第33話 全知降臨

 大人の人がピシッと決めるようなスーツ。顔全体を覆う黒の仮面は不気味や怪しいといった印象を与える。

 現れた……というのは少し違うかもしれない。

 もともとそこにいた、という感じがする。なんだこいつ、新しいモンスターか?

 名前は表示されていない。人間らしさは見た目からはあまり感じられない。

 プレイヤーではないな。なら次にやることは――


「初めまして、ゼロ様」


 !? 喋ったぞこいつ! まさかこいつがEXモンスターだったり……ッ!? いやそんな簡単なわけないか。じゃあ特殊イベント? それともショップだったり。


 様々な可能性を脳内で広げると、そいつは自ら正体を明かす。


「日頃よりリベルタス・オンラインをプレイしていただき、誠にありがとうございます。私はリベルタス運営の者なのですが……

「運営!?」


 ちょ、ちょ、ちょ〜っと待て待て。

 レイド終了、あり得ないダメージ、運営様が降臨。

 ここから導き出される答えは、そうひとつッ!


 BAN永久プレイ不可ってことか……!?


 いやでも俺はそっちの言う通りに「好きにプレイ」しただけだからね!? 何回も言ってるけど!

 いざとなったらこれを盾に……。よし、とりあえずこちらから先手を打とう。


「あの〜、偉大なる運営様がどういったご要件で?」

「本日はゼロ様のプレイに関して少し相談がありまして……」


 爽やかな声でそう言った。まずいな、中々に確定演出かもしれん。最強の盾すら無視されたらどうする……?


「まずは先日のレイドバトル、大変お疲れ様でした。ゼロ様の圧倒的な優勝は努力とプレイヤーとしてのスキルによるものということは、こちらで確認しております」

「は、はぁ……」

「しかし、あなたはあまりにも強すぎました。それこそゲームが崩壊しかねないほどに。我々運営がゼロ様を甘く見ていたことを深くお詫び申し上げます」

「それで俺はこの先どうなるんですか……?」

「バグが発生した当初、我々は確かに「好きにしていい」とお知らせしました。ですが、ゼロ様の前ではそれを撤回させてください」

「まさか……!?」

「あなたには、弱体化を受けてもらいます」


 !!!

 いやBANじゃないだけマシだけど。

 弱体化ナーフか……。どれくらいやられるのかわからんがとりあえずキツくなるぞ……! 気をつけろ!


「具体的には「重複するスキルの消去」と「『すり替え』など一部スキルの調整」の2つを次回のアプデで実施する予定です。ご理解のほどよろしくお願いいたします」


 つまり俺がレイドで使った戦法は完全に消されるというわけか。そして「調整」ってのはおそらく『躱撃解放』に適用されなくなったり、その他スキルも悪用ができないようにされたりするのだろう。

 プレイが致命的になるわけじゃあないが、楽して勝つということが今後できなくなるな……。

 ん? よく考えてみろ。ずっとあの戦い方ができたとしよう。それで新たなモンスターに遭遇してて、全部一瞬で溶かす。……それでいいのか?

 レイドの時は知恵を絞って根性出してようやく見つけた戦法だったからそこそこ楽しかった。

 だが、ここから先使うとなると話は別だ。既存のものの使い回しになる。……何もしないで掴んだものにはたして価値はあるのか?

 いいや、ないね。

 適当に無双した先にあるのは「虚無」だけだ。全能故の虚無。

 そんなもんなって溜まるかよ。


 今回の弱体化は俺がゲームをプレイするにおいて必要なものなのだ。

 進んで受け入れようじゃないか。


「わかりました」

「ありがとうございます。それでは――」

「少〜し待ってください。1つ、頼みたいことがあります」

「聞きましょう。こちらが迷惑をかけたのですから、そちらも得るものがないといけませんからね」

「次のEXエクストラモンスターの出現条件、教えてくれませんかね?」


 せっかくこのゲームに関しては全知の運営様と対面してんだ。この場面は有効活用しなきゃなァ!

 そもそもノーヒントで探してんだからほぼ運ゲーなんだわ。緩和くらいはさせてくれ。


「EXモンスター、ですか。それは流石に…………何をしているんですか?」

「何って、書き込みですけど」


 掲示板を開き、リベルタスのアンチが多く生息するスレッドに入る。

 そこに文章を書き込む。内容は――


「まず俺が「ゼロ」であることを公開します。それからレイドに優勝に至るまでの経緯を書き込み、最後には今起こってることを」

「……」

「このことがプレイヤーに知れ渡ったらどうなりますかねぇ? 明言された通りにやって、ぶっ壊れだったから修正に来るなんて身勝手なことしたらプレイヤーは黙ってないと思いますが。信頼も損ねますし」

「それに炎上したらその引き金になったあなたはどうなるでしょうかァ?」

「あぁ〜! あと数センチ指下ろしたら書き込みボタン押しちゃうな〜!」

「話しますから! 話しますからもうやめてください!!」



 もちろん、書き込む気なんて全く無かったけどね。

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