第10話 EXシナリオ:迷宮樹帝の誘い 4

 俺が取り出したもの、それは!


「『トランプ』」


 4種類の柄に各13枚ずつ。計52枚のカード。紛れもなく我々の遊ぶトランプである。


 一瞬困惑するも、攻撃を続けるユグドラシル。

 何回目かわからない岩を避けたところで俺はトランプの1枚を飛ばした。

 カードというものは案外飛ぶものなのだ。昔テレビで見たプロの投げ方を鮮明に思い出しながら投げた。

 回転しながら真っ直ぐ飛んでいくトランプ。

 それに気づいたユグドラシルが根を使ってトランプを弾き……というところで

 トランプは左にカーブを描いた。手首の動かし方でトランプの飛び方はかなり変わる。


 そして根を避け見事ユグドラシルの頭上へ。今だッ!


「『チェンジ』ッ!!」


 指をパチンと鳴らすと近くにあった岩とその位置が入れ替わった。ちなみに指なんかならず必要はない。「ステータス・オープン」同様形から入るタイプなのだ。

 ドーン! と土煙をたてて岩が落ちる。ギリギリ当たっていないようだ。ならばッ!


 根を掻い潜り岩を避け、次々とトランプを投げた。全てに少しずつ違う角度をつけて。


 十数枚がユグドラシルに到達したところで俺は指パッチンの手を作る。

 1個は必ず当たる。俺の勝ちだッ!!


「これで終わりだぜ。『チェンジ――


 指を鳴らす直前、腹部に重い衝撃が走る。

 そしてそのままぶっ飛ばされて身体のコントロールは無くなった。


「なん……ッ」


 視界にHP表示のUIが現れ、HP:0/1を表示した。

 ついに俺はダメージを受けてしまったのだ。

 ……チクショウ。最後の最後で慢心して気ィ抜いて俺は死んだゲームオーバーしたのかよ……!

 あークソ……。悔しすぎる。

 あと一歩で俺の勝ちだった。だからって調子こきやがって……!


 意識が暗くなっていく中、色んなウィンドウが現れたが、自分への怒りと悔しさで何も読めなかった。


 ◇◆◇


〚デスペナルティ:全ステータス -10%〛


 ……あーあーお久しぶりですデスペナウィンドウさん。

 イキってくたばった自称ゲーマーさんが会いに来ましたよ……っと。


 見慣れた木々の配置。1時間ぶりくらい? の初期リスに帰ってきた。


 さてさてあのユグドラシル。もう一回やればきっと勝てる……だが再挑戦は不可能だ。最初に書いてあったな。


「はぁぁぁ……。クソがあぁぁぁ…………」


 クソデカため息をついた時、自分の右手に何かが握られているのに気づいた。

 見ると見覚えのある黒色の枝。なんだこれ…………まさかッ!?


〚EXアイテム:ユグドラシルの枝〛


 ウィンドウにはそう書かれていた。

 間違いない。ユグドラシルとの戦闘に勝利すると貰えると書いてあったあのレアアイテムだ。

 つまり……俺はユグドラシルに勝利したのか……?

 いやでも俺は死んでここに戻ってきてるわけだし。


 ……まさかあの時の『チェンジ』は発動していたのか?

 それなら俺が死んだ後で岩が落ちて、ユグドラシルも死ぬ。

 するとあのウィンドウはキルログ……うん、これなら納得がいく。


「引き分け、か……」


 お互い負けたなら、そう言うのが適切だろう。


「……ん、そういえばコイツはなんのためにあるんだ?」


 俺は手に持ったユグドラシルの枝に視線を向け、アイテムの詳細を表示した。


 --------------------------------------

【ユグドラシルの枝(EX)】

 所持することで効果発動


 1秒につきHP1%回復

 回復魔法の効果50%上昇

 所持者によってその他効果付与

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 自動回復に回復強化。回復特化のアイテムか。

 持っていて損はないように見えるが……


「俺のHP1だからなんの意味もねえじゃねぇかッ!」


 毎秒5%回復しようが1発食らった瞬間死ぬし、回復魔法も持ってねえ!

 所持者によってその他効果付与とか正体わからん以上運ゲーだし!


 はぁ……。あの寿命削る激闘の末に手に入れたのは俺にとってのゴミだけかよ……。


 ……いや、それだけじゃないな。

 あの戦闘自体に価値があった気がする。

 速すぎる動きに一発もらったら即死。

 理不尽極まりなかったが、それでも楽しかった、気がする。

 うん、今までやってきたゲームの中でも有数の楽しさだった。


 あのEXシナリオってのは、あれひとつだけじゃないはずだ。まだ何個も残っているだろう。

 ならッ!


 今度は引き分けなんかじゃなくて、俺の勝利で終わらせてやる。

 この圧倒的自由、リベルタス・オンラインで俺は、EXシナリオを全て攻略してみせるッ!

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