第9話 EXシナリオ:迷宮樹帝の誘い 3
「煙幕とは……小癪な真似を……ッ! まぁ、そんなもの無意味ですがねッ!」
ユグドラシルは更に木の根を増やし、爆発音と黒煙が上がる部分をやたらめったらに突き刺し始めた。
もはやこのフィールドに安全地帯は殆どない。
一瞬たりとも隙がない攻撃を、俺は傍観していた。
……傍観出来るような安全地帯なんてないはずだぞ! と思ったそこの君! 残念ながら俺は「殆どない」としか言ってない!
じゃあその安全地帯はどこかって?
答えは簡単。
俺はスキルの効果を解き、
「どうもどうも〜」
ユグドラシルの肩をちょんちょんと続きながらにこやかに言った。
そうッ! 安全地帯はここ! 飛んでいったハトが手ではたき落とされた、ユグドラシルのすぐ近くだッ!
爆発で気をそらし、俺は『イリュージョン』の透明状態でユグドラシルに近づいていったのだ!
木の根を自由に使えるユグドラシルがハトに対してそれを使わなかった理由。それはそこまで根を動かすことが不可能ということだッ!
メタ的なことを言うと、根を掻い潜って近接でぶっ叩くのがこいつとの戦闘の流れになるようにプログラムされているからだな!
「さ〜て、憎い相手はすぐ目の前。お得意の根っこは射程圏外。覚悟はできてるよなァ?」
俺はありったけの力を込め、その美女顔をボッコボコに殴ってやった。
フハハハやってやったぞッ! 超爽快! こいつもぶっ倒したからレアアイテムゲット! そう俺はこいつを倒した……倒して……
全力でで殴りまくったはずのユグドラシルはムクリと起き上がった。
「あれ……。痛く、ない?」
倒してねぇじゃねえかッ! クソッ! 何故だ!? 何故なんだ……あ、
俺の
完ッ全に忘れてたわ……。自分のデバフくらい把握しとけよ。
クソッ、『リトルボム』で爆発させときゃよかった……。そもそも……
自らの失敗にセルフ反省会を開いていると、
「まさか、手加減でもしたと言うのですか……ッ?」
なんとも的はずれなことを言ってきた。
「私なんかに本気で殴る必要はないとでも言いたいのですかッ!!」
「いやいや待て待て。俺はな……」
「いいでしょう……そんな舐めた事、二度とできない体にしてやりますッ!!」
「おーい、人の話……」
「あなたには私の全てをぶつけますッ!」
俺の言い分を一切聞かずに、勝手にブチギレ、本気出すとか言い出したユグドラシル。
体から光を放ち、姿が変わっていく。
美し過ぎる深緑のドレス。恐怖さえ覚える真っ黒な眼。
背後のの根は黒く、より太くなり、「殺意」の一言に尽きるものへ。
第2形態といったところか。
おいおいどうすんだよ……。さっきの攻撃すら避けるのキツかったのに更にパワーアップとか無理ゲーだろ。
……だが、難易度が上がれば上がるほど燃え……あぶねっ!
根の攻撃が飛んできた。避けれたものの、耳の1ミリもないところを通っていった。
動きに違いはないものの、速度が段違いになっている。これがあと何本あることやら……。
てか独白の時間くらいよこせ。
超スピードで根は飛んでくる。それを全て超ギリギリで回避する。
集中力切らした瞬間、
しばらく回避を続けると、攻撃の手がピタリと止んだ。
束の間の休憩タイム……なんてことはない。攻撃パターンが変わったのだ。
根を硬い地面に突き刺し、岩を掘り起こす。
それを器用に俺の方へ投げてきた!
「――ッ!」
すんでのところで岩を避けたが、避けた先には根。
それを踏みつけジャンプで避けるも目の前に岩。上体を思いっきり反らして避ける。
岩、根、岩、根と避けても避けてもキリがない。しかも岩に関しては視界外から来るから予備動作も見えない。圧倒的瞬発力ゲー。
そんなだから近づくことは不可能だ。
超火力の遠距離武器とか持ってたらなぁ……。
避けながらわずかな思考でそんなことを考えていると、投げられ地面に転がった岩が目に入った。
……これだ!
さっき手に入れた『チェンジ』のスキル。ようやく活躍する時が来たぜ!
適当な物をあいつの頭上にぶん投げて岩とチェンジ。岩が落ちて大ダメージ! 完璧な作戦……じゃねえな……。
俺の近くにある投げられるものはそこらへんの小石くらい。だが投げたところで全て根に弾かれるだろう。
あークソ。せっかくいい作戦だと思ったのに。
ユグドラシルの頭上まで飛ばせる弾かれないもの……あるわけない……
いや、あるかもしれない……!
閃いた瞬間、俺はシルクハットからある物を取り出した。
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