第11話 一方その頃運営は……
プレイヤーネーム『ゼロ』がユグドラシルを倒す少し前――
「それでは〜、リベルタス・オンラインリリース&大ヒットを記念して〜……乾杯!!」
「「「「カンパ~イ!!」」」」
リベルタス・オンライン制作会社はとある居酒屋にて打ち上げを行っていた。
初日は予想以上に増えたプレイヤーとバグへの対応で大忙しだった。故に2日目の深夜に打ち上げである。
「いや〜。それにしてもすごいヒットですよねぇ〜。まだ2日目なのに売上500万ですよ?」
「当たり前だ。オレがディレクターやってんだからな。売れないわけがない」
「そんなこと言って、先輩リリース前日までエナドリ漬けで震えてたじゃないスカ」
「おまっ、それはな……!」
ワイワイとした雰囲気の中、酒や食事が運び込まれていく。そしてすぐに胃の中へ収まっていった。
「てかジョブ作んの大変すぎたわ。あそこまで多いゲームLO以外にないだろ。ってことで今回のMVPは俺たちジョブ班ってことで……」
酒が回ってきたところで男がそう言うと、別の男が反論した。
「んなこと言ったらシナリオ班だって大変だったぞ! ストーリーからサイドのどこまで全部こっちがやってんだ!」
「だったら私のモンスター班だって!」
少し険悪なムードになると、「まぁまぁ」と社長がなだめ、場の空気を戻した。
それからしばらくは各々がこの作品の作り込みやこだわりなどを語っていき、最後に渋顔の男が話した。
「俺が1番こだわったのは、やっぱりEXどもだなぁ」
「あの理不尽レベルのやつらスカ? クソゲースレッスレの動きして……よく作りましたよね……」
「でもそれ以上に「心」を持たせんのがよっぽど大変だった。例えばゆーちゃんだったら……」
「ゆーちゃん……ユグドラシルのことスカ」
「おうよ。優しいけどプライドの高い女性ってのを目指して作ったんだ。何日もかけて俺のイメージ像を教え込んでなぁ……。他にも――」
更に語ろうとする男を遮って、「みっ、皆さんっ!」と若い男が声を上げた。
「あぁん? 俺の話を邪魔するとは新人のくせに生意気じゃねえか」
「すいません……。でもこれ見てください! EXモンスターが……倒されました……っ!」
スマホの画面を全員に見せる。そ表示されているのはリベルタス・オンラインの掲示板。
そこには大量の「EXモンスター」に関する書き込みが。
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643 キムチ鍋
(画像)
この「EXモンスターが討伐されました」って何?
644 朝キラー
わからん。俺にも出てきた
645 かめきちじろう
>>644
俺も出てきてるわ
もしかして全員?
646 みるくて
他スレでもそれ話題になってる
たぶん全員に出てるわ
647 モウヤンカレー
全員っぽいな
EXってことはなんか特別なんかな?
とりあえず運営に問い合わせる
648 イグニス
EXモンスターって明らかに強そうじゃん
私も戦ってみたいんだけど
649 なつまる
>>648
流石イグニスネキ
戦闘狂は視点が違うわ
650 ジークフリート
わからんことは運営待つしかないわな
651 配信者テム
もしかしてイベントの布石だったりする?
だとしたら早すぎないか……?
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沈黙する一同。最初に口を開いたのは、渋顔の男――もっともこのことにショックを受けた者だった。
「ちょ、ちょっと待てよ! 俺そんな簡単に出せて倒せるやつ作ってないんだけど!? 暇人しかやらない出現条件つけて、難易度も爆上げして、リリースから半年くらいしてようやく討伐報告が挙がってエンドコンテンツお披露目! みたいにやろうと思ってたんだけど!?」
「の、予定だったんですが……。2日目でもう倒されちゃいましたね……」
「流石におかしいだろ!? なんだ? チーターか? チーターなのかッ!?」
「おっ、おちついてください! そもそもこのゲームのセキュリティを突破できるハッカーなんて存在しませんよ!」
その後はこの話題が中心となった。
海外のプロゲーマー。丸2日間プレイしていた変態。どこかのデバッガー。ありえないほど凄腕のハッカー。
EXモンスター討伐について、様々な議論が交わされた。
◇◆◇
打ち上げ終了し、メンバー全員が帰宅した後。社長はひとり、リベルタス・オンラインのサーバーへと向かった。
目的はもちろん、EXモンスターを討伐した謎のプレイヤーを調べるためだ。
何重にもかかったパスワードを打ち込むと、リベルタス・オンライン全てのプレイヤーの情報が表示される。
名前、レベル、ステータス、ジョブ、討伐モンスター。何から何までそこにある。
その中の討伐モンスターを表にする。
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迷宮樹帝・ユグドラシル ゼロ Lv0
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「これは……」
エンドコンテンツの理不尽を2日で討伐したプレイヤーの正体。それはバグによってレベルが0となったプレイヤーだった。
それに驚きつつも、社長は怪しげな笑みを浮かべてつぶやいた。
「ゼロ、か……。フ、面白い……」
◇◆◇
一方その頃その『ゼロ』は……
「全ッ然前に進まねぇぇぇぇぇ!!!」
爆発しながら叫んでいた。
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