第8話 EXシナリオ:迷宮樹帝の誘い 2

 YESを選べば「全プレイヤー」が雑魚敵しか湧かないフィールドで戦えなくなる代わりに、加護とやら――たぶんメリットのある効果だと思う――を受けられる。

 NOを選べばこいつと一度切りの戦闘が出来て、勝てば「俺1人」がレアアイテムゲット。

 なるほど安全に全体の利益を取るか、リスクを冒して自分だけの利益を取るかということか。

 てか全プレイヤーが戦えなくなるとか、俺の選択ひとつで影響出すぎだろ。何百万いるかわからんプレイヤーに影響与えられるとか怖すぎるわ。


 ……まぁ、ここはYESを答えたほうがよさそうだな。

 ユグドラシルは見た目こそただの美女だが、感じる雰囲気というかなんというかが只者じゃない。ラスボス倒してからのエンドコンテンツくらいのオーラを醸し出している。


「さぁ、どうしますか?」


 ユグドラシルが選択を迫る。

 俺は大人しく提案を受け入れ……る前に……。


「ひとつ、質問いいか?」

「なんでもどうぞ?」

「さっき俺が東に進めなかったの、お前のせいか?」


 俺が聞くと、ユグドラシルは悪びれる様子もなく答えた。


「えぇ、そうですよ? 森から出られると話ができなくなるので……それがどうかしましたか?」

「…………そうか……」


 俺は思いっきり息を吸った。


「ふざっけんじゃねぇぞこのクソ野郎ッ! 俺はなァ! このクソ縛りの中で一生懸命プレイしようとしてんだよッ!」

「なっ、なにを……」

「なのにお前はそれを妨害してきたッ! しかもモンスターがやられて可哀想とかいう理由でなッ! モンスターなら大人しくプレイヤー様にやられて当然なんだよ! な〜にが「残念でなりません」だゴラァ!」


 森から出れないことへのイライラの矛先を全てユグドラシルに向けた。

 うん、叫ぶと人間スッキリするもんだな!


「それは……私の提案を断るということで、よろしいのですか?」

「あぁもちろんだ。NOで答えちまえばお前と戦えるんだろ? せっかくだからお前の顔面に拳ぶち込んでボッコボコにしてってやるよ」

「まさか、この私に勝てるつもりで?」

「勝てる勝てないじゃなくて、勝つ。そう宣言したんだ」

「舐めた口を……ッ! その軽口、二度と叩けなくしてやるわッ!!」


〚EXモンスター:迷宮樹帝・ユグドラシルが現れました〛


 ユグドラシルの背後から太い木の根が何本も生えてきて、俺に襲いかかってきた。戦闘開始ってわけか。

 俺は襲いかかる幹を『ローリング・ボミング』で上手いこと躱しながら、少しずつユグドラシルに近づいていった。一撃食らった瞬間死ぬって思うと集中力は一気にあがる。

 そして投擲の射程圏内に入ったところでシルクハットから爆弾を取り出した。


「『リトルボム』ッ!」


 だが爆発はユグドラシルに届くことはなかった。

 根が『リトルボム』を撃ち落とし、防がれたのだ。クソッ、こいつをどうにかしないとまともに戦えそうにないぜ……。

 攻略方法を考えながら俺はひたすらに避け続けた。


 ◇◆◇


 戦闘開始からおよそ20分。

 攻撃のパターンは大体読めた。『ローリング・ボミング』で大きく距離を取る必要はなくなった。

 だからといって勝ち筋が見つかったわけではない。

 あの根を退かすためには……。ためしにやってみるか。


「いけッ! 『ハト』! そして『リトルボム』!」


 真っ白のハトがシルクハットから飛び出す。その数50羽!ハトと同じ数の爆弾を取り出し、ハトに乗っけて飛ばした。

 導火線に火がついた爆弾を背負ったハトは、慌てて色んな方向に飛んでいく。そしてユグドラシルに近づくものは全て叩き落され、爆死した。

 しかし1羽、全ての根をかいくぐってユグドラシルの目の前に辿り着いたハトがいた。パニック状態で、動きが読めないから落としづらいのだろう。

 まあこいつもダメージが通る前に叩き落されるんだろうな……と思ったが、

 ユグドラシルは何故かそれを

 ハトはユグドラシルから少し離れたところで爆破した。


 ……なーるほどな。これは行ける気がする……!

 俺はユグドラシルを指差し、余裕の笑みを浮かべて宣言した。


「おいデカパイ女!」

「デカ……ッ!?」

「もう俺の敵じゃあねえッ! すぐにその顔面にグーパンぶち込んでやるよッ!」

「お前なんか、ですって……ッ? この女王である私にですってェェェ!?」


 みるみるうちにユグドラシルの顔が赤くなっていく。

 そして半狂乱になり、更に根を増やして全てを俺にぶつけてきた。

 だが怒りに任せた攻撃というものは、実に単調だ。狼男たちの方がまだいい攻撃してくるぜ。

 今まで以上に避けやすくなった幹に、0.2秒の無敵時間を被せてその攻撃を無効化する。少しずつユグドラシルへの距離を詰めながら。


 そして良さげなところで爆弾を取り出し、上下左右色んな方向にポイポイと投げた。


「『リトルボム』『リトルボム』『リトルボム』『リトルボム』『リトルボム』ッ!!」


 至るところで爆発音が鳴り、辺り一帯が黒煙で埋め尽くされた。

 さァて、俺を森に閉じ込めたクソ野郎に一泡吹かせてやるとするかッ!


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