわけだわ。作戦練る上でスキル見返してたら見つかんねぇ、それでステータス確認したら『躱撃』の項目が消えてるじゃあないか!

 その後メールボックスに1件メールが入ってることに気づいて見てみたら、クッソムカつく顔したマスコットキャラクターみたいなやつが「ごめーんね☆」とかフキダシで謝る画像とともに、……まぁ要約すると「やっぱそのスキル強すぎたから消すわ! 口止め料は100万リベラルな!」という感じ。くたばれ。


 次2つ!! 大和村が"文字通り"半壊!!

 NPC共がみんな死んでる! とか家が燃えまくって壊れてる! とかじゃないのよ。文字通り半壊。およそ村の半分くらいのところが消えてる。真っ黒な地面と刀の柵で置き換えられてね! あ゛〜、十中八九ラセツが原因だな。てか後述の掲示板についてでそれだってわかったわ。


 最後に3つ!!! 掲示板まさかの利用不可!!

 半壊した大和村にやたら人が押し寄せてきてたのよ。それで前回のレイドの反省を活かし掲示板を確認。そしたらラセツが誰でも戦えるようになってるなんてスレを見つけた。ふざけんなよ、俺がどれだけ苦労したと思ってんだ。

 ……いやまぁ、今はそこじゃない。問題はラセツのレベルが上がってるってことだ。

 スレを見た何人か挑戦してったらしいが俺と同じく皆敗北。負けると経験値を取られる仕様らしく、ラセツのレベルは急上昇! 最後に見た81レベの頃から掲示板が完ッ全にバグってやがる! で、今何レベなのかは知らんがとりあえず何を打っても文字化け文字化け。「俺の本名は神代玲です」と打ち込んだら「菫コ縺ョ譛ャ蜷阪?逾樔サ」邇イ縺ァ縺」という素晴らしい変換を見せてくれた。ざけんな。


 というわけだ。

 一応ラセツと再戦できることはわかったからここまで練った作戦を実行すればいいと思う。……の前に

 まずはあそこに寄ろうかな。


 ◇◆◇


「い゛た゛た゛た゛た゛!゛!゛…………なんだ、糞餓鬼クソガキか」

「およそ数時間ぶり。ちょーっと用があって来た感じかな?」


「至高の刀」を作ったその人、魅せられし侍ラセツの親友。またはイベントのNPCである鉄朗くんの親父さんである。名前は……まだ聞いてないや。どうでもいい。


「さて、少しあんたの親友、ラセツさんについて教えてもらおうか」

「――!」


 親父さんの表情が見てわかるように変わる。


「……ラセツ、か。……いいだろう」

「よっしゃ来た。じゃあ早速だが、あんたはラセツに殺されてるんだよな?」

「あぁ、だが――」

「殺された感想としては? 何か感じたこととかは?」

「感じたことか……。やはりあの時のあいつは、あいつではなかった。断言できる。俺を斬ったのは、ラセツの姿をした別の怪物だ。きっとあの妖刀のせいなのだろう……」


 やはりな。一番よく知ってそうな人が「違う」って言うなら、俺のたどり着いた答え――あの「『魂喰』」の声とその後のモーションから推理した――が合っているという可能性が非常に高くなる。

 今までの作戦はそのが合っている前提だったから無駄にならなくてよかったわ。


「あの刀を、お前には駄作と言っただろう?」

「ん、あぁ、そうだな」

「あいつは俺の刀よりあの妖刀を選んだ」

「それはあの――」

「たしかにあの力のせいかもしれん。だがどんな理由があろうと俺の刀は負けたんだ。親友にすら拒まれた刀に、なんの価値があると言うんだ?」


 だから駄作ってわけか……。「至高の刀」より「妖刀タマグライ」を選んだから駄作……なら、


「じゃあ俺があの刀、傑作に変えてきてやるよ」

「何を言って……」

「俺がラセツにあんたの刀の方が良いんだぞーって全力でわからせてきてやるよ。ラセツがタマグライを手放すまでな」


 よーするにフルボッコにしてやるってこった。

 あいつ自身、あの刀のことは全部わかってるんだ。なら邪魔な妖刀をぶっ飛ばす。そうして「至高の刀」をあるべき場所に戻してハッピーエンドだ。


「ラセツがタマグライよりもあんたのやつを選んだら、それは傑作になるんじゃねえのか?」

「…………好きにしろ」

「おうよ、好きにしてくるわ」


 俺は墓石を後にする。

 去り際、あの顔はわずかに、だがたしかに微笑んでいた。

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