第6話 最速移動 ローリング・ボミング

 『リトルボム』の攻撃判定は、ダメージと爆発の二段階でできていて、ダメージが入った後に一瞬遅れて爆発の吹っ飛びがある。

 スライムやゴブリンのような一発で倒せるモンスターは吹っ飛ばず、狼男ワーウルフは吹っ飛んだ理由はこれだ。

 つまり、移動に使える!


 え? 何言ってるかわからない?

 それじゃあこれから俺の天才的最速移動法のレクチャーをしよう。


 1、『リトルボム』を自分に投げて爆発させる

 2、それをうまいタイミングで回避する

 3、回避無敵時間の中にダメージ判定、途切れた所に爆発判定を被せる

 4、爆発の吹っ飛びで大ジャンプ!


 理論上は可能なこの技。

 回避アルマジロの何倍も速い移動方法になるだろう。

 これで街への時間も大幅に短縮できる。

 名付けて『ローリング・ボミング』!

……そこ! ダサいとか言うなッ!


 思い立ったら即行動!


 早速自分に『リトルボム』を投げ、回避をした。


 ◇◆◇


 〚デスペナルティ:全ステータス -10%〛


 ……まぁ最初から上手くいくわけ無いよなぁ……。

 今回は回避のタイミングが一瞬遅かった気がする。

 何回か練習した方が良さそうだな。

 デスペナルティのステータスダウンも俺には大して関係ないから、何度死んでも特にデメリットはない。

 さぁもう一回『リトルボム』だ!


 スキルを使おうとした時、今いるところが見覚えのあるところだと気づいた。

 いやどこも森なんだけどさ、なんか木の位置とかそういうのが見覚えあるんだよなぁ。

 ……まさかッ!!


 俺は慌ててマップを開いた。すると、

 数センチほどハジマーリへ近づいていた俺のアイコンは、元の位置に戻っていた!


 なんてこったチクショウ。

 セーブしてないせいで、死んでから初期リスに飛ばされたってわけか……。


 ……なってしまったものはしょうがない。

 どうせこの移動方法さえ身につければ、今まで歩いた距離なんかすぐに取り返せる。

 もっと練習を重ねて、この技をモノにしてやるぜ。


「よし、今度はもう少し早めに回避してみるか。『リトルボム』ッ!」


 投げた瞬間に回避。

 すると今度はダメージを受けておらず……だが吹っ飛んでもいない!

 吹っ飛ばなきゃ意味がねぇんだわ。

 今よりももう少し遅く、かつ遅すぎず早すぎず……判定シビアすぎだろこれ。

 まぁ俺が自らそのシビア判定に挑戦してるんだけど……。


「遅すぎず、早すぎず。ダメージだけ無効化し、爆発だけ受ける。よし、いけるぞッ! 『リトルボム』!」


 〚デスペナルティ:全ステータス -10%〛


 ◇◆◇


 爆発&ローリングの地獄を繰り返すことおよそ1時間。


「『リトルボム』、そして回避ッ!」


 自分に爆弾を投げ、着弾のほんの一瞬手前で回避。何度繰り返したかもうわからない行動。周りから見れば完全に意味不明である。実際近くを通った他プレイヤーはモンスターと勘違いして逃げたり、写真を撮ったりしていた。

 そして爆死かノーダメというのが今までの流れだったが……。

 今回は違った。


 ダメージはない。それに気づいた瞬間、身体が宙に浮かぶ感覚。

 視界は森の木々を置き去りにし、数秒後に身体はドガッ! と音を立てて元いた場所の十数メートル先に落下。

 ついに、ついに成功したのだ……ッ!

 この地獄から抜け出したのだ……ッ!!


「いよっしゃあぁぁぁ!! 見たかお前らッ! 「理論上可能」を完全なる「可能」に変えてやったぜえぇぇ!!」


 お前らなどと言っているが、ギャラリーなんてものは誰ひとりとしていない。

 今たまたま誰もいないというわけではない。

 練習開始からしばらくしてここを通る人は殆どいなくなった。きっと掲示板で「ここにはヤベー変態がいるから近づくな」とか言われてんだろうなぁ……。


 さて。この『ローリング・ボミング』だが、まだ一回しか成功していない。

 完全に感覚を掴みきれていないのだ。

 ならやるべきことはッ!


「マスターするまでとことんやってやるぜゴラァァッ!!」


 俺は再び地獄へ戻ることにした。

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