第38話 「至高の刀」
「これが親父さんの墓か?」
「そうです。それでは旅人さん、お願いします……」
日本の墓、そしてEXに必要なのは「至高の刀」。十中八九ここが正解だろう。
とりあえずはクエストを終わらせないと墓荒らしはできない。人が見てる前だから何されるかわからん。最悪村のNPC全員からフルボッコにされるなんてのもあり得るな……。
さてどうしたものか。会いたいだなんて言われても、別に俺は霊媒師だったりネクロマンサーだったりするわけじゃない。お札とかが用意する必要があったんじゃないか、これ? いや持ってないからわからんけど。
うーん、うーん。仕方ない、今持ってる唯一の策を実行するか。
「ほい、塩」
袋からつまんだ塩を、墓の上から振りかける。しっかり肘に当てて満遍なく。フフン、サングラスとイカした髭が欲しいところだ。
「い゛た゛た゛た゛た゛た゛!゛!゛」
あ、出てきた。ラッキー。
袴を身に着けた無精髭の男が現れた。ただし下半身はにょろにょろ。例えるならア〇ネーターの魔人。
「親父!!」
「その声、姿……まさか鉄朗か?」
「そうだよ! 親父、また会えるなんて……!」
ワーオ、感動の再開だね。じゃあ早く継承でもなんでもして鉄朗くんは帰ってくれないかな?
「俺、親父みたいな立派な鍛冶師になりたくて、でも俺には出来なくて……」
「そうか、お前も鍛冶の道に進んだのか。俺ぁそれが聞けただけで安心だ」
「でも、俺はまだまだ……。親父、俺に親父の打ち方を教えてくれ!」
「……いいだろう。鉄朗、今からお前に剣家に伝わる秘伝の鍛冶を継承する。覚悟はいいか?」
「もちろんだ!」
「よォし、まずは――
◇◆◇
あー、20分経過。
まーーだ会話してやがる。イベント1つに20分とか何考えてんだ!? いくらなんでも長すぎるだろゴラ。
「鉄朗さーん、おーい鉄朗さーん!!」
ダメだ全く反応しねぇ。なんだよ、叩くとか畳むとか叩くとか。何言ってるかさっぱりわからん。早く終われ。
「――――とまぁこんな感じなんだがな。結局のところ1番大事なのは何かわかるか? そいつぁ、「心」だ」
「心……?」
「そうだ。何かを、誰かを想って作る刃はどんな物よりも良くなる。がむしゃらにやっても意味は
「……ありがとう、親父。俺、いつかまたここに来るよ。その時には親父のための最高の刀、作ってくるから!」
「お前ならすぐに俺を超えられる、お前の刀を見るのが楽しみだ」
〚イベント:刀鍛冶の継承をクリアしました〛
よーうやく終わった。なんのためにこんな長いんだよ。
幽霊だか亡霊だか知らんが親父さんも墓の中に引っ込んだ。
「旅人さん、本当に、本当にありがとうございました! これから――
「うんうんがんばれがんばれ。それじゃあバイバーイ!」
「は、はい……」
鉄朗くんも村へと帰っていった。……さァて、
「うぉらあぁぁあッ!!」
〚称号:道外れし者にエフェクトがかかります〛
墓石を蹴り倒して早速墓荒らしよォ! およそ30分のストレスを解消させてもらおうかッ!!
「うぉぉぉい! 何してくれてんじゃこの小僧がァーーッ!!」
「親父さんおっすおっす。ちょっと墓ぶっ壊してるから待っててね〜」
「待てるか馬鹿ッ! さっき俺に塩かけてくれたのも貴様だな!? あれすーーっごい痛いんだぞ!?」
「アラー、ソンナコトゾンジアゲマセンデシター」
「てめッ……ぶっ殺してやる!!」
どこからか刀――それも村で見たような一級品――を取り出して斬りかかる!
俺は焦らず袋から塩を出し、
「おっと、俺を襲ったら成仏しちゃうぜェ〜?」
「貴様……ッ!」
「消えちゃったら鉄朗くんの刀は見れないよなァ?」
「……わかった。好きに荒らせ」
「よしよし、賢明な判断だ」
半泣きで墓荒らしを許可する親父さん。悪いな、文句はあんたの墓を正解の場所にした開発に言ってくれ。
スコップで墓下をしばらく掘る。さらに掘る。さらに掘って……
「ようやく出てきやがった。ゲットしたぜ、「至高の刀」!!」
それは誰が見ても完璧としか言いようがない、持てばそれがこの世のどの剣よりも優れたものであることがわかる。まさに「至高の刀」。
「そいつか、お前の探しもんは」
「そうだが――」
「捨てるなり折るなり好きにしてくれ。そいつぁ俺の1番の駄作だ」
駄作? この刀が? 明らかに1番出来がいいだろ。それともなんだ? エグいハイスコア出してもなお謙遜するクッソうぜぇ野郎なのか、お前?
「おいおい、流石にそれは――
「帰ってくれないか。そいつについて、話す気はない」
「お、おうよ……」
あからさまに不機嫌だ。何か嫌な思い出でもあるんだろうか。
その後も話しかけようとしたが、ずっとだんまり。諦めて帰ることにした。
◇◆◇
なんか後味は悪いが……とりあえず目当てのものは手に入れた。あとは「血塗られた戦跡」の出現を待つだけ――
〚1時間後にメンテナンスを開始します。リスポーン地点の更新をしてください〛
あぁー、アプデかよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます