第7話 EXシナリオ:迷宮樹帝の誘い

一度ログアウトして、翌朝から地獄に地獄を重ねてようやく習得した『ローリング・ボミング』は、ビックリするほど速かった。

 上手くやれば、一回で今までの回避の十数倍の距離は飛べる。まだまだ上手く飛ぶ方法は模索中だが。

 一応の弱点として、方向の調整が難しい点がある。

 だから俺は右や左に飛んでいき、超ジグザグに街へ向かっている。


 まあこれも悪いことばかりではない。

 使ってるのはもちろん攻撃スキルだから、俺の近くにいるモンスターは全員吹き飛んでいく。そして倒した分の経験値も手に入る。

 お陰でスキルがここまでで2つ手に入った。

 ひとつは『チェンジ』。近くにあるもの同士の場所を入れ替えることが出来る。ただしプレイヤーやモンスターには使えない。

 もうひとつは『トランプ』。名前の通りいつでもトランプが出せる。今のところ使い道は全く思いつかん。たぶん一生思いつくことはないだろう。


 というわけで現在頑張って街に向かってるはずなのだが……。


「おかしい、全く東に進んでねぇ……! もう1時間以上は爆発してるぞ。どころか街から離れてるじゃねえか……」


 ハジマーリのある東とは真逆。西に進んでいるのだ。

 バカな。いくら調整が難しいとはいえ、ここまでそれるわけがない。

 バグ……というのは考えづらい。そんな簡単にバグがいくつも起こせるならとっくにデバッグの段階でわかっているはずだ。

 ならば仕様か……? いや他のプレイヤーは既に森抜けてるんだが……。


「あークソッ! 意味わっかんねぇマジで! なんだ? 俺が知恵振り絞って見つけた技は使わせねえってか!? 何が「圧倒的自由」じゃボケ! そんなこと言ってるなら俺のプレイくらい……ん? なんだこりゃ?」


 俺の中のゲージが振り切れ発狂に近い状態になっていると、ピコンという効果音と共に、黄色に光るウィンドウが現れた。


 〚EXエクストラシナリオ:迷宮樹帝ラビリンス・エンプレスいざない 出現条件:ラビリンス・フォレストのモンスター999体の討伐〛


 EXシナリオ? なんじゃそりゃ。

 EXもなにも無印のシナリオすらまだ踏んでない俺にはわからんが、出現条件とか書いてあるのを見るに、恐らく一定の条件を満たすとできるイベントみたいなものだろう。それもキツめのやつ。


「ようこそおいでくださいました」


 背後から女性の声。システムボイスの機会音声じゃない。人間味のある声だ。

 振り向くと、ギリシャ神話のような服装をした、白髪の美女が、立っていた。

 透き通るように白い肌と宝石のような翠眼すいがんは、彼女が人間よりもっと上位の存在であることを感じさせた。そしておっぱいも上位的。いいね。

 唐突に現れた美女に俺が困惑していると


「私は迷宮樹帝ラビリンス・エンプレス・ユグドラシル。このラビリンス・フォレストの女王です」


 ご丁寧に自己紹介をしてくれた。

 こいつ、今までのモンスターとは違う。自分で考えて喋ってるみたいだ。


「それで、その女王様がどうして俺を呼び出したんだ?」

「実は、ゼロ様にひとつ、ご提案をさせていただきたいのです」

「提案?」

「はい。ゼロ様は今までに私の子供たちを何百と殺めてきました。女王である私としては、非常に残念でなりません。そこで……」


 ユグドラシルは俺の前にウィンドウをひとつ表示した。


「これ以上の殺戮行為を中止していただきたく存じております」


 表示されたウィンドウには、選択肢があった。


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 【迷宮樹帝の提案を受け入れますか?】


 YES・・・全てのプレイヤーは『ラビリンス・フォレスト』のモンスターとの戦闘が不可能になり、迷宮樹帝の加護を受けます。


 NO・・・迷宮樹帝・ユグドラシルと戦闘になります。 勝利した場合、EXアイテム:ユグドラシルの枝を入手することができます。 ※再挑戦不可


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