第19話 煉獄のデスマッチ

 俺が『リトルボム』を投げると、イグニスはスパッ! と剣でそれを一刀両断。地を蹴り続く2本目で俺の喉元めがけて斬撃!

 上体を反らし刃を避け、再び『リトルボム』。もちろん全て斬られた。

 双剣をフルに活用した連撃を俺に浴びせるイグニスり対して全て回避で避ける。勢いはすごいが少し単調だから読みやすい。

 うまいこと距離を取りながら牽制を繰り返した。


「ちょこまかと逃げ回って……! これはどうかしらッ! 『ソニックブーム』ッ!!」


 瞬間、俺の視界からイグニスが消え、そこそこあったはずの距離が一瞬で埋められる。


「『ブレイズツイン』ッ!」


 炎を纏う双剣が振り下ろされる。

 剣が俺の頭部に突き刺さる直前、イグニスの右手をパンッ! と弾き剣の軌道を変え、もう一本は


「『水鉄砲』! そしてぇぇぇ……」


 炎を水で消火し、触っても平気な状態にする。


「真剣白刃取りぃぃ!!」


 両手で剣を挟み、なんとか防いだ。

 スキルとか一切関係なく瞬発力でやったから成功するかわからなかったが、上手く行った。あっぶねぇぇぇ!

 昔テレビで見たのに憧れて少しだけ練習したのがここで役に立った……のかもしれない!


 剣からすぐ手を離し、俺が発動したのは『イリュージョン』。見えないところから確実に攻撃をいれる。『躱撃たげき』ポイントは今までの回避で十分に溜まっている。ここで一発でも入れれば『躱撃解放』が発動して大ダメージが入るはずだ。


 マントを被って身を隠すと、イグニスはあたりを血眼になって見渡した。

 そして俺のことを視認できないとわかると、双剣を地面に刺し、両手で印を結んだ。

 何やるのかはわからないが今がチャンスだッ!


「隠れられたら炙り出すまでよ! 『火炎煉獄陣かえんれんごくじん』、展開ッ!」


 奇襲をかけようとすると、イグニスを中心に凄まじい炎が円形に広がりリングを作る。そして地面がメラメラと燃え、地獄が完成した。


 スキルの効果がわからない以上、下手には動けない。奇襲を全力で中止した。

「展開!」の言葉からして、このスキルは一定範囲内に効果を及ぼすものなんだろけど、どんな効果だ? 隠れた敵を炙り出すって一体……と、思考を巡らすと


「そこねッ!」


 炎の斬撃が飛んできた! 切られたのは被っていたマントだけだったからギリギリセーフ。

『イリュージョン』を解除して、回避で少し距離をとる。


 外したマントを見てみると、なんと燃えている! なるほど炎の中から盛り上がっている所を斬ったわけか。


「この『火炎煉獄陣』の効果、冥土の土産に教えてやるわ! この炎はあらゆるスキルを焼き尽くす、あんたの姑息な隠れ技も全部よ!」


 試しにトランプを出してみるが、それと同時に端っこが燃え出した。

 考えろ、ここから逆転するための一手を!

 出会ってからほんの数分。それでもあいつの性格はおそらく……


「なぁイグニスさん、あんたは本当に強いよ。まともに闘ったら絶対に勝てないほどになります」

「何? ご機嫌取りでもしたいわけ? いくら褒めようと謝ろうと絶対許さないし……」

「だがな! さっき言った「冥土の土産に教えてやるわ」ってのは死亡フラグなんだぜッ!? それも油断して負けるような大馬鹿野郎のなッ!」

「なん、ですって……?」


 俺が取る行動は「挑発」。急に斬りかかったり人の話を聞かなかったり、あいつはかなり直情的な人間だ。つまりこの煽りに絶対乗る!


「断言するぜ。お前は死亡フラグの通りに俺に負ける! 何度でも言おう、お前は油断して負ける大馬鹿野郎だッ!!」

「てんめェェェッ!!!」


 イグニスのいた地面が抉れ、高速で移動したことを脳が処理するより前に俺の身体は地面へと叩きつけられていた。

 俺の喉元に右手の剣をセットし、馬乗りの姿勢になるイグニス。


「そんなに死にたいならブッ殺してやるわよ!

 あんたがリスポーンしてもすぐに向かって殺してやるわ。このゲームからいなくなるまで、あんたを殺し続けて…………何よ、それ?」


 俺に対する怨念の言葉を述べている最中、右手のシルクハットに気づいた。バカめ、もうお前の負けは決定したよ。


「『ハト』」


 半分ほど燃えたシルクハットから、真っ白なハトが飛び出す。

 しかし出てきた瞬間真っ赤な炎に包まれ、その姿はまさに火球。


「ポポポポーーッ!!! ポッポーッ!!」


 あまりの熱さにけたたましい鳴き声の絶叫を上げながら、ハトは暴れ出した。


「ちょ、何よこれっ!」


 ハトが向かってきたために、イグニスは手で振り払う動作をとる。使った手は右手。つまり、俺の喉元にセットされた刃は消えた!


「やるならさっさとやっておけばよかったなッ! だから油断して負ける大馬鹿野郎って言ってんだ!」


 思いっきり上体を起こし、イグニスへ急接近。右手を構える。


「これでも喰らって頭冷やしてきなッ!!」


 拳を顔面に向かって伸ばし、思いっきり殴った!!


 ぺしっ。


 ……鳴ったのはあまりにも弱々しすぎる効果音。

 困惑を顔に浮かべるイグニス。おそらくダメージは1、いやそれすらも通らなかったのだろう。

 だがそれで良い。俺の目的は攻撃を"当てる"ことだから。


 [ユニークスキル:躱撃解放が発動します]


 ウィンドウが表示され、赤黒い稲妻がバチバチッ! と拳から放出される。

 そしてバンッッ!!! と何かが破裂したような音と共に、イグニスはぶっ飛んでいった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る